第8話 逆襲の血だるまトリニオ

 ダイヤン港を出航したインフィニティ号は、島越しに吹いてくる北風を半開の帆に受けて、ゆっくりとしたスピードで沖合に出ていった。

 船の甲板上では、大仕事をやり終えた達成感で、すっきりした表情のマリアンヌと仲間たちが、くつろいだ雰囲気で今回の航海を振り返っていた。

「うーん、気分いいわ。やっぱり、あたしたち、いい仕事したよね」

 マリアンヌが笑顔で言うと、

「おう。海賊どもも悪い奴らもやっつけたし、島の連中は元気になったしよ。俺様たちゃいい仕事したぜぇ。こういうときの酒は最高だぜぇ」

 プトレマイオスが答えて、片手に握っていたネルソンズブラッドのボトルをくわえてぐびぐび飲み始めた。

「島の人間たち、はじめて訪れたときと、全然表情が変わってきたしな。提督の説得を聞いて、人間が変わったように働きだしたときは、オレは正直驚いたもんな。島の連中を動かすほどの演説をぶつなんてことは、訓示が仕事の海軍提督でもなかなかできることじゃねぇぜ。さすがは、世界一を目指す提督だな」

 ジュリアスが同調し、ネルソンズブラッドの入ったカップを傾け、きゅーっと飲み干した。

「提督の演説ばかりが動かしたわけじゃないよ。提督が島の人たちのために働いたことが、みんなの心を動かしたのさ」

 アッシャーが言った。

「ボクは考えさせられたよ。島のための経済投資の話を提督にしたのはボクだけどさ、ただ、島に資金を渡すだけが投資じゃないってわかったよ。提督は島のために、必要な物資を運んだり、北の海域にあった漁場を見つけたり、海賊と戦ったりして、いっぱい大仕事をしたからね。おかげで、投資した額を超える経済効果を上げたと思うよ」

「これができたのはみんながあたしのわがままにつきあってくれたからよ。あたしひとりの功績じゃないわ。ありがとう、みんな」

 マリアンヌは礼を言って、仲間たちに頭を下げた。

「それはわがままとは言いません。提督の意志に従うのが我々の務め。当然のことをしたまでです。それに、我々も、いい仕事ができて満足です」

 セレウコスが彼女に答えた。

「そう言ってくれてありがと。安心したわ」

「うむ。これで、あとは本当に島が復興して、開拓が進めば言うことなしじゃのう」

 カッサンドロスが言うと、マリアンヌは屈託のない笑顔で答えた。

「大丈夫だよ。島の人たちの気持ちは本気だもの。希望も何もないって冷め切ってたのに、未来の希望を持てたんだから。ひとかけらの希望も、無限大の可能性を持つのよ。きっと、島は見違えるほど立派なところになるよ」

「そうじゃの。嬢ちゃん、よう言った。わしらも、ダナン島の将来を信じるとしようかの」

「そういえばよ、オレたちの艦隊の夢はどうなるんだ?」

 ジュリアスがふと真顔になって、マリアンヌに言った。

「今回の仕事に不満だってわけじゃねぇけどよ、結局金にはならなかったよな。どちらかというと、投資のために資金を持ち出したくらいだ。提督の目標の、僚艦を加えて本格的な艦隊を組むことはどうなるんだ?」

「それは、すぐでなくていいんじゃない? 資金はすぐに貯まるものじゃないし、長い目で見て、いいときに新しい船を買えば、それでいいと思うよ」

 答えたアッシャーの顔をジュリアスはちらっと見た。

「それもそうだが、新しい船が手に入らないうちは、ずっとあの狭い部屋で相部屋だぜ。それはいい加減にいやだろ」

「あ……そうか」

「アッシャー、ジュリアス。儲けの心配ならいらないよ」

 マリアンヌはそう言うと、一度船内に引っ込んだ。しばらくして、ハッチが開き、「うんしょ、うんしょ」と言いながら、彼女は革袋をふたつ引きずってきた。

「よっと。ほら、これはちゃんといただいてきたもんね」

 革袋を開けると、その中からは拳大の金塊がごろごろ入っていた。

「なるほどのう。島に延べ棒は残したが、金塊はいただいてきたわけじゃのう」

「そゆこと。あたしたちだって、ボランティアでやってるわけじゃないんだから、そこはちゃんと報酬をいただかないとね」

 彼女はそう言って、えへへっと笑った。

「それと、海賊の砦から押収した現金、締めて1万ターバルも、船内に保管してあります」

 セレウコスが彼女に告げた。

「なんでぇ。やっぱりちゃっかりしてやがるぜぇ、お嬢はよぉ」

 プトレマイオスがガハガハ笑った。

「このうち、現金と金塊一袋分くらいは船の資金にするけど、あとの一袋分とほかの分捕り物は乗組員のみんなで山分けにするわ。みんな、がんばって戦ってくれたもんね」

 彼女の言葉に、船内では仲間たちや船員たちの拍手と歓声が上がった。

「よっしゃあ! お嬢、ここは祝いの酒盛りといこうぜぇ」

「それは帰ってからね。それより、急いでティシュリに帰ろうよ。ギルドに報告して、仕事の報酬をもらわないとね。それに、お正月はティシュリで迎えたいしね」

「そうですね。では、速度を上げてティシュリに向かいましょう。よし、総員配置につけ」

 セレウコスの号令が甲板上に響き、船員たちがそれぞれ配置についた。そして、仲間たちがそれぞれ担当の部署に散っていこうと歩き出し、マリアンヌは、持ち出した金塊の袋をいったん船内にしまおうと、袋を手にした。

 その時、甲板上で見張りをしている船員たちが、次々と叫んだ。

「南方、11時方向に船影を発見!」

「11時方向、もう一隻発見!」

「北西海上、4時方向に船影を発見!」

「北東より、8時方向から船影が接近の模様!」

「えっえっえっえっ……??」

 次々と上がる報告にうろたえたのは、見張り役のアッシャーだった。

「アッシャー、すぐ確認して報告!」

 金塊入りの袋を持った手を離して、マリアンヌがアッシャーに叫んだ。だが、彼はとっさのことで動けず、おたおたおろおろしていた。

 そこへジュリアスが近づいてきて、彼の頭を鷲掴みした。

「なに惚けてやがる。見張りが見張りの任務を怠ったら、ことによっては死刑だぞ、こら。さっさと上に上がって、船影を確認してきやがれ!」

 ジュリアスはメーンマストのほうにアッシャーを突き飛ばした。アッシャーはあわてふためいた様子でマスト上の見張り台によじ登っていったが、その目は泳いでしまっている。予想外のことがあると、テンパってしまうようだ。

「えっと、船影がたくさん……全部で4隻。みんな、この船に船首を向けてるよ。取り囲んで、こっちに向かってるみたいだ! 旗は……うわぁ、海賊旗だ!」

「間違いなく、敵船なのね。旗の模様は何? 船の大きさは!?」

 マリアンヌが聞くと、アッシャーは叫び返した。

「旗は、海賊旗!! 船の大きさは……海賊船くらい!!」

「そーかそーか。おーい、アッシャー。いったん降りてこい」

 腕組みして聞いていたジュリアスがマストの上に向かって呼びかけると、言葉のままにアッシャーが降りてきた。

「そんな報告でわかるかボケェっ!!」

 ジュリアスの怒号が響いたと同時に、彼の放ったローリングソバットがアッシャーのボディに決まった。アッシャーは吹っ飛んで、メーンマストにたたきつけられ、後頭部を強打した。アッシャーの頭の回りに星がぐるぐる回りだした。

「全く、役立たずのバカボンだぜ。再起不能になるまでぶん殴ろうか」

「よそうよ、ジュリアス。それより、状況を把握しなきゃ。セル」

 アッシャーからの報告をあきらめ、マリアンヌは当直甲板で見張っているセレウコスのほうを向いた。

「はい。敵船は4隻、南方奥にいるフリゲートが旗艦と思われます。そのほかの船は、南方手前にブリガンティン、北西にブリガンティン、北東にスループ。敵旗艦の旗印は『クロスした三叉鉾に、長髪の髑髏』です。それと、信号旗ですが、明らかに敵意を持っています」

 当直甲板に上がったマリアンヌは、正面に見える敵旗艦を望遠鏡で確認した。同じように、ジュリアスも望遠鏡で確認する。

「間違いねぇな。『クロストライデント&ヘアード・スカル』はトリニオ軍の紋章だ」

 ジュリアスは望遠鏡を目から離すと、彼女のほうを見た。

「オレたちの襲撃した鉱山と砦の残党どもだ。逆襲をかけに来たようだぜ」

「海賊たちの本隊が戻ってきてしまったのね……」

 鉱山と砦を攻略したときは、海賊たちの本隊は留守で、留守番役の小隊しか残っていなかった。だから、楽勝で攻略に成功したのだが、本隊が戻ってきたとなると話は別だ。兵力も艦船数も、あきらかに敵のほうが多い。

