出来れば目立ちたくないし関わりたくないです。

夏代 静花

転生とはこれ如何に

プロローグ

唐突だが、私【ヤエリト・アダムス】は記憶持ちの転生者である。

自覚したのは7歳。現在いまは13歳なので6年前になる。朝起きて、顔を洗っている時にふと思い出した。

前世の記憶が戻ると同時に 性格まで前世のものになったが、元々の性格とあまり相違がない為 特に障害は無かった。強いて言うなら 知能も上がったため、幼い見た目との違和感で大層 気持ち悪がられた位だ。


さて───前置きが長くなったが、そんな私は今 新たな仕事を得るために【ブランシェット邸】に来ている。

【ブランシェット邸】とはこの国──【ウェルティノ王国】の貴族、【ブランシェット伯爵】の屋敷である。ちなみに王都在住。

ウェルティノ王国内でも評判の良いブランシェット伯爵 。どうやら最近 彼が養子を取ったらしく、その養子の為に 同い年くらいの執事を募集した。

今日はこの試験を受けに為に来たのである。


一つ深呼吸をして、屋敷の中へ入る。

屋敷の中はアンティーク調で 主のセンスの良さが感じられた。

これだけ広かったら掃除も大変だろうに、流石は伯爵邸。塵一つ見当たらず 要するに清潔感 溢れる屋敷だった。


「いらっしゃいませ。貴方は…」

「私は ヤエリト・アダムス と申します。執事の試験を受けに参りました」

「なるほど。ではこちらへ…応接室までご案内致します」

「お願いします」


出迎えてくれたメイドさんがにこやかに応対する。所作に一切の無駄がなく、教育が行き届いているようだ。


「こちらです」


応接室では先程まで面接をしていたらしく、ちょうど男の子が出てくるところだった。

私は小さく会釈したが、男の子は こちらを一瞥しただけで去っていった。

なんだあいつ。


「失礼します」

「ようこそ、我が屋敷へ。早速だが、君は?」


応接室に入ると、壮年の男性が私を迎えた。

後ろには執事が控えており、男性の口振りから彼がこの屋敷の主人で間違いないだろう。


「はい。私は ヤエリト・アダムス と申します。本日は執事の試験を受けに参りました」

「なるほど。では君は──私の娘の為に何が出来る?」


伯爵からの質問に私は内心 驚嘆した。

流石は伯爵。ぬかりない。

この質問は 確認であり、一種の脅しだ。

もちろん馬鹿正直に本心を答える輩は居ないだろう。そこは伯爵も承知の上だ。

だからこそ、これは脅しなのだ。

この質問の意図は、伯爵の前で誓わせること。

此処で「我が魂に誓って誠心誠意 仕えます」などの文言を伯爵の前で言うことで その誓に伯爵の信頼も上乗せされる。もし裏切りでもしたら、確実に始末されてしまうので 容易に 裏切ったり出来なくなるのだ。

まぁ私は元よりそんな気はないし、そもそも裏切りが特に嫌いなので関係ないが。


「私は、お嬢様の護衛が出来ます」


伯爵の表情から感情は読み取れない。


「ありきたりなことしか出来ませんが、これが精一杯です。なにぶん 同い歳程の子供と話したことが殆どありませんので、相談などにも乗れないでしょう。

私は別段 賢くもないので、もし自分の主が間違っていると思えば 烏滸がましくも口ごたえしてしまうかもしれません。その時は容赦なく処罰して下さい。

なので、私は───「あの時の子だ!」!?」


誰かが飛びついてきた。あまりの勢いに少しよろける。

チラリと映るチョコレートブラウンを追うと、私に抱きつく人物と目が合った。


「アン、アンジェ。些か行儀が悪いよ、離れなさい」


そう伯爵に言われて、彼女はしぶしぶといった様子で私から体を離す。

そうしてこちらへ微笑んで、鈴のような声でこう言った。


「私は 【アンジェ・ブランシェット】。

あの時はありがとう!これからよろしくね!」


思えば もっとずっと前から すべては始まっていたのかもしれない───












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出来れば目立ちたくないし関わりたくないです。 夏代 静花 @siomihokuyou_kun

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