第40話先は見えずとも平らな道は無し(2)
明確に答えず話を逸らした私をどう思ったかは分からない。
けどシュティン先生は特に追及する事無く講義に戻ってくれた。
「ラーズシュタインには「登録された特定の魔力以外の魔力で構築される隠蔽等の魔法を除く」という特性を組み込んだ【結界陣】を発動させている。これらは【隠蔽】【偽装】【変装】など様々な姿かたちを変える魔法を除く仕様になっている。例えこれらの魔法で姿を変えていたとしても、結界内に入った途端解除されて本来の姿が現れる事となる」
「ワタクシは魔力の登録などした事がありませんけど? 多分されていますわよね?」
「されない訳は無いと思うが? 生まれてすぐに登録しているのだろう。創られる【結界陣】によって登録方法が違うからな。どうやったかは知らないが」
「私の創ったモノは事前に登録出来るようにしておき触れるだけだ」と言った先生は登録起動状態を分かりやすく見せてくれた。
銀色に輝く魔道具。
これが事前に登録できる状態って事らしい。
後はこれに触れれば登録完了で【結界陣】を発動しても登録した人は排除されないって事になる。
あ、後特定の条件下では入る事の出来ない結界とか扉とか、あれも付加錬金術で疑似的にならどうにか出来るらしい。
ダンジョンとかに関しては私達人間の領域じゃないらしくて、一定以上の力を持った人間しか入る事の出来ないダンジョンとかは本気で存在する、らしい。
あれを完璧に模する事を錬金術でどうにかする事は出来ないし、勿論魔法でどうにかする事も出来ない。
それが出来る魔道具なんて神器とか呼ばれる類のモノになると思う。
けど疑似的になら出来なくはない。
今の所開発されている付加錬金術のレシピにも似たようなモノは存在している。
ただ、まぁあくまで疑似的だし正確ではない、らしいけどね。
スッゴイ大雑把に「男性」「女性」とか魔力量が一定以上とか、その程度の区別が出来る程度なんだよね、出来るのって。
登録された魔力以外で隠蔽魔法等を排除するっているのは此処に分類される。
まぁ付加錬成レベルが低ければ見逃される事もあるみたいだけど。
そこらへんは付加錬成出来るキャパと相談って事になる。
「我が家の場合最高レベルですわよね?」
「だろうな。あれでいてオーヴェは最高位の錬金術師だ。しかも創造錬金術も付加錬金術も手を抜かずに修めている」
「ならば見逃される事はない、と考えても宜しいと?」
「ああ」
そっかぁ。
見逃される事は無いのかぁ。
じゃあフェルシュルグはどうにかして魔道具を「誤魔化している」って事になるのか。
「魔法が無理となると物理的に髪を染めたりなどは出来そうですけれど」
「平民が手を出せる程安くねぇぞ? ああいった変装用の染粉は」
「……やっぱり、そうなんですのね」
おしゃれで髪を染めるという発想はこの世界には無い。
『カラコン』も存在しないだろう。
この世界では神々の色を纏い生まれる事は『地球』で言う祝福に近い。
特に貴色を纏い生まれたならばそれを隠すって発想自体生まれないのが普通だ。
逆に貴色を纏ったように偽る事も判明すれば重罪となる可能性がある。
まぁ貴色の人間が目立たないために隠す事は問題ないけど。
そうじゃなければシュティン先生が罪に問われちゃうもんね。
貴族の御忍びの場合なんて、一時的に隠すのが当たり前だし。
だからか髪を染める染料とかはかなり高額になる。
はっきり言って貴族ぐらいの財源がないと無理だと思う。
後は錬金術師が自分で作るか。
その場合も売ったら材料費とかの問題でかなり高額になってしまう。
結局平民には高くて手が出せないって事になっちゃうんだよね。
「魔法もダメ。物理もダメ。……では【結界陣】という魔道具を掻い潜り姿を偽る事は不可能と言う事になるんですか?」
じゃあフェルシュルグの「あれ」は見間違い?
