第35話 いつか笑える日を願って

「で、そんな大活劇を、俺様は見てないわけだが? 呼び出されたと思ったらすべて解決して、みんな清々しい顔をしているわけだが?」

「そうなんだよ! やー、ヴェルトかっこよかったなぁ。師匠さんと仲直り? できてよかったぁ。これはハッピーエンドだよね、ガロン?」


 私は白く清潔な建物の受付スペースに座って、首から下げたキャメロンにあらましを語る。ヴェルトは弟子の最後の仕事と言って、レゾさんの入院の手続きを進めてくれていた。

 因みに、教師を探していた役場のお姉さんにも連絡済み。元気になったら、丸くなったレゾさんへの勧誘が始まるはずだ。


「俺様はそれよりも、教典の国が動いてるって方が気になるけどな」

「そう? また襲ってきても、ヴェルトがやっつけちゃうから平気だよ!」

「能天気だな、嬢ちゃんは」

「プラス思考はいいことだよ?」

「逆恨みされてなきゃいいけどなぁ……」


 すべて丸く収まった達成感からか、私の心持はスタッカート。今なら空も飛べる気がする。


「レゾさんの童話、楽しみだな。内容もだけど、ヴェルトが読んだ時の反応が楽しみ」

「あの唐変木のことだから、ふーんとかで、終わるんじゃねぇのか?」

「もしそんなこと言ったら、私が叩く童話の角で!」


「――俺がなんだって?」


「ふぇ? ヴェ、ヴェルトっ!?」


 振り向くと、感情の薄そうな長身が私たちのことを見下ろしていた。

 おのれ、気配をさせろ。びっくりするわ!


「も、もう手続きは済んだの?」

「ああ、問題はない。あの爺さんもようやくまた、笑える日が来るだろうさ」

「それは、よかったね」


 私は心からのお疲れ様を送る。


「さ、次の町行くぞ?」

「えっ! もう出発するの!? もうちょっとゆっくりしようよ。王女は休養と惰眠と観光と童話をご所望だよ!」

「一日休めば十分だろ? って言うか、その括りに童話入れるな」

「二か月前なら四つ全部童話だったね」

「胸を張るな」


 笑って小突かれた。見上げたヴェルトの顔は、来た時よりも清々しい。

 一つの関係、一つの物語に終止符を打った青年もまた、私同様二か月前より成長したのだろう。

 安心して頼りにできる。

 ヴェルトとなら、どんな困難でも乗り越えられる気がした。



第四章 了

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