第22話一歩も進まない課題と「私」という人間




 課題は初級レベルの【付加錬金】を石に施したモノ。

 【付加錬金】においての初級は基本的に防御力や攻撃力に作用するモノ、体力増強の補助なのだが、初級と銘打たれているだけあってどれも心持ち上がったかな? と分かる程度の代物である。

 

 武器やアクセサリーも【ステータス】表示が存在するのだが、これに関しては持ち主以外は【鑑定】というスキルでも持っていないと判別する事は不可能であるため私には所有者にならない限り特殊効果があっても分からない。

 多分店やギルドで買う場合、仮の所有者になっているから装身具のステータスも分かるんじゃないかな?

 

 そんな所はともかく今は【付加錬金】に集中しないといけない。

 あのコルラレ先生から合格点をもぎ取るには多分何となくステータスアップした程度ではダメだと思う。

 はっきりとわかる程度の効果が現れる【付加錬金】を施さなければいけない。

 と言う事で私は【付加】を施す土台である宝石から試行錯誤する事にした。

 いっその事【創造錬金】も一緒に研鑽する事にしたのだ。

 とは言えまさか宝石を錬成する事は今のレベルじゃ出来ないし錬金術をかじったばかりの初心者ではいつまでたっても【錬成】は無理だ。

 だから原石を伝手を使って入手する事を最初は考えた。

 入手方法は自由だと明言されていたから此処で伝手を使っても咎められないだろうし。

 そもそも私は未だ外出許可が出ていないから【採取】に出る事も出来ないのだ。

 護身術を習い取り敢えずは動けるし、護衛を雇う事ぐらいは公爵令嬢である私には可能だから、これを機に許可が出るのかなぁとか思っていたのだけれど、どうやら私の年頃の子供を【採取】のために外に出すのは非常識扱いされるらしく、私の外出は許可されなかった。

 言われてみれば分からなくもないなぁと言うのが正直な所だったから特にその事に我が儘を言って外に出る事はしなかった。

 ただそうなると宝石を自力で手に入れる事は不可能って事になってしまう。

 自力ではダメだし、そこいらの庭に転がっているような石は【付加】に向かないのでやっぱり使えない。

 って事で伝手を使って石を入手するしか私には道が残されていなかった。

 ま、そんな事先生は当然知っている事であるし、それで合格点を貰えないなんて事は無いのは知っている。

 けどまぁ出来ればすべてを自力でなしたいと思うのは私の生来の性格からなのか『地球』で生きた年月の賜物なのか微妙な所である。

 

 そんな感じで石か宝石を取り寄せてもらおうと思った時、ふと『地球』での事が脳裏に浮かんだ。

 それは『スノードーム』のように透明な球体の中に液体が内包されている綺麗な置物を見ている光景だった。

 『地球』では透明度の高いガラスやプラスチックなどが普及していた。

 透明や白いガラスに色付きのガラスを混ぜ込み絵柄を作り出すなど目で楽しませる技法は多く存在していた。

 あれに似た事はこの世界では出来ないだろうか? と私は唐突に思ったのだ。

 魔石の種類の中には魔力が枯渇する事によって透明になる魔石が存在する。

 その類の魔石は魔力を帯びても透明度は高いらしくそれこそ硝子のような代物になるらしい。

 なら外側を無属性の魔力で透明のまま維持して、その中に何かしらの【付加】を施した同種類の魔石を埋め込めばアクセサリーとして機能する魔道具が出来るのではないかと思ったのだ。

 勿論、中の魔石は【属性水】で【付加錬金】する属性に染めておけば【付加】しやすいだろうし、周囲を無属性で囲んでいるならば魔力が足りないと言う事はないと思う。

 本当は無属性の魔力を変換して中心に組み込む【付加錬金】の属性に【注入】出来るのであれば外から魔力を注ぎ半永久的に作用する魔道具とする事が出来るかもしれない。

 けど考えただけで上級レベルの修練度が必要であると分かるし、今の私がやろうとするには高望みが過ぎる気がする。

 私が出来るのは精々【付加錬金】を施した中を取り換える事が可能になるように創る事ぐらいだと思う。

 最終的にはそう言ったアクセサリーの着手に取り掛かるとして、今は出来る事からするべきである。


 と、そんな最後の部分を伝えずお父様に可能かどうかを問うと、お父様は驚きながら「可能だよ」と言ってくれた。

 ってな訳で私は意気揚々と課題に取り掛かったのである。


 ……結果、私は工房で撃沈しているんだけどね。


 目の前には【属性水】と無色の魔石がある。

 私は今回の【守護】の【付加錬金】をする事に決めた。

 効果としては全ての攻撃に置いて任意で【魔法の壁】を発生させる代物である。

 勿論初級レベルだから競り負ける事も十分あり得るけど、隙をつく事くらいは出来るだろうという判断からこれにした。

 という事で【守護の壁】は【水】に属する【付加錬金】であるから【水の属性水】を創り出して水の魔石を生み出そうとした。

 ん、だけどどうも上手くいかなかった。

 この透明な魔石、意外と扱いづらい代物だったらしくてそう簡単に属性が定着しなかったのだ。

 

