スノウの生きる道

「スノウちゃん、お出かけかい?」

「スノウさん、おはようございます!」



 スノウはサモナー家の領地で過ごしている。



 ヴァンとナディアの治める領地では、スノウの存在は当たり前のように受け入れられている。

 それは、結婚してこの領地を治めているヴァンとナディアがスノウという存在の事を受け入れてくれているからだ。合成獣であり、見た目が人と異なるスノウの事を”人”として受け入れてくれている。


 スノウは人とは異なるけれども、確かに人である。



 そしてそれはサモナー領で皆が人として受け入れてくれるからこそ、人としてそこに居られるようになったと、そんな風に思っている。

 人として、接してくれていて、人として、受け入れてくれている。

 そんな場所があることを、大人になったスノウは嬉しく思っている。でもスノウは大人になったといえる年齢になっても、姿かたちは変わらない。スノウは少女の姿のままだ。それは、スノウが合成獣の少女であるが故だろうとヴァンは言った。



 ヴァンやナディアが大人になっていく——でも、スノウはずっと少女の姿のまま。姿が変わらないスノウの事を、この領地の者達はそういうものとして受け入れてくれている。

 スノウという合成獣の少女。――スノウという人。そう受け入れてくれているのだ。



 この領地内では、ヴァンの召喚獣達の姿がよくみられる。何か悪さをする存在が居ればすぐにヴァンの召喚獣達の手によって知られてしまう。それにこの領地にはスノウが居る。スノウは人の世で受け入れられるために、誰かが困っていると進んで手を貸した。スノウは合成獣であるから、人よりも出来る事が多いのだ。

 だからこそ、今こうして、スノウは人として好かれている。



(スノウ……ヴァン兄、出会えてよかった。ヴァン兄に殺されなくてよかった。スノウ、あの時、ヴァン兄に殺されてもおかしくなかった。スノウは、此処で人としてあれる事が嬉しい。だから——この地を守る。スノウは、多分、ヴァン兄たちよりずっと生きるから)



 スノウは人間と同じように年を取らない。だから、おそらくヴァン達が死んだ後も、ずっとスノウは生き続ける。その事実を、スノウは受け入れている。スノウは少女の姿のまま、いつ、見た目が精神に追いつくのかは定かではない。

 いつか、大切な人は死んでしまう。スノウを残して。

 でもその事実をここ数年でスノウはちゃんと受け止めた。受け止めた上で、この領地が好きだから生きている限り好きな物のために頑張ろうと思っていた。



「ただいま」



 スノウがサモナー家の屋敷に戻れば、スノウの元へ小さな影がとびかかってくる。それをスノウは水かきのついた手で受け止める。



「急に飛びついたら危ないと言っているでしょう……」

「スノウなら受け止められるだろー?」



 などと、偉そうに口にしているのはヴァンとナディアの第一子である男の子、ナガラードである。ナディア譲りの美しさを持つ男の子で、ヴァン達が結婚してすぐ生まれた。もう五歳になる。



(あんなに小さかったのに、もうこんなになってる。スノウ、多分、そのうち背がこされる)



 スノウは、ナガラードからしてみれば不変的な存在とでも思われているかもしれない。スノウは、姿が変わらず、ずっとナガラードの前に存在しているのだから。さまざまな生物の部位を持つスノウは、ヴァンとナディアの子供達にとっては良い遊び相手であった。



「スノウ、お帰りなさい」

「ナディア様……ただいま」



 ナディアの腕の中には、二歳になる第二子、アレキセイがいる。こちらもナディアに似ていて、まだ二歳なのに、顔立ちが整っていた。


 二人とも綺麗な金色の髪を持ち合わせている。


 アレキセイの方は母親であるナディアに抱かれて眠っていた。ナディアの後ろにはこの屋敷に仕えている侍女達の姿もある。



 彼らは皆、スノウを受け入れて、スノウをこの家の一員のように認めてくれている。

 スノウは、此処でただいまと言える事が好きだ。そしておかえりと声をかけてくれる事が好きだ。

 スノウは人間とは成長の過程が違うけれども、確かに人だ。そして、周りにいる人たちが好きなのだ。



(スノウ、此処が好きだから、もっとこの場所のために、好きな人達のために頑張る)



 スノウはだから今日もそんなことを決意するのだ。



 ――大好きな場所のために、大好きな人たちのために頑張る。


 それが、スノウの生きる道だから。




 ―――スノウの生きる道

 (合成獣の少女は人として、その領地で生きている。そして大好きな人たちのために頑張る事を自分の道だと決めている)

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