……うんん、そんなはずがない。
だって確かに私は視たんだから。
彼の姿がブレて違う色彩の男性がダブる所を。
最初は魔力を薄く纏っているのが見えた。
それだけでも珍しいから、今度はその魔力の流れをよく見ていた。
そうしたら彼の姿が一瞬ブレた気がした。
妙な動きをしたのかとも思ったけど、動かずにいる事には変わりないようだったから、もう一度視ていた。
そして確信を得た。
何かしらの手法を使って彼が姿を偽っている、と。
ブレた先に本来の色彩が見えた気がした。
よくよく考えてみれば私はシュティン先生との初対面の時、先生の本当の眸の色を見破った。
もしかしたら私の【精霊眼】は何かを「見破る」要素を持っているのかもしれない。
確証は無いし、そもそも【精霊眼】を手に入れる前の段階だったから、私本来の魔力の性質みたいなモノなのかもしれない。
けどそこらへんは取りあえずどうでもよくて、私が今重要視するのは「フェルシュルグが姿を偽っている」事だ。
だって偽りの姿の先の本来の姿は、私を害した男と同じ色彩の取り合わせだったのだから。
顔立ちに関しては私一人の発言を注視してくれるか、五分と言った所だと思っている。
あの時私は公爵家の人間として登録されていなかった。
あの場において私だけが発言力を持っていなかったって事だった。
更に言えばあの事件の被害者として眠りについてしまったから「そう思っただけではなかろうか?」と問われれば、それが通ってしまう可能性もある。
けど……あの時顔を見ている人間がもう一人いる――お兄様だ。
お兄様は既に【属性検査】を終えていた。
つまり発言力を有している。
だからお兄様が「是」を返せば、調査対象となる。
そうなってしまえば此方が圧倒的有利になる。
だって何かを仕込んだ物的証拠ともいえる「魔道具」を此方が確保しているのだから。
魔道具は作り手である錬金術師の色が出る。
特に創造錬金術によって錬成された魔道具は核が存在していて、その魔力は創り出した錬金術師のモノで構成されている。
だから証拠として確保している魔道具と容疑者である彼を調べれば、悪意を持って仕込みをした魔道具の作り手が分かるんだ。
……つまり犯人が誰なのか分かるって事だった。
実行犯を捕まえて、その結果マリナートラヒェツェの傍付きの男だったら?
そこから切り崩す事は不可能ではない。
これは待ちに待った私にとっての好機だった。
「(ん、だけどなぁ。まさか此処で我が家の堅牢な『セコム』が道を阻むなんて)」
堅牢である事は喜ばしい事だと思う。
この気持ちに偽りはない。
ただチャンスが空振りに終わっただけ、なだけで。
別に魔法で偽っている可能性はゼロじゃない。
けど、そうなるとフェルシュルグはお父様以上の錬金術師かお母様以上の魔術師って事になる。
あの年で? って思うし、そんな人間がマリナートラヒェツェに居る理由が分からない。
はっきり言って、あの家に終生仕える、なんて奇特な人間がいるとは思えない。
それくらい評判悪いし。
結構誇張されて流れるはずの評判や噂がほぼ間違ってないって言うとんでもない話だし。
お父様やお母様以上の高位の人間が仕えているとか考えられない……というか考えたくもない。
「(それに、彼は心から仕えているようには見えなかった。多分「貴族」自体をあまり好んでいないように見えた)」
その中でも私を特に恨み憎む理由は今の所分からないけど。
まぁ高位の錬金術師じゃないとなると、じゃああのブレた姿は何だったんだ? って話になっちゃうんだよねぇ。
「魔法でも無く魔道具でも無く、勿論物理的でも無い方法で姿を偽る事は不可能ではない」
「……一体どんな手法があるんですの?」
魔法でも無く錬金術による魔道具でも無く、物理でもない方法?
スキルかな? と一瞬思ったけど、スキルは確か魔法と似たような性質だったはず。
確かにスキルは魔法では成し得ない効果を発揮する事も多々ある。
武術の所謂【技】なんかはそうだろうし。
けど基本的に魔法で防ぐ事の出来るモノはスキルも防ぐ事が出来るはず。
いや、さっきも言った【技】なんかは魔法攻撃を防ぐ守護結界なんかでは防げないけど、そこらへんは物理攻撃の打撃と同様の扱いになる。
だからあえて言わなかったんだけど。
他になんかあったっけ?