 彼女は敵旗艦のメーンマストとミズンマストに渡されたロープに、真っ赤に染められた旗が一枚、翻っているのを見た。

「あの赤い旗、戦闘の合図かなんか?」

「いえ……、あれは海賊が使う『皆殺し』のサインです。我々を、ひとり残さず殺すつもりで襲撃して来るでしょう」

「おう! 上等じゃねぇか! 返り討ちにしてやろうじゃねぇかよぉ!」

 プトレマイオスがぼんぼんぼんと土手っ腹を叩いて気勢を上げた。

「しかし、このままでは包囲を受ける……。戦闘は無茶に近いのう。今なら、南西のほうに全速力で走り抜ければ、この艦隊から逃げることもできるがのう」

 カッサンドロスの指摘通り、南西のほうに敵船はいない。現在の不利な状況なら、その方向に逃亡するほうがいいかもしれない。

「お嬢ちゃん。交戦か逃亡か指示を」

「逃げないわ」

 セレウコスの言葉に、マリアンヌはすぐに答えた。

「ダナン島の近くに海賊がいたら、せっかく復興に動き出した島の人たちにきっと悪いことが起きるわ。それに、ここであたしたちが逃げたら、海賊たちは次に街を襲うに違いないわよ。『皆殺し』の合図を出すほど、向こうは怒ってるんだもん。防備のない、丸裸の街を襲われたらどうなると思う? あたしたちがあの艦隊を倒さなきゃ、ダナン島の復興はできなくなるわ」

「よっしゃ! お嬢、よく言ったぜぇ!」

 プトレマイオスが吼え声をあげた。

「けど、今の状況は厳しいぜ。オレたちが奮闘したとしても、敵の戦闘艦4隻の包囲を受けたらまず勝ち目はねぇ。兵力差が違う」

 ジュリアスは冷静に現状を分析した。

「ジュリアス。敵の大将を倒したら、あたしたちの勝ちになるんでしょ?」

 マリアンヌが訊ねた。

「そうだ。だが、それを狙うには、敵の旗艦に的を絞らなきゃならねぇ」

「この状況でわしらが勝ちを拾うとしたら、嬢ちゃんの言うとおり敵の提督を倒すこと以外にはなさそうじゃが、はて、どうやってそれができるかのう」

 知恵袋のカッサンドロスも頭をひねった。というのも、旗艦と思われるフリゲート艦は南東の方角に位置しているが、急いで接近してくる様子がない。一方で、それ以外の三隻の船は、速度を上げて近づいてきているからだ。

 この包囲網をかいくぐらない限り、敵旗艦に近づくことができない。

 一同が思案しているところへ、ジュリアスの蹴りを食らってのびていたアッシャーが復活し、戻ってきた。

「えっと、敵艦隊の報告をするよ。南方奥に3本マストの135フィート級フリゲート艦、南方手前に100フィート級のブリグ、北西から同型のブリガンティン、北東の、ジュリアスが言ってた入り江のほうから、1本マストにガフスル艤装の90フィート級スループがいて、ボクらの船を囲むように接近してるよ」

「そう。でも、あんたがグロッキーになってる間に報告を受けてるわよ」

 マリアンヌは、なにを今さらと言いたそうな、ちょっとあきれたような表情で答えた。

 アッシャーはかまわず報告を続けた。

「その敵艦隊の船なんだけど、旗艦のフリゲートはほとんど動いてなくて、ほかの三隻が接近してるんだ。その中で、ブリガンティンとブリグがこの船をはさむ形で近づいているんだけど、スループは帆が少なくてそんなに速く進んでこれないみたい。ちょっと遅れてるんだよ」

「なるほど、必ずしも足並みはそろっていないわけか」

 セレウコスがあごをなでた。

「そう言ってものう、ふたつの船に囲まれて、わしらの身動きがとれんようになってはおんなじじゃ。敵旗艦は、僚艦にわしらの足止めをさせてから近づく様子じゃからのう」

 カッサンドロスは難しい顔をした。

「南西に抜けて一度敵をかわして包囲をかいくぐってから、敵旗艦を襲撃すればいいんじゃない? インフィニティ号の船足だったらきっとできるよ」

「いや、だめだ」

 マリアンヌの提案をジュリアスが否定した。

「敵旗艦と交戦している間に、背後から僚艦に囲まれる。おまけに、その際敵僚艦には追い風になるから、ほんの少しの時間で後ろを取られる。それまでに敵の提督を倒すのは至難だぜ。戦闘力なら、あっちの船のほうが高い。戦闘仕様だからな」

「そっか……。じゃあ、どうしよ……」

 交戦を決めたものの、かなり不利な状況にそれをちょっと後悔したマリアンヌに、アッシャーが自信ありそうな表情で言った。

「包囲されたくなければ、敵僚艦の航行力を奪ってしまえばいいのさ。ボクにいい作戦があるよ」

「お前の作戦が役に立つか?」

 アッシャーの自信たっぷりの言葉にジュリアスがいぶかしげに言った。

「とりあえず、どんな作戦か教えてよ。それから、みんなで決めよ」

 マリアンヌに促されて、アッシャーは司令用テーブルに、船に見立てた木片の駒を置き、作戦を説明した。船と、乗組員全員の命運がかかった作戦だけに、アッシャーもいつになく真剣に説明する。

「一か八か、だな……」

 彼の説明を聞き終えて、ジュリアスがうなった。

「うん。作戦が成功するかは、セレウコスさんの操船術にかかっていると言ってもいいよ。それと、乗組員みんなの動きがそろうこと」

 アッシャーの言葉を聞いて、マリアンヌはセレウコスの顔を見た。

「……お任せを」

 セレウコスは厳しい表情で、強い口調で短く、彼女に言った。

「うん。作戦はこれでいくわ。操船はセルに任せるとして、ジュリアスとプットは船員たちに戦闘の指示を出して。アッシャーは見張りと、狙撃のほうも頼むわよ。じいさんは医務室ね。みんな、いいわね!」

 作戦が決まり、マリアンヌが指示を出すと、航海士たちは一様に了解した。

 彼女は当直甲板上から、乗組員全員に呼びかけた。

「これが最後の戦闘よ! あたしたちの運命も、せっかく復興したダナン島の運命もこの勝負にかかっているわ。みんな、全力で戦うわよ!」

 甲板上に、彼女のりんとした声が響くと、続いて乗組員たちの鬨の声が響きわたった。


 インフィニティ号は船首を南に向け、帆を全開にして航行を続けている。

 しかし、スピードがほとんど出ていない。そのため、インフィニティ号をはさむように近づいてくる、敵艦隊のブリグ船とブリガンティン船に距離を詰められている。

「これでいいですね」

 敵船の接近を見ながら、セレウコスが眉ひとつ動かさずにマリアンヌに言った。

「うん。接舷されない程度に、うんと引きつけないとね」

 彼女もまた、少しも動じた様子なく答えた。

「敵に飛び道具があると少しやっかいだな。おーいアッシャー、敵船の装備はどうだ?」

 ジュリアスが、マスト上のアッシャーに呼びかけた。

「ちょっと待って……。どちらも大砲は装備してないよ。正面の船は、船首にバリスタを備えているみたいだけど、後ろの船には、大きな飛び道具はないみたいだね」

「大砲があったらちょっと面倒だったけど、ないなら安心ね」

「バリスタでも油断はできません。喫水線に砲丸を受ければ浸水の危険がありますし、マストを狙って撃ち込まれて被害を受ければ、船足が止まります」

 セレウコスの表情は硬かった。

 インフィニティ号の正面からやってくるブリグとの距離が、150ヤードにまで接近した時、ブリグから砲弾が飛んできた。球形に削った石の砲弾が高い放物線を描いて飛来してくる。船体ではなく、マストを狙って機動力を奪う狙いのようだ。

「取り舵!」

 セレウコスが指示を飛ばす。船尾にある舵輪を操舵手が切り、船は船首をわずかに左に向けた。

 放物線を描いて飛んできた砲弾は、インフィニティ号のすぐ横の海面に落ち、水柱をあげた。弾をかわすと、インフィニティ号はブリグに向かってまっすぐに進路を戻した。

「なんだ、一発だけ? なんか拍子抜け」

「バリスタが船首に一基だけなんだろう。装填にも時間がかかる。撃ってきたとしても単発だ。よけれるかはともかく、それほど怖がるほどのものじゃぁねぇな」

 ジュリアスが言った。バリスタは対艦用の攻撃兵器としてはそれほど強力なものではない。ただ、有効射程距離から鉛製や銅製の砲弾を放ってくるなら船の装甲に打撃を与えられるし、投げ槍のように長大な矢や、火矢を放ってくるといった攻撃をするときは侮れない。

 両船の距離が縮まっていく間に、ブリグはバリスタを撃って攻撃してくるが、セレウコスの指示の元、インフィニティ号は最小限の動きでその弾をかわしている。

「当たらないとしても、あんなに撃ってくるとうっとうしいわね」

 敵弾を小刻みにかわす船上で、マリアンヌはいやそうな顔をした。

「こっちも大砲を撃てたらいいのに。海賊の砦を制圧したときに一門奪ったんだから、せっかくだからぶっ放しちゃおうよ」

「無理だろ。大砲を砲座に固定せずに撃ったら、爆風で本体がふっとんじまう。造船所でちゃんと装備してもらうまでは使うことはできねぇ」

「つまんないの」

 遠距離攻撃をかわしてばかりで、応酬することができないことに、負けん気の強いマリアンヌは不満だったようだ。

「お嬢、弾をぽんぽこ撃ってくるあのうざってぇ船を黙らせてやろうぜぇ」

 同じく、敵の遠距離攻撃にうんざりしていたらしいプトレマイオスが、甲板上に置いてあった予備の錨を肩にかついでやってきた。

「どうやって? この船には大砲もバリスタもないよ」

「俺様がいっちょ、こいつをあの船に投げつけて、ぶつけてやるぜぇ。そうすりゃ、奴らも肝をつぶすだろうぜ」

「本気か?」

 プトレマイオスの提案にセレウコスが訊き返した。

「プットならできるかも。ねえ、セル。プットが錨を投げたら作戦開始よ」

「承知」

 セレウコスは彼女の指示に了解し、後方を確認した。後方からブリガンティンが差を詰めてきている。前方のブリグとの差は100ヤードを切り、後方のブリガンティンとの差も100ヤードくらいになっている。

