第2話エリアD

「チェッキングシステム、オールグリーン、時空生成誤差コンマ03」

「エネルギー生成を確認、次元境界面の発生を確認」

「負荷率75パーセント、許容範囲です」

忙しなく、研究員達は機器の数字を見張り常に異常がないか事細かに、記録をしていた。配線が至る所に漂いながらも宇宙服を着た研究者は辺りをキョロキョロと見渡しつつも、器用に手元を動かしている。


ある者はモニターを見ながら出力の調整を行い、またある者はカメラを掲げてこの壮大な光景を残そうと写真を取っていた。

「よしジェネレーター起動」


「ジェネレーター起動します」

隣の部下が指示通り自分の言葉を反復しながら作業を行う。検査装置による異常がないか確認しつつ

いつ何時となく反復したような実験を繰り返す。


なんて事はない単純なものだ、ワープ航行する為に磁場発生装置を使い空間のプラズマ電子を除去する為に日々実施と反復による実験でデータを取っている。未だ人類は星間移動に置いて核融合エンジンに置ける宇宙ブースターで移動しているが、それだと時間がかかりすぎてしまう。

例えば月から火星に移動するとしよう――――その場合、惑星が最接近した場合でも移動するのに凡そ半日近くは掛かってしまうのだ。いくら核融合技術で無限のエネルギーを得ようとも、それで生み出せる力には限度があるし、ましてや惑星間を航行するとなれば途轍もない時間が掛かってしまうのはある意味では当然のこと。


「全くこの前と全く変わらないじゃないか」

まるで進歩がないとばかりに隣りの研究者が言っているのが聞こえた。それも仕方ないだろう、なぜならこの前と出力が全く変わらないだ。


「文句を言うなアリア、もしかしたら成功するかもしれんだろぉ?」

「それは冗談を言ってるのかしら?冗談なら言うべき時と状況が」

「分かった!分かった!悪かったよ」


本気で言ったわけでは無かったが、どうやら彼女に取ってはその手のやり取りでさえ不満に思ってしまうようだ。しかし、次期プラズマ発生装置二四型ですら出力が全く上がらない。

「うーん、この新型でもダメなのか・・・・・」声を落として悔しい想いをこぼす。


無重力の中でその巨大な楕円型プラズマ発生装置は見る者全てを圧倒させる。手元にあるタブレットからは、まるでそれは無理だと言わんばかりにエラー音と共に数値が表示された。仰向けに浮かびながらそれを眺めつつ考えていると助手から帰還をすると促されてしまう。


「ミサトさん――そろそろ母船に帰りませんと・・・・また怒られますよ?」

「どうしてだ!どうしてなんだ!理論上は可能なはずなのに」

「ペンシェル・ルールでしたっけ?あれって本当に何でしょうかね?俺には全く信じられないですよ」宇宙服を着たまま顔を顰めて有り得ないとばかりに助手は顔をふる。この男はアルベルト・デル・リオと呼ばれる優秀な量子力学の優秀な研究者だ。

白い髪に浅黒い肌をしていて、子供の様に体が小さい。見た目と相反してキツイ仕事でもよく気丈に振舞う態度は、立派だ。


「だいたいいくら重力因子を空間上に発生させた所で、仮に理論上は出来ていたとしても出力条件には到底届きませんし、それを形成する為の方法が確立されてないので出来たとしても、不安定な為にすぐ消失してしまいます」

改めて否定されて期待していた自分はガッカリしていた。当然だろう――何の為にこの実験をしていたか考えれば分かる事だ。今の月面都市アテネには連邦政府が次期惑星間航行様システマを開発しようと莫大な資金を投じていた。世界大戦を経て復興した人類は世界政府の樹立と地球外惑星への進出を成し遂げる事が出来た。


「あ、あれはなんだ?・・・・あの巨大なモニュメントは一体なんなんだ!」

目の前には巨大な船とも建造物とも言える何かがあるのが、見える。


「ぐおお!あ、頭が割れそうだ」

ワープに飲み込まれて、一切何も見えないほどの暗闇の中で、途轍もない重力に引っ張られているのだけは分かる。

しかし予想外の出来事と、未知の事象が起きて自分には何がどうなっているのか理解出来ない。


ここは、何処なのか?、俺は生きているのか?

それすら不安になってしまうほど、怖い。「なんでこんな事になってしまったんだろう…」暗闇の中でそんな事を考えていた。目を瞑ってただじっと息を飲んで耐える事にした。そして、1時間程立った頃くらいだろうか…何やら一筋の光が見えた。


「光?光だ!…ああ…良かった…助かった」

「ぐおお!か・・体が引っ張られる!」

体が出口のような場所に押されて、まともな受け身も取れずに頭から着地する羽目になってしまった。「まさかここは・・・・!」



そう言えば昔歴史の授業で言っていたな、第三次世界大戦の最中たった1発の核ミサイルで街そのものが死体の山で埋め尽くされた都市があると。

ミサトは如何にも、昔のヨーロッパの街並みと言うべき風景が並んでる場所にいた。

赤いレンガと三角の屋根の建物が建ち並ぶ都市、サンプトペテルブルグ。

昔帝政ロシアの頃に町が作られた歴史ある都市だったと聞く。


そう…だっただ。

それは既に過去であり、現在は誰も姿が見えないほど都市は荒れ果てている。

ワームホールに飲み込まれ、異質な世界へと飛ばされた俺は、ここで生き残る為にまず現在地を把握しようとしていた。

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世界秩序の科学者 ノアの箱舟 @00IAI00

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