 最初は【属性水】の中に魔石を漬け込んでみた。

 ……一晩漬けこんで薄っすら色が定着した程度だったので、このままじゃ必要な魔力が定着するまで膨大な時間がかかると断念せざるを得なかった。

 二回目は【鍋】で浸透させるイメージの元、錬成を試みた。

 ……この魔石は透過の効果があるのか反発の効果があるのか、ドキドキして【鍋】を開けたのに透明なままの魔石とご対面してしまいがっくりする結果になった。

 三回目はいっその事直接属性を帯びた魔力を注げばよいのではないだろうか? と思い実行してみた。

 ……幾ら【注入】してもすり抜けているのか反発しているのか、体内に注がれるという何とも言えない結果となっていまい断念した。


 という事で最初の方法以外は透明なままという何とも頑固な魔石なのだという事が分かっただけで全く徒労という結果になってしまった。

 最初の方法だって時間を食うから現実的じゃないと言う事で私は一番肝心要の部分が進まないという状態に陥っていた。


 一歩も前進していない現状に机の木目を数える地味な作業をしているのだが、意味もない行為過ぎて更に虚しくなった気がする。

 そんなヤサグレ状態の私はコトリと小さな音と立てて突っ伏している机に何かが置かれる音に顔を上げた。

 すると目の前には湯気がたっているカップとリアの心配そうな顔が見えた。


「お飲み物などどうですか?」

「ありがと、リア」

「いえ。私は貴女のメイドですから」


 お礼に対して微笑むリアに私も微笑む。

 この瞬間が愛おしく大切な時間だと分かっているから。

 ……私はもうこんな時間を過ごす事も出来ない覚悟もしていたのだから。


 リアとの関係は現在改善されて前と同じ……自信過剰であるならば前以上に親しい関係となっているのではないかと思う。

 それに関してはコルラレ先生の手痛い後押しと私の自爆が切欠だったりする。


 先生に時間の無駄と言い切られて難しい課題を言い渡された私は正直かなり切羽詰まっていた。

 解決しなければいけない事も最適解も分かってるけど、一歩を踏み出す事が出来ずグルグルと考えていた私は、何とクロリアが居るのにも気づかず部屋で盛大な独り言を言ってしまったのだ……しかも『日本語』で。

 今考えても迂闊だとしか言いようがない出来事である。

 勿論リアがそれを聞き流してくれるはずもなく、私は全てを暴露するしか道は残されてなかった。

 誤魔化す事も考えたし、改めて策を練ってから対峙する事も出来たと思う。

 けれど私は真っすぐ私を見るクロリアに素直な気持ちを吐露する以外の選択肢を選ぶ事は出来なかったのだ。

 

 粗方白状した私はもはやクロリアの沙汰を待つ身、俎板の鯉状態だった。

 これでクロリアとの関係が完全に崩れる可能性も否定できなくて長い沈黙に泣きそうだった。

 けどクロリアは私を受け入れてくれた。


「お目覚めになられてから私を心配し、私を恐れ多くも友とおっしゃってくれたのは今目の前にいるダーリエ様ですよね? 確かにお目覚めになられてからのダーリエ様は大人びていらして私の助けなど要らないのではないかとも思いました。けれど今私とのこれからに悩み、繋がりが切れる事を恐れて下さるダーリエ様は私を掬い上げて下さり友と呼んでくれたダーリエ様と変わらぬと思います。……私がお仕えする方はただ一人、キースダーリエ様です。そしてそれは目の前に貴女です」


 って言った後


「貴女の秘密を打ち明けて下さって本当に有難う御座います。私は貴女のメイドとして生涯傍に居たいと思います。お許しいただけますか?」

 

 って言って笑ってくれた。

 そんな事言われたら「これからもよろしくね、リア!」って言っちゃうよね、って話です。

 結局私自身が一番前と今を気にしていたのかもしないなぁと思う。

 何度も私は私だって言っていたのは自分に言い聞かせている部分もあっただろうし、今でも思わなくもない。

 けどこうして私もキースダーリエだと言ってくれるリアがいてくれる限り私は決して一人じゃないだって思えるから大丈夫だと思った。

 ……それでもまだ家族に打ち明けるのは怖いんだけどね。


 そんなリアに救われた後私はお兄様との関係も一歩進めるべきだと思うようになった。

 お兄様は今何を考えているか分からない。

 けど私はお兄様が大好きだしお兄様に嫌われたくない。

 そんな気持ちをお兄様にお話しする事ぐらいはいいんじゃないかなぁと思ったのだ。

 絶対的な味方を得た今、私には少しだけ勇気が宿ったらしい。

 我ながら小心者だよなぁと思うんだけどね。


 そんな感じでリアと前と同じようにいられるようになって私は今回の完成品の使い道も思いついたのだ。

 だからこそ一層力を入れて課題に取り掛かっているのだけれど……これってある意味で出だしでつまずいているのかなぁと思い凹む日々を現在送っています。

 