 状況としては、完全に敵艦隊の思惑通りになってきている。

「前方の船との差が60ヤード。そろそろだぜ」

 ジュリアスがマリアンヌに告げた。彼女はうなずき、プトレマイオスに合図した。

「いいよ、プット。あの船に一撃かましちゃえ!」

「よっしゃあ! いっくぜぇぇぇっ!!」

 プトレマイオスは甲板上で、錨をつかみあげると、ハンマー投げの要領でぐるぐる回転し始めた。仲間たちも船員たちも、危険なので彼から二十歩以上離れた。

「うっっっ!! はああああああっっっ!!」

 彼は気合いの雄叫びと共に錨を敵船に向けて放り投げた。はなしたあとでも、「うごぉぉぉぉぉ~~!!」と気合いの叫びをがなる。

 そして、飛んでいった錨は、回転しながら敵船に向かってまっすぐ飛び、勢いよくブリグの甲板に命中し、ブリグのメーンマストをなぎ倒した。マストが甲板上に倒れ込んだことで、ブリグに乗り込んでいる敵兵は大わらわになっている。

「樽を切り離せ」

 セレウコスが命令すると、船員たちが船尾に向かった。そして、船尾につないであった十本ばかりのロープを切り離した。

 ロープの先には、片側に口を開けた空の樽がつけてあり、それらは海に浮かべられていた。船が前進すると、空の樽はちょうどパラシュートのような形で水の抵抗力を受ける。船足が速いはずのインフィニティ号が、帆を全開にしていたのに速度が上がらなかったのは、これが理由だったのだ。

 これは、船足が遅いと見せかけて油断を誘い、急に速度を上げて奇襲する、海賊の用いる戦術である。

 足かせがなくなったインフィニティ号はもとの機動力を取り戻した。

「面舵いっぱい! 160度旋回、北北西に船首を向けろ!」

 セレウコスの命令が響いた。

 インフィニティ号は右方向に急旋回し、反転した。ブリグに背を向けて、後ろから追ってきたブリガンティンに向き合う形になる。しかし、真っ正面に対面するのではなく、インフィニティ号がブリガンティンに道を譲るかのように、少し体をかわした形になる。

 二本のマストに横帆を艤装しているブリガンティンは、これまで順風をはらんで高速でインフィニティ号を追っていた。その勢いで接近するつもりが、標的が急に逆方向に切り返したので、すんでの所でかわされた形になった。

 反転したインフィニティ号と直進するブリガンティンがすれ違った。ふたつの船の距離は、わずかに10ヤードほど。ニアミスぎりぎりの差だ。

「今だ! 野郎ども、撃ちまくれ! 斉射だ!」

 ジュリアスが叫んだ。彼の声に従って、アサルトボウガンやピストルボウガンを構えた船員たちが、いっせいに矢を敵船めがけて撃ち込んだ。

 奇襲で弓の一斉掃射を受け、ブリガンティンの海賊たちは甲板上に散り散りになった。矢を受けて倒れた敵兵も多い。幾人かの海賊兵がボウガンを取ったものの、インフィニティ号の射撃に押されて、反撃に出られないでいる。

「矢を惜しむな。敵船後部を狙え!」

 ジュリアスの指示通り、インフィニティ号の船員たちはボウガンを撃ちまくった。本来なら、装填に手間がかかり、連射に向かないボウガンだが、彼らの使うアサルトボウガンやピストルボウガンは、ちょっとの腕の力で矢をつがえることのできる軽量弓銃なので、敵に雨あられのように浴びせかける射撃も可能である。

 一斉射撃のさなか、メーンマスト上の見張り台にいたアッシャーは、弓に長い矢をつがえて、狙いを定めていた。

「えいっ!」

 限界まで引き絞った矢を、狙い定めて一気に放つ。狙撃弾は、敵船後方で舵を握っていた操舵手の背中に突き立った。

「うわっっ!」

 操舵手がその場に倒れる。これで、ブリガンティンの舵を取る人間がいなくなった。

 ついで、アッシャーは持っている矢のうちで一番大きな矢である、鏑矢を取ってそれを矢につがえた。遠矢を射ると、笛を吹くような音を立てて飛ぶ、信号弾のような矢だが、標的に直射すると殺傷力、破壊力の高い武器になる。

 彼は弓をめいっぱいに引き絞って、敵ブリガンティンのがら空きになっている舵輪に向かって鏑矢を放った。

 舵輪と、舵板を直接支える舵柄は、ロープと滑車でつながっていて動く仕組みになっている。アッシャーの狙撃弾は、そのロープを断ち切った。

 こうなっては、舵を動かすことができない。

 甲板では、ジュリアスの指揮の元で船員たちが、手をゆるめることなくボウガンを撃ちまくっている。それも、マストを動かそうとか、舵取りに行こうとする敵兵に向かって矢を射かけている。

「いたぜぇ! あいつが船長だ、あいつに向かって食らわせてやれぃ!」

 プトレマイオスのわれ鐘声が響いた。その声に従って、ボウガンを持っていない船員たちが、ゴルフボール大のつぶて石を敵船長にめがけて一斉に投げつけた。

「いてぇっ! いてぇっ! いてぇっ! くそっ!」

 ほうぼうから飛んでくるつぶてを食らって、船長は指揮を執るどころでなくなった。あわてて石の飛んでこないところに退散する。

 ブリガンティンの指揮系統、操縦系統は麻痺した。

 しかし、順風を全開にしたマストいっぱいに受けているので、船の航行速度は全く落ちない。

 これが、アッシャー作戦の狙いだった。

 スピードを上げたままのブリガンティンは、帆も操作できず舵も切れない状態で突き進み、正面の味方ブリグに衝突した。轟音と共に、木材の砕け散った破片が舞い上がった。

「ビンゴっ!」

 作戦が成功して、アッシャーは得意そうに親指を立てた。

「やった、大成功! さあ、セル、敵旗艦に向かうよ!」

「了解。回頭用意! 取り舵150度、南西に進路を取れ」

 セレウコスの指令が出ると、戦闘に携わっていた船員たちは、また運航のために動き出す。インフィニティ号はまもなく再度反転し、順風に乗って、南方で待機している敵旗艦に向かって船を走らせた。

 衝突した二隻の海賊船は損傷がひどく、インフィニティ号の跡を追うことができない。

「おのれぇっ! またしても……!」

 ブリグの甲板上で、狂犬のチャッピーが歯ぎしりした。


 敵艦隊旗艦との一対一の戦いを挑むべく、インフィニティ号は南方に待機する敵のフリゲート艦めがけて航行していた。

 フリゲートはマストに帆を展開し、応戦に動いてきた。インフィニティ号に向かって左舷を見せるように旋回している。

「敵艦名がわかったよ。プレデター号だ。クロコダイルの船首像をつけてるよ」

 見張り台から敵艦の様子を見ていたアッシャーが報告した。

「気をつけて。プレデター号には砲列甲板がある。大砲を撃ってくるよ」

「大砲装備か。大した船だな」

 ジュリアスがつぶやいた。

 プレデター号のほうから爆発音がした。砲門を開き、インフィニティ号めがけて砲撃してきたのだ。

「危ないよ! よけて!」

 マリアンヌが叫んだ。が、セレウコスは動かない。

「セル! 敵弾が飛んでくるよ。よけなきゃ」

「提督、下手にかわして、敵に横腹を見せるほうがむしろ危険なんだぜ。標的を広くしちまうからな。船首を敵の砲甲板に向けているほうが、命中する確率は低い。セル船長もそれを承知だ」

 ジュリアスが彼女のそばに来て教えた。

 プレデター号から飛んできた砲弾は五発。そのうち、一発がインフィニティ号の前方左舷に弾着した。命中した船体から、木材の破片が飛び散り、船が衝撃に揺れた。

 残り四発は、インフィニティ号の周囲に水柱をあげた。

「みんな、大丈夫? けがはない?」

 衝撃にふらついて甲板に手をつきながら、マリアンヌが呼びかけた。幸い、けが人はいなかった。衝撃自体、それほど大きなものではなかった。

「船体の破損状況は」

「へい、船首付近左舷の船体に陥没あり。小破です」

 セレウコスの質問に、船員が報告した。敵弾を受けたとはいえ、損害は大したことがない。報告を聞いて、マリアンヌは安心した。

「お嬢ちゃん、このまま敵艦に近づくなら、敵は弾幕を張ってくるでしょう。敵の船首側に回り込んで近づこうと思いますが、よろしいですか」

 セレウコスが彼女に訊ねた。

「それで、敵弾をよけれるの?」

「船首砲を装備しているなら、攻撃されないと言い切れませんが、敵の砲列甲板からの砲撃を回避することはできます」

「セルの操船を信じるわ。それでいこ」

 彼女が許可すると、セレウコスは取り舵の指示を出した。

 はじめの砲撃から3分あまりたったとき、プレデター号は二段目の砲撃を加えてきた。だが、その砲弾はインフィニティ号の航跡の上に落ちた。

 世界レベルでみても、高い機動性を持つディカルト製クリッパー帆船である。順風を受けたインフィニティ号の機動力は、生半可な艦砲射撃でとらえられるものではない。

「敵の大砲は、16ポンドカルバリン砲だな。左右に5門ずつの10門だ。海軍の軽巡洋艦並みの装備だぜ。海賊にはもったいねぇな」

 敵艦の砲撃を見ながら、ジュリアスがつぶやいた。

 インフィニティ号はプレデター号の船首方向に移動すると、面舵を切り、敵船側に進路を変えた。向かい風に船首が向いているプレデター号は、旋回して砲撃体勢に入ることができない。

