異界育ちの娘 2

 ディニー・サモナーは、目の前の兄を見る。


 目を見開く、美しい兄。金色の髪を持つ、自分の母親であるナディア・カインズとよく似ている。その姿を見るだけでも、自分の兄だと理解出来る。



 だけど、ディニーは不思議な気持ちでいっぱいである。





(……この人が兄。ぽかんとしている、私のお兄ちゃんの一人。お父さんやお母さんにもっと似ているかと思ってた。お父さんみたいに色々と変わっていたり、お母さんみたいになんだろう、美しさだけではなく何かすごみがあって……でもお兄ちゃんにはそんなのない。お父さんに驚きに固まっているのも不思議。お父さんならこれぐらい当たり前なのに)



 ディニーは兄であるアレキセイの事を不思議そうに見つめている。

 ディニーは異界で生まれ、異界で育ってきた。だからこそ、普通の感覚が分からない。ヴァン・サモナーとずっと暮らしてきたからこそ、ヴァンがちょっとおこっただけで怯える気持ちが分からない。

 こうして固まっている気持ちもよくわからない。



「――い、妹とお!?」


 そして驚いたように叫んだ。



「そうよ。貴方の妹のディニーよ。仲良くしてね、アレキセイ」

「アレキセイ、自己紹介は?」



 ナディアとヴァンがそう告げれば、アレキセイははっとなったように慌てて口を開く。



「―――ア、アレキセイ・サモナーだ。えっと、妹なら、ディニーでいいか」

「うん。私は、アレキセイお兄ちゃんって呼ぶね」

「ああ。……えっと、父さん、母さんも、ディニーも、とりあえず中で話そう」




 アレキセイは突然、戻ってきた両親と、突然出来た妹に戸惑いながら、そのまま中へと案内する。そもそも突然で混乱しすぎて、ヴァンの異常さにあてられて反抗する気さえもなくなっていた。


 そしてアレキセイに連れられて、ヴァンたちは中へと入っていく。










「――あまり昔と変わってないのね」

「うん。ヴァン兄とナディア様が戻ってくるときのためにもそのままにしておこうって、そのままにしていたの」

「そうなのね」



 スノウはナディアの言葉に嬉しそうに声をあげている。スノウはヴァンとナディアが戻ってきたことが嬉しすぎるのかにこにこしている。ディニーは不思議そうにきょろきょろあたりを見回している。



「ねぇ、アレキセイ、ナガラードは何処にいるの?」

「あ、ええと、兄さんなら王都で学んでいるけど……」

「あら、そうなの? 王都に顔を出してすぐにこっちにきてしまったわ。ナガラードとも会いたいのだけど」

「ナディアが会いたいなら連れてくる」




 ……ヴァンはナディアが大好きで仕方がないので、ナガラードが王都に居ることを知り、ナディアがナガラードにも会いたいというが否やすぐに言う。

 ヴァンたちは挨拶もそこそこに領地に戻ってしまったので、ナガラードたちとは会っていないのである。



「あら、連れてきてくれるの? ナガラードと話せるなら嬉しいけれど、王都で何かをしているなら急に連れてくるのは問題かしら?」

「ナディア様、大丈夫だと思う。ナガラードもヴァン兄とナディア様に会いたいはず。少しぐらい休んでもいけるはず」

「そうなの? ヴァン、ナガラードがもしこっちにすぐ来れないというなら、連れてこなくていいからね? 無理やり連れてきちゃ駄目よ?」



 ナディアはヴァンがナディアのためなら嫌がっても息子を此処に連れてきそうなことを理解しているので、そう告げる。それを聞いて「うん、ナディア」とヴァンは答えてフィアに乗ってまた王都に向かっていった。



 アレキセイは、両親達の会話に混乱している。アレキセイは両親の記憶がほとんどなく、二人の事は噂や人から聞いた話でしか知らない。だからこそ、何だ、この会話はとなっている。





「アレキセイお兄ちゃん、何で驚いているの」

「いや、俺は……、母さんと父さんの記憶、あまりないから……。こんな会話するんだなって」

「そうなんだ。そっか。アレキセイお兄ちゃんが小さい頃にお母さんたち異界に落ちたんだっけ」

「は? 異界?」



 アレキセイはまだ異界に両親が言っていたことも聞いていなかったので、目を見開いている。何を言っているんだという目を、ディニーに向ける。



「お父さんとお母さん、異界にいたんだよ。それで私が生まれたの」

「はああ? 異界っていけるものなのか? そもそもかえって来れるものなのか? 意味わかんねぇ!!」



 アレキセイ、混乱しすぎて口が悪くなっている



 詰め寄るようにディニーに告げているが、ディニーは怯える様子もない。ディニーからしてみれば、異界にいた召喚獣達や、圧倒的な力を持つ父親の方が怒らせたら怖い存在なので、アレキセイのことは全くもって怖れとかないのである。見降ろされても冷静である。



「うん。そうだよ。私はずっと異界で育ったからよく分からないけど、あっちで人は見なかったし、やっぱりお父さんとお母さんってすごいんだと思う」



 簡単にディニーが肯定すれば、アレキセイはその言葉に呆けるのであった。



 ――異界育ちの娘 2

 (異界育ちの娘は、兄に説明をする)

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