異界育ちの娘 3
「異界育ちってなんだよ。というか、異界に落ちていたって……。母さんと父さんも異界に居たってことか!?」
「そうだよ。そういってるじゃん。アレキセイお兄ちゃん」
「そうなのよ。だから中々戻って来れなくてごめんなさいね。アレキセイ」
アレキセイの驚きの声に、ディニーとナディアは簡単に答える。益々固まるアレキセイ。その隣ではスノウが「流石ヴァン兄たち!! ヴァン兄なら余裕だもんね」と無邪気に笑っていた。
(意味が分からない。異界に居たってどういうことだよ。そもそも異界っていけるものなのか? 異界にいったからといって戻って来れるものなのか? それが本当だというのならば、凄まじいことだけど……やばい)
アレキセイ、召喚獣の凄さも知識としては学んでいるし、異界のことも知っているから信じられない思いでいっぱいである。
「や、やべぇ!!」
そして自分の両親がやばいことを自覚して、口悪いことにそんな風に叫んでしまうのである。
「アレキセイお兄ちゃん、びっくりしすぎじゃない? お父さんもお母さんも凄いんだよ!! 特にお父さんはおかしいんだからね」
「あ、ああ」
と、そんな会話をしながら兄妹の交流を深めている間に、大きな音が庭でした。
「あら、ヴァンが帰ってきたわね」
「お父さんだね」
ナディアとディニーは平然としているが、アレキセイからしてみれば心臓に悪い。ただでさえ、長い間行方不明だった両親が妹まで連れて戻ってきて、驚いて仕方がないのに――、またこうして召喚獣を従えて、簡単に王都と行き来してしまうのだ。
驕っていたアレキセイの気持ちはどんどんしぼんでいくのだ。
「――ナディア、ナガラード、連れてきた」
ヴァンはそう言いながら魔法で浮かせたナガラード――どうやら召喚獣に乗っての移動で酔ってしまった様子の長男を、家の中に放りだす。
「あ、兄上、大丈夫か!?」
「まぁ、ヴァン、ナガラードはどうしたの?」
アレキセイとナディアは、そんな言葉をかけてナガラードに近づく。
「う……酔っただけだ。気にするな。フィアに乗ったのは久しぶりだったから」
ナガラードはくらくらした頭でなんとか、そう答える。
ナガラードは王都で過ごしていたら突然、両親がかえってきたことを知った。それでいて、もう両親が領地に戻ってしまった話を聞いてがっかりしたものである。折角、両親にまた会えると思ったのに――、としかしそんな落ち込むナガラードの前にヴァンはフィアにのって現れた。
王都で巨大な召喚獣に乗って往復するヴァンの姿にそれはもう騒ぎになっていた。
「父上、久しぶり」
「久しぶりだな。ナガラード。ナディアが会いたがっている。これるか」
……久しぶりと言う言葉をかけたあとには、すぐにそれである。ナガラードの記憶の中にある父親はいつだって母親のことを最優先していた。何よりもナディア・サモナーという存在を大切にし、他のものなど目に入らないといった様子の英雄。
それが、ヴァン・サモナーである。
変わらない姿にほっとすると同時に、苦笑を浮かべながらナガラードは頷いた。そしてすぐにフィアに乗せられて領地に戻ったわけだが、ヴァンはナディアにはやくナガラードを会わせたいという思いの元、全く以って手加減をしなかった。……一応ナガラードが振り落とされない程度の速さというのは保たれていたが、それでもフィアに乗り慣れていないナガラードには辛い道程だった。とはいえ、久しぶりに両親と交流をしたかったのと、噂の妹に会いたいという思いからここまでやってきたのである。
ナガラードは侍女から飲み物を受け取って口に含み、ふーっと息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。
「久しぶりです。母上」
「ええ。久しぶりね。ナガラード。大きくなったわね」
ナディア・サモナーはナガラードの記憶の中にあるように美しい女性だった。肖像画よりもずっと美しくて優しい笑みを浮かべる、父親の逆鱗。
何よりも母親を優先する父親は、ナディアの嬉しそうな顔に満足気に頷いている。
(きっと父上は母上がいればどうでもよかったんだろうな。俺やアレキセイのことは大切にしていただろうけど、何よりも大切なのは母上だし。というか、アレキセイ、少し怯えている? 早速父上の事を怒らせてしまったんだろうか)
そんな思考をしながらナガラードは、ナディアのすぐ後ろにいる少女に声をかける。
「君がディニーかな。俺の妹の。俺はナガラード・サモナー。君の兄だよ」
「私は、ディニー・サモナー。よろしくね。ナガラードお兄ちゃん」
ナガラードはまじまじとディニーのことを見てしまう。どこか父親に似ている、妹。平凡な見た目だが、この妹も何か父親のように飛びぬけた要素があるのだろうか、そんな風に思わず思ってしまうほどに雰囲気がヴァンに似ていた。
――異界育ちの娘 3
(異界育ちの妹は長兄と邂逅する)
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