「よし、あとは近づくだけね。行っけぇー!!」

 風上の好位置を取ったことで状況は有利になった。マリアンヌの号令の叫びと共に、インフィニティ号はプレデター号に接近する。

 すると、プレデター号の船首甲板上に、口径の広い大砲が押し出された。真鍮の砲身がきらめいたかと思うと、砲口から火を噴いた。

「あぶねえっ!」

 ジュリアスがマリアンヌをかばって甲板に押し倒した。

「だっ、大丈夫? ジュリアス」

「おー、やべぇやべぇ。危うく足を持ってかれるところだったぜ」

 敵弾がうなりをあげて飛んでくる感覚を足に感じていた彼はそう言ったが、恐怖した表情はしていなかった。戦場往来の元軍人らしく、状況を冷静に見ている。

 マリアンヌは被害の様子をうかがった。

 拳下がりにうち下ろしたかのような至近弾は、インフィニティ号の上甲板に穴を開けた。無人の船室内に砲弾が飛び込んだようだが、船底までには達していないので沈没の恐れはない。砲弾の直撃を受けた船員はいないようだが、飛び散った破片で数名の船員が負傷し、倒れている。仲間の船員が肩を貸して、船内の医務室へと下がっていった。

「船首にデミカノン砲を用意してやがるとは。やるな」

 ジュリアスが起きあがりながらつぶやいた。

「航行に支障はありません。このまま接近します」

セレウコスが動揺のない冷静な口調で告げた。

 直撃弾を受けたことにもひるまず、インフィニティ号はスピードを落とさず、プレデター号への接近を続ける。

 プレデター号の賊兵は船首砲の装填をしていたが、それが完了する前に両船は至近距離に近づいた。

「敵の船首左舷側に接触する。速度を落とせ」

 セレウコスの号令と共に、インフィニティ号の帆が急いでたたまれた。あとは惰性で敵船へと接近する。

 装填を終えた敵の船首砲が、インフィニティ号に向けられた。

「撃たせないよ!」

 マスト上の見張り台から、アッシャーが砲手を狙撃した。砲手の賊兵は矢を受けて倒れ、着火用のトーチを取り落とした。

 インフィニティ号側の、射撃の得意な船員数人がボウガンを取って攻撃に加わり、敵の船首砲付近に集中して矢を撃ち込んだ。

「よし、提督、セル船長。まずはあのデミカノン砲を奪ってやろうぜ」

「いいだろう」

 ジュリアスの提案に沿って、セレウコスは敵の船首付近を接舷ポイントに定めた。

 両船の間隔は10ヤードを切っている。

 プレデター号側がマリアンヌたちの意図を察知して、船首付近に集まってきた。そして、ボウガンを手にとってインフィニティ号に撃ち込んできた。程なく、射撃戦になった。

 戦闘仕様のプレデター号のほうが船体が大きく、そして、インフィニティ号より5フィートほど水面からの高さが高い。そして、プレデター号の賊兵の人数は多い。撃ち下ろしてくる形での攻撃を受けて、インフィニティ号は劣勢になった。インフィニティ号側の船員は、マストの陰などに隠れて、敵の攻撃をしのぎつつ、攻撃に出るが、分が悪い。

 プレデター号側の狙撃手が、マストの上にいるアッシャーに狙いを付けて、大型のボウガンを放った。

「うわわっ! ボクの服が!」

 すんでの所で矢ははずれ、アッシャーのジャケットの裾をかすめた。アッシャーはあわてて、敵船に尻を見せて、見張り台の上で身を伏せた。その拍子に、船の後方の様子が目に入った。

「提督、大変だよ! もうひとつの船が接近してくる!」

 敵艦隊の僚艦であるスループ船が、衝突して動けないふたつの味方船を回避して、インフィニティ号の背後を取ろうと接近していた。アッシャーはそれを報告したが、敵の矢が飛んできたので、頭を抱えて身を伏せた。

「もう? 来るとは思ってたけど、思ったより早かったわね」

「お嬢ちゃん、このままでは挟撃です。我々の不利です」

 セレウコスが厳しい顔で言った。

「なんとかしなきゃね……。プット!」

 彼女はプトレマイオスを呼んだ。

「おう! お嬢、攻撃命令か? 何でも言ってくれい!」

 待ちに待った戦闘でありながら、射撃戦では腕の振るえないプトレマイオスが、気合い有り余った声で応答した。

「後ろから敵船が近づいてくるわ」

「おう、それで」

「あの船、プットに任せていい?」

 彼女が言うと、彼はにんまりとし、豪快に笑った。

「よっしゃあ! 俺様に任せろぉ! 全員、ぎったんぎったんにぶっ飛ばしてやるぜぇ!」

 うおーーっっ、と一発、気合い十分の雄叫びを吼えると、彼はどしどしと足音を立てて船尾に立ち、仁王立ちで敵船を待ちかまえた。

「お嬢ちゃん、もう少しで接舷です」

「勝負だぜ。提督、オレがついてる。勇敢になれよ」

「うん」

 マリアンヌはきっと敵をにらんだ。

「接舷次第、敵艦に突撃をしかけるよ! みんな、勇気を出してついてきて!」

 彼女の号令が響いた。

 インフィニティ号とプレデター号が、船体をこするように接舷した。


接舷と同時に突撃をかけるとマリアンヌは宣言したが、接舷状態になっても、プレデター号の賊兵たちは船縁に集まって、インフィニティ号に対して継続して射撃戦を仕掛けてくる。人数も多い。戦闘慣れしているようで、ボウガンの装填も素早い。

 斬り込みを仕掛ける前に、やや防戦気味の状況に立たされたインフィニティ号側は、空のコンテナや樽をバリケードに押し立てて、射撃戦に応じている。

 ここで引くことはできないことをマリアンヌはわかっていた。ひるんで後ろに退がったら、すでに弾が込められている敵のデミカノン砲を食らう。敵を砲撃に移させないためにも、前に出ていかなければならない。

「うおっ!」

 撃ち合いに加わっていた船員のひとりが、マリアンヌのすぐ横で、敵の矢を胸に受けて倒れた。彼女は急いで、突き刺さっていた矢を抜き、ほかの船員を呼んで、医務室に連れて行かせた。

 射撃戦の中で、敵も被害を受けているが、味方にも負傷者が増えている。見張り台の上から、弓の名手であるアッシャーが敵に狙撃弾を与えているが、逆に敵の集中射撃を仕掛けられて、見張り台の陰に頭を抱えてうずくまるという状況が増えた。

「提督。射撃戦を続けていちゃ不利だ。敵の防衛線を、強引にこじ開けてやる」

 ジュリアスが、目に鋭い光を含ませてそう言い、愛用のサーベルを左手に持ち替え、右手に槍を持った。船員たちが使う槍は、柄が3フィートないし4フィートで、穂先は鏃のような形で小さい。乱戦や投擲に使うことができるものだ。

 賊兵の射撃にも波がある。ちょうど、攻撃の波が低くなった一瞬にジュリアスは立ち上がった。

「海賊ども、食らいやがれ!」

 彼は叫びながら敵艦めがけて走り込み、賊兵のひとりを槍で突き刺した。ついで左手に持ったサーベルを振って、もうひとりの賊兵に斬りつけた。

 そして、負傷した賊兵に身体をぶつけながら、強引に空いたスペースに飛び込み、敵船に乗り込んだ。

 彼は得物のサーベルを右手に、賊兵から引き抜いた槍を左手に持ち替えた。周囲は敵だらけだが、彼らが手に持っているのはボウガンで、肉弾戦武器を握っている者はいない。

「冥土のみやげに覚えとけ。オレがジュリアス・セザール元連邦海軍少尉、人呼んで百人斬りジュリアスだ。百人斬りジュリアスの伝説は、こんな、周りが敵だらけの状況だったんだぜ。それを再現してやるよ!」

 彼がそう言い捨てるやいなや、サーベルが閃いた。その一閃で、賊兵三人が血しぶきをあげて倒れた。間髪入れず、その後方にいた賊兵に向かって、走り込みざまに一撃を加える。続けざまに、その周辺の賊兵にサーベルを突き立てる。後方から襲ってくる敵は、左手に持った槍でひっぱたき、返す刀で斬り捨てた。

 戦場では小手先の技量より、純粋なパワーとスピードがものを言うといわれる。ジュリアスの剣技はまさに戦場の剣技だった。目に止まらない、閃光のようなサーベルさばきで、プレデター号の賊兵が十人近く、瞬く間に切り伏せられてしまった。

 それでも、敵兵の数は多い。賊兵たちは白兵戦武器に持ち替えて、斬り合いに備えて待ちかまえ、ジュリアスに迫っていく。

「ジュリアスを孤立させちゃだめっ! みんな、突撃!」

 マリアンヌが叫んで号令を下した。ジュリアスがこじ開けたスペースに、マリアンヌを先頭にして、インフィニティ号の船員たちが殺到し、次々にプレデター号に乗り込んだ。

 プレデター号の船首付近の甲板を舞台に、敵味方入り乱れる白兵戦になった。混戦の中では、弓もボウガンも使うことはできない。

「女はおとなしくくたばれっ!」

 賊兵のひとりが、短剣をふるってマリアンヌに襲いかかった。

「女だからってバカにしないでよっ!」

 彼女は短刀でその一撃を払いのけると、切り返して敵の胴を薙いだ。背後からまたひとり、彼女に襲いかかってきた敵がいたが、彼女はそれをかわし、ハイキックであごを蹴り上げ、ひっくり返させた。

