ひと夏の青春ホラーもの。
まず率直な印象として、序盤の掴みが素晴らしいと感じました。甘酸っぱさのある青春の一コマから始まるキャッチーな冒頭。登場人物たちも一樹に沙夜、そして新倉や村田さんといった、メインの四人のキャラクター性がシンプルでありながらもしっかり差別化されているため、読み手としてそれぞれの個性が違和感なく自然と馴染んできました。それ以外でも、物語の本題が割と早い段階で展開され、作品が目指しているコンセプトが非常にわかりやすかったです。この冒頭での掴みは小説に限らずあらゆる媒体の物語でも避けては通れない課題であり、たとえばテレビドラマなどでは第一話が面白くないと次週も視聴してもらえません。そういう側面からみるとWEB小説というのはいつでも続きが読めると同時にいつでも読むのをやめられる媒体でもあり、それだけに冒頭第一話の内容いかんではその先を読んでもらえるかどうかが決まる重要な部分でもあります。そういう意味であれば、この作品の冒頭『第1話 赤い手帳』は5W1Hを満たし作品のメイン要素を全て詰め込まれた完璧な第一話と感じました。私としてもこの第一話を読者として読み終えたときに「あ、これは面白いやつだ」と直感で感じ、同時に同じ執筆者として戦慄を覚えたくらいです。
そしてこの勢いは物語が進んでいっても大きく失速することはなく、序盤中盤で提示される謎の数々によって好奇心をくすぐられ、そして後半で伏線などをしっかり回収していく見事な構成。学校七不思議をはじめとする霊的な設定に一切の無駄がなく、むしろそれらの設定すらも回収してエンディングに持っていく手腕はお見事でした。
物語としては昔懐かしの『学校の怪談』を彷彿とさせる作りであり、それをライトノベル的な青春ラブコメで仕上げている、というのが素直な感想でした。ホラージャンルであるのは間違いありませんが、本格ホラーというよりはライトに楽しめるタイプのホラーであり、幅広い層にヒットしそうな作風だという印象を受けましたね。
個人的に物語としてのクオリティが高い作品だと感じました。一気読みさせる魔力がある作品ですので、これから読まれる方は是非とも時間を作って一度に読んでいただきたいですね。面白かったです。ごちそうさまでした。