 一歩も前進できずに泣きそうです。


 内心で泣き言と叱咤を交互に繰り返しながら方法を模索する日々。

 そんな失敗の日々も今日も繰り返すと思っていたんだけど。

 

 私は忘れていた。

 『ゲーム』でも気を付けていて、現実では一層気を付けないといけない事を。

 

 うん、どうやら私は一度何かに集中すると他が疎かになるらしいです。

 悪癖だと分かりつつ、直そうと思って直るものなんですかね? と考えてしまいがっつり凹んだりしました。

 まぁそうやって自己を振り返る事が出来たのは僥倖と言う奴なのかもしれないけどね。


 

 今日も今日とて魔石に属性魔力を定着させる研究をしつつ【守護の壁】の【魔法陣】を【付加】する練習を重ねていた。

 【付加】に関しては気分転換代わりだったけど、研究があまりにも先に進まないからこっちが本格的になりつつある気がする。

 このままだと【守護の壁】の合理的な【魔法陣】とか術式の簡略化が出来ないかとか色々考えそうになる。

 元々そう言った試行錯誤は嫌いじゃないモノだから気を付けないと【付加】の方に本腰を入れそうになってしまう。

 それもいいんだけど魔石の方を一段落させてからじゃないと、どう考えても他の道に逃げているみたいで落ち着かなくなるに決まってる。

 だから今するのは丁寧に綺麗な【魔法陣】を【付加】するために色々な物に【付加】しては最後の仕上げをせず解いてく、反復練習だけだった。

 結局本番は一回で成功させなければいけないのだから反復練習はやって損はないと思う。

 そんな気構えでどっちも手を抜かずにやっていたのが悪いのか、それとも何時もは止めてくれるストッパーであるリアが本邸で仕事を命じられていたために離れていたのを知っていたのに無茶した私が悪いのか。

 

 私は魔力が枯渇する事で起こる出来事を体感する羽目になってしまう。

 いやまぁ、自業自得と言われれば御免なさいと速攻謝る程度には自分が悪い事を自覚はしているんだけどね。


 こうやって体感して思ったのは……魔力枯渇で死ななくて良かったなぁ、だったりしました。

 

 【守護の壁】の【付加錬金】の練習をしていた私はドアをノックする音に集中を途切れさせた。

 今日はリアも居ないし私が出るしかないのでノックの音にも反応出来たのかもしれない。

 実はこの時、作業を中断して立ち上がった時、一瞬の眩暈に襲われていた。

 けれど貧血や立ち眩みって意外とよくある事だし、ずっと同じ体勢ならなおの事、普通に起こりうる事だと思い込んでしまったんだよね。

 これが魔力枯渇のサインとは思いもしないで私は来客を迎えるために離れの入口に向かった。

 その時ドアの向こう側の気配が多かったと気付いたのは良かったのか悪いのか……多分戦闘実技の訓練の成果という意味では良かったけど、この後の事を引き起こす原因としては悪い事、なんじゃないかな?

 気配の数に気づいた私は半ば反射で【精霊眼】を発動させて魔力を引き出した。

 けどそれが致命的だった。

 だって強い眩暈と同時に急速に視界が狭まっていったんだもん。

 流石に「あ、これやばい」と思った。

 不幸中の幸いで膝をつく事が出来たから、倒れた際に頭を打つ事はなかったけど、物凄い音がしたから中で異変が起こったと一発で外に伝わったのだから。

 ……ん? 気づいて欲しかったし結果オーライなのかな?

 いや、けど結構痛かったし、完全にブラックアウトする前に見たリアの驚愕と悲壮感に満ちた表情には酷い罪悪感を感じたし、やっぱりよくないよね?

 

 とまぁそんな感じで離れの居間のような所で倒れた私が最後に見たのは鍵を使い慌てて入って来たリアが焦りから驚愕に表情を変える所とツィトーネ先生の珍しく焦った顔とコルラレ先生の僅かに驚いた顔だった。

 こんな時でも表情が殆ど動かないコルラレ先生がスゴイと思った……私が嫌われてるだけじゃないよね?

 そうじゃないといいなぁとだけ祈って私の意識は完全にブラックアウトしていったのだった。









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