 彼女は、占領目標にしていた、敵の船首砲がすぐそばにあることに気がついた。しかし、その周囲には敵兵がいて、簡単に近づくことはできない。

 彼女は船縁に足をかけ、その上に乗った。バランスを崩すと海に真っ逆さまに落ちる体勢だが、運動神経抜群の彼女には造作もないことだ。

「そこのあんたたち、そんなとこに突っ立ってないで、かかってきなさいよ。あたしがみんなまとめて、けちょんけちょんにやっつけてあげるわ!」

 大砲の周囲に立っていた敵兵たちに向かって、彼女は指をくいくいっと曲げて挑発してみせた。

「生意気なガキめ。痛い目に遭わせてやる!」

 賊兵は総じて、いたって気が短い。その上に、女の子にバカにされたとあっては黙っていられない。賊兵たちは彼女に向かって襲いかかってきた。

 こう来るのを待っていた彼女は、船縁の足場から高く飛び上がった。そして、向かってくる敵の頭や肩の上に飛び乗り、それらを踏み石にして飛び移っていき、最後に大砲の上に降り立った。軽業師並みに身軽でバランス感覚のいい彼女だからできる業だ。

「へへーん、大砲は奪ったわ」

 デミカノン砲の砲身の上に立って、彼女は得意げに言った。

「ざけんな!」

 出し抜かれ、踏み台にまでされた賊兵たちは怒り心頭に達し、彼女を取り囲んだ。そして、集団で彼女に襲撃してきた。

「きゃあ! きゃあ! きゃあ!」

 取り囲まれてしまっては運動神経のいい彼女でも危うい。敵の攻撃をなんとかかわし続け、剣撃や跳び蹴りなどで反撃するも、そのうち彼女は敵兵たちの群れの中に呑み込まれてしまった。

「提督に加勢しろ!」

「後ろががら空きだぜぇっ! 海賊ども!」

 味方の船員の一小隊が彼女に加勢して、賊兵たちに襲いかかった。賊兵たちがマリアンヌに気を取られて、彼らに背を向けていたことが幸いして、賊兵たちはすぐに倒された。

 敵に組み伏せられそうになって、甲板にしりもちをついていたマリアンヌは、味方船員に助け起こされた。

「提督、無茶しないでくだせえ。船長にまた怒られますよ」

「えへへ、ごめん。でも、これで大砲を奪うことができたわ」

 彼女は、デミカノン砲のあるプレデター号船首甲板から、同船の後方を眺め、戦況を確認した。

 最初の突撃はうまくいき、船首甲板部分の占領は達成した。だが、後方甲板にはまだまだ敵がいる。ここまでで二十人あまりの敵兵を倒しているが、それでも、敵の残存兵力は、インフィニティ号側の兵力を上回っている。そして、敵はまた、ひたひたとマリアンヌたちに迫ってくる。

「まだまだ不利ね。これをなんとかしなきゃ……」

 彼女はつぶやき、そして、味方船員に指示を告げた。

 最前線では、ジュリアスが下士官級の賊兵を斬り捨てたところだった。

「ふう、まだまだいやがるな。骨が折れるぜ」

 獅子奮迅の働きをするジュリアスも、来ている着古しのフロックコートに斬られた跡や矢のかすめた跡があって、さらにぼろになっているし、かすり傷程度だが、身体にいくつか傷を受けている。

「ジュリアス、増援だ」

 そこへ、セレウコスが、残りの船員を引き連れて、プレデター号に乗り込んできた。

「セル船長。本船はいいのかよ」

「じいさんとアッシャーがいる。問題あるまい。それに、攻撃は最大の防御という」

 セレウコスの答えに、ジュリアスはくちびるをゆがめ、幾分ほっとした表情になった。心強い増援が来たことは、孤軍奮闘していたジュリアスにとっては大きな援護だ。

「セル船長が来たなら百人力だ。心おきなく暴れてやるぜ」

 増援を加えて人数を増したインフィニティ号側の戦闘員の先頭に、セレウコスとジュリアスがそれぞれ武器を構え、並んで立っている。彼ら二人を先頭に、後方甲板に突撃して、敵を撃破しようと構えている。

 そこに、マリアンヌの叫び声が上がった。

「セル、ジュリアス、みんな! よけて!」

 彼女の声に彼らが振り返ると、マリアンヌと味方の船員数人が、デミカノン砲の砲口をプレデター号の後方に向けて、構えていた。船員のひとりが、点火用トーチをすでに手にしている。そして、大砲には、敵が装填した砲弾と弾薬がそのまま残っている。

「やべえっ! 大砲を撃ってくるぞ!」

「よけろ、いや、逃げろ!」

 敵兵たちは恐慌状態になって、後方に引いたり物陰に隠れたり伏せたりした。

「撃てぇっ!」

 マリアンヌの号令に応じて、船員がデミカノン砲の点火口にトーチを押しつけた。

 爆音と硝煙が巻き起こり、並み居る敵兵のただ中に砲弾が撃ち込まれた。

 撃ち込まれたのは、通常の砲弾ではなかった。たくさんの鉄の小片や石つぶて、陶器のかけら、鉄鉱石のくずなどだった。船体やマストを破壊するのではなく、甲板上の敵兵を大量殺傷する目的で用いられる散弾だ。

 散弾の掃射を食らい、賊兵の半分以上が傷つき、倒れた。

「散弾だったか。デミカノン砲を奪うのは正解だった。撃たれていたら、我々のほうが全滅していた」

 セレウコスがうなるように言った。

「すごい威力だわ。でも……こう言うのはあまり使いたくないわね」

 前線に出てきたマリアンヌは、一発の砲撃で大きな被害を受けた敵の様子を見ながら、ぽつりとつぶやいた。

 でも、すぐに頭を上げると、セレウコスとジュリアス、そして味方の船員たちに大声で号令を発した。

「あと一息よ。完全に制圧するまで気を緩めないで。それ、やっちゃえ!」

「おーーっ!」

 鬨の声をあげて、インフィニティ号側の兵隊は再度突撃を開始した。


 マリアンヌたちがプレデター号に斬り込みをかけていたとき、あとひとつ残っていた敵のスループ船が、がら空きのようになっているインフィニティ号の船尾に向かって近づいていた。

「よし、どうやらがら空きのようだ。野郎ども、一気に乗り込んで、この船をちょうだいするぜ!」

 数人の海賊が、かぎ縄を構えて接舷の用意をしていたとき、インフィニティ号の船尾に大きな人影が現れた。

「ガハハハ! やっと獲物がやってきたぜぇ! 待ってろ海賊ども、このプトレマイオス・ラゴス様が、みんなまとめてぶちのめしてやるぜえ!」

 高らかに吼えると、プトレマイオスはインフィニティ号から跳躍し、スループの船首部分に飛ぶ移った。肥満体の身体にふさわしくない一跳びだ。

「ふぬりゃぁ!!」

 飛び移りざまに、船首にいた海賊の内、二人を拳の一撃で20フィートほど吹っ飛ばし、もうひとりをつかみあげると、上手投げで、後方にいた賊兵たちの溜まりに投げ込んだ。その投げ込まれた勢いで、数人の賊兵が甲板にひっくり返った。

「お嬢に、この船一隻任せるって言われたんでぇ。心おきなく暴れまくって、この船を奪ってやるから、覚悟しやがれ!」

 襲撃するところが逆にプトレマイオスの襲撃を受け、賊兵たちは後ずさりした。その敵隊列に向かって、彼は一吼えすると、丸太のように太い腕をぶんぶん振り回しながら敵陣に突進した。

「ひとりだと? なめるな! 野郎ども、迎え撃て!」

 後方にいた、スループの船長が手下たちに命令した。手下の賊兵20人あまりは、船長の命令に従って、突進するプトレマイオスに立ち向かった。

「おうおうおう! 向かってくるたぁいい度胸だ! 燃えてきたぜぇ!」

 プトレマイオスは歯をむき出して笑い、近づいてきた賊兵の顔面に右拳をたたき込んだ。ついで、左腕で別の賊兵にラリアットを食らわせ、さらには正面の賊兵に肩からタックルをぶちかました。

 タックルされた賊兵は吹っ飛んで、後方の別の賊兵たちを巻き込んで甲板上にひっくり返った。

「畜生! 何やってんだ! 相手は素手だぞ!」

 船長がうわずった声で手下たちにわめき散らした。そんな船長の目の前で、プトレマイオスは眼前の敵を次々にぶっ飛ばしながら突進を続けていく。彼の通る道に立ちふさがる者は、竜巻に巻き込まれるように、ことごとく宙を舞って、甲板や海中に放り投げられていった。

「こんにゃろめ!」

 賊兵のひとりが、ボウガンで彼を撃った。

「んがっ!?」

 狙われたプトレマイオスは、ごろんと後ろにでんぐりがえしして矢をかわした。

「やってくれるじゃねぇかよお! てめえにはとっておきを食らわしてやるから覚悟しやがれ!」

 そう言うやいなや、彼はボウガンを撃った男の襟首をむんずとつかみ、頭上に持ち上げると、甲板にたたきつけた。ボディスラムを食らってのびた賊兵の両足を彼はつかみあげると、自分の身体を軸にぐるぐると振り回した。ジャイアントスイングだ。