「後一歩足りてないようだが……忘れたのか? 【スキル】には二種類ある事を」
「……あっ!」
そうだ。
ああ、そういえばそんな話があったあった。
スキルには凄く大雑把に二種類に分けられるんだった。
より正確に分類するともっと増えるけど、取りあえず大まかに二種類で言い表す事が出来る。
「【汎用スキル】と【個別スキル】の事ですわね」
「ああ。【個別スキル】は別名【ゼルネンスキル】とも言われる特殊スキルで取得方法、修練方法、全てが今だ研究中であり、存在している事だけが明らかになっているスキルだ」
そう、だから【スキル】というと普通は汎用スキルの事を指す。
だってゼルネンスキルは取得した本人しか分からないし、他の人が知るにはステータスを開示してもらわないといけない。
このスキルを取得するとステータスの表示が少し変わるらしい。
多分表記が変わるんだと思う。
二種類が分かりやすく分類されて表記されるみたい。
とは言え、ステータスを普通に開示する人って少ないから研究も進まない。
例え普通にステータス開示するタイプの人でも「研究の実験体になって下さい!」と言われて頷く人って早々いないし。
一応取得方法を聞いてやってみたけど出来ない事が殆どらしいとも聞いている。
取得方法が鬼畜だって噂もあるんだけどね。
ゼルネンスキルで有名なのは歴史に残るような英雄が持っていたスキルで【超再生】とかかな。
名前だけで効果が思いつくしね。
文字通り腕がもげようが眼が潰れようが一瞬で回復するらしい。
……言っておいてなんだけどゾンビみたいなスキルだよね。
ネーミングセンスの割に効果が笑えない。
他にもいくつかあるけど、ネーミングが笑えても効果は笑えない代物も結構あるし、そもそも名前からして笑えないヤバイ代物もある。
それでも開示しているだけだって言うんだから世の中にはどれだけのゼルネンスキルがあるんだか。
多分効果的には汎用スキルと一緒で役に立つモノから、こんなモノ何処で役に立つの? 的なモノまでピンキリなんだろうけど。
ともかく、確かにゼルネンスキルなら魔道具も魔法を超える可能性は無くはない。
汎用スキルが魔法と同様の扱いをされるならゼルネンスキルは独立性が高い。
ものによるとは言え【結界陣】が反応しない事は充分にあり得る。
「もしフェルシュルグのゼルネンスキルが【偽る】事だとしたら……」
「笑えるぐらい堅牢な【結界陣】を掻い潜る事も出来るかもしれんな」
「笑えるくらいって」
シュティン先生の物言いにトーネ先生が思わずと言った感じで突っ込んでいる。
全く効いてないけど。
「笑えるくらい、で間違いあるまい。貴様なら此処を突破出来るとでも?」
「いや、無理だ!」
「だろうな」
……それでいいんですかトーネ先生?
というよりも冒険者として名の知れたトーネ先生ですら即答で無理って。
どんだけうちの結界は鬼畜仕様なんですか、お父様、お母様?
「ゼルネンスキルなら掻い潜る事が出来る可能性がある。それにそのスキルが相当役に立つのであれば、貴族主義のあの家が何らかの取引をしてもおかしくはありませんわね」
平民を傍仕えにする理由も分からなくもない。
ただ、そうなると今度は其処までのスキルを持ちながら貴族の家……それも評判の悪いあの家に取引を持ち込んだフェルシュルグの思惑が読めないけど。
貴族に復讐とか言う話なら、幾ら評判の悪い家だとしてももっと上の家格の家を狙うと思うんだけど。
あの家、何だかんだ言って小物な気がするんだけどなぁ。
「考えれば考える程不思議な方ですわね、あのフェルシュルグという男性は」
「確実に何かしらの思惑があるはずだが、読みづらいのは確かだな」
「それにゼルネンスキルという事は見破る方法から探るしかないと言う事、ですわね」
既存のスキルならば長い研究の中で対抗策の一つは生み出されている。
新しく発見されたとしても酷似したスキルにより完全にとは言えずとも対応できなくもない。
だがゼルネンスキルは多分それが出来ない。
効果が桁違いってのもあるけど、どれもが個人のみが所有している特殊なモノだから。
酷似したスキルの対抗策では対処できない可能性が高い。
つまり見た事もないスキルに対して一から対抗策を練り上げ、それも実践できるのは一回という、かなり厳しい状況に立たされる事になったって事だった。
一歩は踏み出せたかもしれないけど、その一歩は私達を断崖絶壁に立たせる代物だった。
まぁだからと言って負ける気なんてありませんけどね?
覚悟して下さいませ?
絶対に貴方の思惑を破り、手だし出来ない程叩き潰してあげますから、ね?
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