「ふんがあああああああああっ!」

 賊兵を棍棒がわりにジャイアントスイングで振り回しながら、彼は賊兵たちの中に突入した。その攻撃に巻き込まれて、五人の賊兵がまとめて吹っ飛ばされ、海に落ちた。最後に彼は、振り回していた賊兵の身体を、船長のほうにめがけて放り投げた。船長と数人の賊兵が、ぶつけられた勢いで甲板にひっくり返った。

「まだまだ暴れてやるぜえ! うが~~っ!!」

 彼が吼えると、賊兵たちは震え上がった。もはや戦意を失って、引きつった顔をして縮こまっている。

 その時、スループの後方ハッチが開き、ひとりの男が現れた。身なりからすると、海賊ではないようだ。政府の役人のような出で立ちだ。

 その男は、船長と賊兵たちに向かって言った。

「何をしている。船から退避しろ。このままでは全滅だぞ」

 男がそう言うと、賊兵たちは、われ先にと船尾に向かって駆け出し、さっさとボートを下ろして、船から逃げ出し始めた。

「あっ、こら、おまえら! 畜生、あんたがよけいなことを言うから、みんな逃げちまったじゃないか!」

「お前はこの船で、このわたしをランシェルまで護送するという役目がある。それを何よりも優先しろ」

「ここの船長はオレだ。それを無視して命令する権限はあんたにはないぞ。だいたい、あんた。トリニオ軍の一員でもないじゃねぇか」

「お前たちトリニオ軍が、このディカルト諸島北部の海域まで活動範囲を広げられたのは誰のおかげだと思っている。誰のおかげで、活動資金を得られているのか知っているのか。まあいい。それよりも、もたもたしていると置いていかれるぞ」

 男は船尾に退き、船からボートに乗り移った。船長は、「畜生め!」と舌打ちをしながら、同じく船を捨てて逃げ出した。

「おめえら逃げるのか! 弱虫め!」

 プトレマイオスの罵声が響く中、スループの乗組員たちはみんな、ボートに乗って船を離れ、先に衝突して航行できなくなっているブリガンティンに向かって退却した。

「がははは! 俺様が一番強えぇんだ! うっしゃーー!!」

 たったひとりで、海賊艦隊から船一隻を奪ってしまったプトレマイオスは、甲板上に仁王立ちになると、勝利の雄叫びをあげ続けた。


 プレデター号の甲板上は、その全体に戦線が拡大していた。

 はじめの状況では圧倒的有利だったプレデター号側だが、大砲による掃射を受けたことと、一騎当千の猛者であるセレウコスとジュリアスが先頭に立って戦う、インフィニティ号側の猛攻に押され気味になっていた。

 それでも、兵力からすると拮抗している。そして、プレデター号の賊兵たちは、近海をうろつくごろつきまがいの海賊とは違い、なかなか腕が立つ。

 甲板のあちこちで斬り合いが演じられ、双方の戦闘員に、負傷者や戦死者が増えてきた。

 そんなさなか、プレデター号のハッチが開き、中から賊兵10人と共に、ひとりの戦士が姿をあらわした。金髪と思われる髪と口ひげは、潮風でぼさぼさになり、肌は日に焼けて赤褐色。筋肉質の身体に、じかに青銅製の胸当てをつけている。長年、海に暮らしていた男であることがわかる外見だった。

「なんたるざまだ! 四隻の船がありながら、商船一隻満足に捕まえられないのか!」

 甲板に出てくるなり、男が憤怒の叫びを上げた。

「め、面目ありやせん。お頭」

 賊兵が頭を縮み込ませて謝った。

「ようやっと、敵の大将のお出ましか」

 ジュリアスが言うと、マリアンヌは、賊兵にお頭と呼ばれた戦士に、つかつかと歩み寄った。

「あたしはインフィニティ号提督マリアンヌ・シャルマーニュよ。あんたがこの船の提督ね? 今の今まで隠れているなんて卑怯じゃない?」

「いかにも。俺様がこの艦隊の提督にして、トリニオ軍の尖兵、人呼んで血だるまトリニオだ」

 血だるまトリニオは名乗りを上げた。

「よもや貴様のような小娘に、ここまで攻め込まれようとはな。配下の船に任せて事足りると思っていた俺様が間違っていたようだ。だが、貴様らもここまでだ。この俺様が出たからには、これ以上の好き勝手はさせん!」

「なんで、あたしたちを狙うのよ」

「貴様らの空き巣狙いの攻撃で、金山と砦が奪われた。あれらは我々トリニオ軍が、ディカルト諸島北部の海域に進出するための橋頭堡であり、資金源。それを失ったとあれば我々の名に傷が付く。トリニオ軍の名にかけて、ここで貴様らを葬って、鮫の餌にしてくれるわ」

 血だるまトリニオは刀を抜いた。年季の入った、幅広肉厚のサーベルで、一撃のダメージが大きいことがうかがえる剛刀だ。

「ご託はここまでだ。野郎ども、かかれ!」

 彼は、引き連れていた側近の賊兵たちに指示を出した。賊兵たちがサーベルを手に、マリアンヌたちに襲いかかってきた。大将が姿をあらわしたことで、プレデター号の兵士たちの士気が上がり、インフィニティ号側に猛然と抵抗してきた。

「貴様らの相手は、このオレがやってやる。提督、敵の大将をやっつけてきな」

 賊兵とマリアンヌの間に、ジュリアスが割り込んだ。

 この新手の賊兵は、甲板にいた兵卒クラスの賊兵とは違い、腕の立つ剣使いだが、それでも、かつては海軍随一の剣士と言われたジュリアスには及ばない。集団でかかるも、彼ひとりに軽くいなされている。

「セル、ジュリアスを援護して」

「承知」

 セレウコスが、ジュリアスの戦線に向かい、まずひとりの賊兵を捕まえて、その後頭部に強烈な頭突きを見舞った。賊兵は鼻血を勢いよく吹き出し、昏倒した。

 マリアンヌは乱戦をかいくぐり、血だるまトリニオのそばに駆け寄った。

「提督どうし、一対一で勝負よ!」

「ふん。小娘ごときに後れをとるものか。かかってこい!」

 マリアンヌの短刀と、血だるまトリニオの刀が打ち合わされた。そして、何度か斬り結びあう。

 重厚な刀を振り回す血だるまトリニオの剣は重かった。彼女は敵の攻撃を短刀で受けていたが、だんだん腕が痛くなってきた。

「しょせんは女の力だな。俺様のほうが力では上だ」

「でもね、パワーだったら、あんたよりプットのほうがずーっと上よ」

 彼女は言い返すと、血だるまトリニオから間合いを取った。その彼女に向かって彼は刀を振り回して斬りかかってくる。その攻撃を、彼女は時折短刀で受け流しながら、フットワークを駆使してかわし続けた。

「剣さばきの切れはジュリアスのほうがずーっと上ね」

「ご託を言うな。俺様が貴様を殺ればいいだけの話だろうが」

 彼は刀を抱えると、彼女に身体をぶつけるように斬りかかってきた。彼女はそれを短刀で受け止めながら後ろに下がろうとした。

「うっっ……!」

 その時、異臭が彼女の鼻をついた。頭がくらっとして、力が一瞬入らなくなった。

 その状況で、血だるまトリニオの重たい一撃を受け止めたので、彼女の身体ははじき飛ばされた。

「きゃああ!!」

 はじき飛ばされて甲板に転がった彼女めがけて、血だるまトリニオが刀を振りかざし、上段から斬りつけた。彼女は横に転がってその攻撃をかわし、また立ち上がった。

「くっ……。ひどい口臭。そんなの出すなんて反則」

 彼女は、片手で鼻をふさぎながら抗議した。

「やかましいわ」

 血だるまトリニオは抗議を一蹴し、飾り帯の中に手を入れた。そして、そこからニンニクを一玉つかみ出すと、がぶりとかじりついた。

「げーっ。生ニンニク丸かじり……」

「ニンニク食ったら百人力。今度こそ、貴様を殺ってくれるわ」

 ニンニクの皮をぺっと甲板上に吐き出すと、彼は刀を振り回して彼女に討ちかかった。大振りに見えるが、力も速さもあるだけ危険な攻撃だ。彼女は後ろに跳ねながらその攻撃をかわし、とにかく間合いを取った。

「まいったわ。懐に入り込まなきゃ攻撃できないけど、力じゃかなわないし、あの口臭、もうかぎたくないし……」

 彼女は顔をしかめた。ニンニクの効果かわからないが、血だるまトリニオの攻撃は、パワーも増し、剣さばきも鋭くなっている。一対一に持ち込んだものの、そう簡単に倒せる相手ではなかった。

「とにかく、あの口臭攻撃さえなんとかなれば……。ピクルス、おいで!」

 彼女は指笛を吹いてピクルスを呼び寄せた。

「あの人に、あんたの生臭い息を吹きかけてやって。行けぇっ!」

 彼女の指示に応えて、ピクルスは血だるまトリニオのほうに飛んでいき、彼の頭上から、げふぅ~と生臭い息を吐きかけた。

「ふん。その程度のにおいに負けるか!」

 血だるまトリニオは、ピクルスに向けて、がふぅ~と大きく息を吐きかけた。

 ピクルスも負けじと、生臭い息を応酬する。

 ふたつの、極めてひどいにおいのする息が交錯した。

 そのにおいは風に流され、風下で斬り結びあっていたインフィニティ号の戦闘員とプレデター号の賊兵十人あまりが、異臭を吸い込み、敵味方の別なく昏倒した。

 やがて、息の切れたピクルスが、へとへとになってマリアンヌの肩の上に戻ってきた。

「うーん、ピクルスの生臭い息が効かないなんて」

「バカにするな。ニンニクを食った俺様は何者にも負けん!」

「なんでニンニクにこだわるのかな? ニンニク信者?」

 彼女はそんなやりとりをしながらも、どうやったらこの敵将を倒せるか、考えに考えていた。

 そして、いったんピクルスを自船に帰らせて、短刀を構えると、両足で軽くステップを踏み始めた。

「あんた! 剣と剣でもう一回勝負よ!」

「剣でこの俺様にかなうと思ってか! いい度胸だ、覚悟しやがれ!」

 マリアンヌは短刀を構えたまま、横走りに血だるまトリニオの周囲をぐるぐる回り始めた。ただ走り回っているのではない。ダンスをするかのように、頻繁に足を踏み変えて、軽やかな動きでステップを踏んでいる。一定に横に移動せず、頻繁に前に踏み出したり、後ろに下がったり、時折逆ステップを踏んだりと、激しく動いている。

「なんの真似だ、小娘」

「どう、あたしの動き。あんたの刀で今のあたしを斬りつけられるかしら?」

「こしゃくな。そんな無駄な動きで、俺様の剣をよけられるとでも思うのか!」

 彼女の挑発に乗って、血だるまトリニオは彼女に向かって斬りかかってきた。彼女はその切っ先をかわすと、ステップを踏みながら、素早く彼の後方に移動した。

「こっちこっち」

「このガキが、なめるな!」

 彼が横に刀を薙ぐと、彼女はバックステップで逃れ、円の動きを保ちながら、彼の後方へと移動した。そして、ひたすら彼を挑発して、斬りかからせては、軽やかな動きでそれをかわす。これを15分、20分と繰り返していた。

「ちょこまかと小うるさく動きやがって、ハエみたいな小娘だ! だが、それだけ動いて、疲れたら元も子もないぞ。わかってるのか」

 縦に斬り下げたらサイドステップでかわされ、横に斬りつけたらバックステップでかわされての繰り返しに、血だるまトリニオの顔はいらいらで紅潮してきた。

「あんたこそわかってるの? 若い子は動けば動くほど元気になるのよ」

 彼女はそう言い返すと、プレデター号のミズンマストを背にして、円の動きを止めた。その場で小刻みに、縦横へのステップを踏み続けた。

「あんたこそ、刀の動きが乱れてるわよ。そんな刀で、本当にあたしを斬れる?」

「小娘が! 今度こそ、その減らず口を二度ときけなくしてやるわ!」

 マストに追いつめられていて、動きが止まっているこのときこそ好機。血だるまトリニオは彼女に向かって駆け込むと、大上段から刀を振り下ろした。

 この斬撃は、彼女の真上から振り下ろされる。それを見て、彼女はその場にしゃがんだ。

 だが、血だるまトリニオの刀は、しゃがんだ彼女の身体に届かなかった。

「ぬぅっ!」

 長いサイズの彼の刀の切っ先が、ミズンマストの柱に食い込んでいた。彼女の縦ステップの動きに幻惑されて、目測を誤ったことでこうなったのだ。それを目の当たりにして、彼は絶句した。

「もらったわ! 覚悟!」

 マリアンヌは短刀を両手に握り、体当たりするように彼に突進し、胸当ての下から、彼の胴に短刀を突き立てた。そして、突き立てた短刀に力を入れて胴をえぐり、重い傷を加えた。

「ぐっ、ぐおおおおっ!!」

 深手を負った血だるまトリニオは、刀から手を離し、よろよろとした足取りで後ろに下がった。

「とどめよ!」

「うぬっ……こん畜生!」

 彼女がとどめの一撃を加えようとしたとき、血だるまトリニオは、向かってきた彼女にショルダータックルを食らわせた。

 彼女は吹っ飛ばされたが、後転してすぐに起きあがった。再度彼女が短刀を構えると、血だるまトリニオは船尾の船縁に立ち、手にダガーを握った。

「よもや、この血だるまトリニオ、バド・ゴールドアングル様が、貴様のような小娘にやられるとはな。完全に一杯食わされた。あの動きで、この俺様を幻惑させて隙を誘い出すとは……」

 彼の腹部からは、おびただしい量の流血がある。短刀で刺されてできた傷は、内臓の奥まで達していて、致命傷になっていた。

「四隻の我が艦隊を翻弄して、この俺様までも陥れるとはな。小娘と思って甘く見た俺様の負けだ。貴様に、砦と鉱山を落とされたのも、納得がいくわ」

 そこまで言ってから彼は、かっと目を見張って、叫んだ。

「だが、調子に乗るなよ! 俺様はトリニオ軍の尖兵。この俺様が倒されても、トリニオ軍には強力な頭目連中と兵力がある。トリニオ軍を敵に回したことを、貴様は後悔するだろう……!」

 腹部の致命傷からだけでなく、口からも大量の流血をしながらそう言い残すと、彼は船縁の上に立ち上がった。

「海の武将の死に様、よく目に焼き付けろ! トリニオ軍、万歳!」

 叫ぶと同時に、血だるまトリニオは、自分ののどにダガーを突き立て、そして、仰向けに倒れて、真っ逆さまに海に落ちた。

「……変な人だったけど、大した武将ね。あの人」

 海に沈んだ血だるまトリニオに向けて、彼女は数秒間、黙祷した。

「さあ、この船の提督はもう倒されたわ! 無駄な抵抗はやめなさい!」

 プレデター号の船尾から、マリアンヌのりんとした叫び声が上がった。

「お嬢ちゃん、我が方の勝利です」

「よし、野郎ども。勝ちどきだ!」

 圧倒的劣勢を逆転して勝利した、インフィニティ号の戦闘員たちは、ジュリアスの音頭に応じて、勝ちどきを上げて喜びを爆発させた。

 一方のプレデター号の賊兵たちは、敗北に信じられない顔をしてぼう然としていたが、我に返ると、ボートを下ろして、船から逃げ始めた。負傷して逃げることのできない賊兵は、マリアンヌたちに投降した。

 ボートは、先にプトレマイオスに追い散らされたスループの乗組員たちと同様、残っているブリガンティンとブリグの方に退却していった。プレデター号の旗が降ろされたことで、勝負が決したことを知ったのだろう、この二隻も旗を降ろした。もはや、戦う意志はないことのしるしだ。

「見事な勝利です、お嬢ちゃん」

「ありがとう。セルやジュリアスが、先頭に立ってくれたからよ。プットは後ろを守ってくれたし、それに、アッシャーが見事な作戦を立ててくれたのもね。なにより、船員のみんなが、無茶な戦いを承知で、勇敢に戦ってくれたからだわ。みんな、よくやってくれたわ」

 彼女が言うと、周囲の船員たちから歓声が上がった。

「提督、ひとつ提案していいか」

 ジュリアスがマリアンヌに向かって言った。

「なに?」

「この船をオレの乗艦にしないか? 連邦海軍の巡洋艦並みの戦闘用艦船だ。しかも、大砲もすでに装備されている。中古とはいえ、実戦に強いことは証明済みだ。これくらいの船を新しく購入しようと思ったら、4,5万ターバルはかかるだろ? この船をオレたちの艦隊に組み入れたほうが何倍もいいだろうぜ」

「そうね。じゃあ、この船はこれから、ジュリアスの乗艦にするわ。これくらいの船が護衛艦についてくれたら、あたしも心強いもの」

 提案を受け入れられて、ジュリアスは「よっしゃ」と握り拳を作って喜んだ。

「おーうい、お嬢。後ろからやってきた船、俺様がやっつけてやったぜぇ」

 プレデター号に、プトレマイオス、カッサンドロス、アッシャーが乗船してきた。

「すごいよ。プットさん、たったひとりでスループ船の賊兵たちを蹴散らして、船も奪ってしまったんだ」

「じゃあ、この戦いで、二隻も船を手に入れたんだ。すごーい。さすがはプットね」

「まあ、この俺様にかかれば、あんな弱虫どもの船、ちょろいもんだぜぇ」

 プトレマイオスはガハガハ笑いながら、ネルソンズブラッドの大瓶を口にくわえ、うまそうにのどに流し込んだ。

「僚艦を増やすという課題も解決したな。オレはこの船に乗ることにした。アッシャー、てめえはあのスループに乗れ」

 ジュリアスがアッシャーに言うと、アッシャーは口をとがらせて、首を横に振った。

「いやだよ。あの船は小さすぎるもの」

「この野郎。中古はいやだとか小さいのはいやだとか、わがままが過ぎるぞ」

「そうじゃないよ。提督は商売を拡大するために、輸送船がほしいんだ。インフィニティ号より小さな輸送船を持ったとしても、提督の思い通りにはならないよ。それに、さっきの戦いでもわかったでしょ。一本マストに縦帆の船だったら、インフィニティ号の船足にとても追いつけないよ」

「なるほどな」

 アッシャーの意見がもっともらしかったので、ジュリアスは腕組みしてうなった。

「でも、せっかくプットがひとりで捕獲した船じゃ。曳航して持ち帰るとよいじゃろう。今は使い道がないとしても、いずれ必要になるかもしれんから、ティシュリ港のドックに係留しておけばよい。造船所に持っていけば、いい改造の仕方を提案してくれるかもしれんしのう」

 カッサンドロスが意見を述べた。

「それがいいね。せっかく手に入れたんだもの。有効に使わなくちゃ」

「了解。インフィニティ号で曳航しましょう」

 捕獲船の処理を決め終わったところで、ジュリアスが言った。

「帰る前に、戦利品をかき集めねえとな。提督、指示を出してくれ」

「わかったよ。じゃあ、みんな。この船の中を探索して、めぼしい物を集めてきてちょうだい。それが終わってから、戦ってくれたみんなに分配するわ」

「わしは負傷兵の治療に当たるわい。投降兵の治療もせんといかんで、いそがしいのう」

「海賊どものけがも診てやるってのかよ、じいさんよぉ」

「医は仁術じゃ」

 プトレマイオスにそう答え、カッサンドロスはけが人の診察にまわった。

 ほかの仲間と船員たちは、プレデター号とスループの二隻の船内を捜索したり、それぞれの船の上を片づけに向かっている。

「さてと……あれれ?」

 マリアンヌは、戦後処理に自分も向かおうとして、足がもつれてよろけた。

「お嬢ちゃん、どうしました」

 異変に気がついたセレウコスが駆け寄り、彼女を支えた。

「さっき、ちょっと走り回りすぎたみたい。足がもつれちゃった。強い相手に戦ったから、無理しちゃったかな?」

 彼女はそう言って、舌を出した。


 血だるまトリニオの艦隊を撃破して、船舶二隻と現金2万ターバル、それにいくらかの財宝という戦利品を獲たマリアンヌたちは、12月28日、意気揚々とティシュリに帰還した。

 ダナン島での仕事を完全に成し遂げ、彼女はその報告をするため、ティシュリ航海者ギルドに向かった。

「親方さん、ただいま。ダナン島から今帰ってきたわ」

「おう、戻ったかい。ワインの配送と荷物の配達、ふたつとも見事に果たしてくれたようだな。約束通り、1万2千ターバルの報酬を渡そう」

 親方は徒弟に命じて、金庫から札束を持ってこさせた。

「まずはこれだ。とっとけ」

「まずは?」

 彼女が聞き返すと、親方はうなずき、いつも厳しい顔に笑みを浮かべた。

「おう、そうだ。実はな、昨日、連邦政府からランシェル海員組合経由で至急伝が届いてな。おまえさん、やけに帰りが遅いと思っていたが、ダナン島でえらいがんばっていたそうじゃないか。連邦政府がおまえさんに、ダナン島の復興に貢献した報奨金を支払うとさ。これが、その至急伝と目録だ」

 親方は一通の手紙を彼女に渡した。高速郵便船で送られる、簡易書式のその手紙には、確かに連邦政府の公式認印があり、ダナン島復興に貢献したマリアンヌ・シャルマーニュに、報奨金2万ターバルを贈るということが、間違いなく書かれていた。

「ダナン島が活力を取り戻したといううわさが、ランシェルは広まってるようだな」

「ついこの間のことだったのに、うわさが広まるのも、連邦政府の反応も早いね。びっくりしちゃった」

「そりゃあれだ。ダナン島との唯一の定期航路があるのはランシェルで、その定期船は官営企業が運航してるからな。情報が政府まで届くのも早いだろうぜ。それに、どうやらダナン島復興については、政府も本気だったようだな。本気なのに、いっこうに成果を上げる奴がいない。そんなときに、おまえさんの活躍だ。それで、おまえさんに報奨金を贈ることを早々と決定したんだろう」

 マリアンヌは、ダナン島を去るときに、ランシェルからの定期船の船長に出会って引継をしたことを思い出した。その船長が、ランシェルで彼女のことを話してくれたのかもしれない。

「あの船長さんに、今度会ったときお礼言っとこう」

「もっとも、連邦政府からの報奨金はまだ届かねぇ。いずれは、ランシェル(連邦政府)か、ティシュリの共和国政庁を通して報奨金をもらえるだろう。けどな、おまえさんの活躍で、わしらティシュリ航海者ギルドの名も上がった。その上、ダナン島とのつながりもできたから、我々の通商路をダナン島、そこから新大洋のフロンティアに拡大する足がかりも手に入れた」

 親方はそう言ってから、先の報酬に札束を追加した。札束を積み上げた。

「だから、ギルドからおまえさんに礼をしようと思っていてな。ギルドからの報奨金1万ターバルだ。とっといてくれ」

「えっ、いいの?」

「いいもなにも、おまえさんの功績だからな。遠慮するな」

 親方に強く勧められたこともあって、彼女はありがたく、その報奨金をいただくことにした。

 親方は、にわかに生き生きした目をして、舌なめずりして、鼻息も荒々しくふかして彼女に言った。

「これを機に、ティシュリ航海者ギルドは新大洋方面へ商売範囲を拡大するぞ。ネオフロンティアは、なにもかもがこれからのところだからな。商業圏拡大のしがいがあるぞ。おまえさんも、どんどん新大洋方面へ行って、商売をしてくれよ」

 彼女はちょっと考え、首を横に振った。

「確かにおもしろそうだけど、あたしはどんどん、世界中のいろんなところに行きたいな。あたしは世界一の船乗りを目指してるもの。もっと広い世界に出たいのよ」

「そうか。まあ、それもいいだろう」

 親方はうなずき、続けた。

「この航海でわかったろう。人一倍がんばって、他人のしない仕事を一生懸命でやってきたことで、資金も、苦労に見合う実力も身に付いた。だが、おまえさんの目指すところはまだまだ、遠いぞ。楽して、一足飛びで高みを目指そうとするんじゃねえ。実力を積み重ねて、世界を目指せ。これからもがんばってくれよ」

「うん、わかったよ。ありがとう、親方さん」

 報酬を頑丈なケースに収めて、それを同行していた船員がしっかりと抱えた。マリアンヌは受け取った報酬を手に、ギルドハウスをあとにした。この報酬はひとまず、銀行に預けることになる。

 報酬を安全なところに預けて、今回の航海はすべて、終了した。

「これで、航海は終了ね。みんな、ほんとにお疲れさま」

 ギルドハウスの外で待機して、銀行まで同行していた仲間たちに、マリアンヌが言った。

「無事に完了しましたね」

「うむ。寄り道の航海じゃったが、有意義だったのう」

「そうだな。命がけだったが、戦利品に報酬にと、かなり儲かったしな。船を増やして、本格的な艦隊を組めるようになったし、提督の目指すところに、また一歩近づいたんじゃねぇか」

「ほんとだ。じゃあ、すぐにアッシャーの乗る船も用意しないとね。ゼップさんの造船所で、新造船を作ってもらおうかしら」

 マリアンヌの言葉に、アッシャーが喜んだ。

「やったね。これでボクも船長、キャプテン王子のアッシャー様だ。しかも新造船。やっぱり、セレブのボクはきれいな船でないとね」

「おいおい、アッシャー。冗談は顔だけにしろよ」

「冗談は顔だけってなにさ。ひどいなあ。美形のボクより、ジュリアスのほうが冗談みたいな顔のくせに」

 かっときて言い返したアッシャーは、すぐにジュリアスのヘッドロックを受けて、「うわー、ギブギブギブ!!」と騒ぎ出した。

「やめてよ二人とも。それより、アッシャーの船の購入とか、今の船の修理や改造とか、次の航海のことを考えたりとか、いろいろしなきゃならないんだから」

「お嬢、それよりもよぉ」

 プトレマイオスがのんびりした声で彼女に言った。

「せっかく帰ってきたんだから、酒盛りといこうぜえ」

 彼のせりふに、マリアンヌはくすっと笑って、うなずいた。

「そうね。これからのことはまたこれから考えればいいわ。せっかくティシュリに帰ってきたんだし、もうすぐお正月だし、今日はぱーっと騒いじゃおうか」

「いやっほぅ。そうこなくっちゃよう」

 彼女の言葉に、プトレマイオスが小躍りして喜んだ。ほかの仲間たちも、笑顔で彼女に賛成した。

「よーし、じゃあみんな。星の水鳥亭に向かうよ。レッツゴー!」

 マリアンヌを先頭に、航海者たちはティシュリの街の中を大手を振って歩き、星の水鳥亭へと繰り出していった。


 それから時を経ずして。

 ティシュリ島のはるか南方。東大洋上に浮かぶ、とある島。

 入り江に面したある邸宅のベランダで、男は部下からの報告を受けた。

「……北方進出の計画がくじかれた、というのか」

「はっ」

 部下の答えを聞いて、男はいらだたしげに、たばこを灰皿の底でもみ消した。

「我らの北方進出計画も、白金のキメラの計画も、ひとりの航海者ふぜいの手出しでつまずくとはな。しかも、血だるまも討たれた。マリアンヌ・シャルマーニュ。……捨ておけんな」

 彼は、眼前に広がる青い海を見つめ、しばらく沈黙した。

「白金のキメラ首脳部の動きは」

「はっ。今のところ、今件の対策等は出ていないようであります」

「きゃつらは大物の加わる秘密組織、表だっては動けまい。我らは軍閥、速やかに動くことができる」

 彼はきびすを返し、部下を振り向いた。そして、冷厳な口調で指示した。

「尖兵級の頭目に艦隊を預けて差し向けろ。マリアンヌ・シャルマーニュの船を狙え」



          【2nd Logbook The End.  See you next logbook. 】

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航海少女マリアンヌ -2nd Logbook(開拓編)- 宮嶋いつく @miyazima_izq

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