サモナー公爵家の長男 1
「ナガラード、今日はどうだった?」
「いつも通りですよ。フロノスさん」
王都にあるサモナー公爵家の別邸。そこに帰宅したナガラード・サモナーを出迎えたのは、ナガラードの父親であるヴァン・サモナーの姉弟子である女性だ。
灰色の髪を持つその女性は、このカインズ王国でも屈指の魔法師である。未だに独身で、その優秀な血が子に伝えられないことを懸念されているが、本人は気にしていないようである。
母親であるナディア・サモナー譲りの美しい金色の髪を持つ少年は、今年十四歳になる。今は公爵家の嫡男として、王都の別邸で勉強をしている。ナガラードは、父親ほど魔法の才能も、召喚師としての才能も持ち合わせていなかった。
それなりに魔法の才能はあるものの、父親であるヴァン・サモナーと比べれば月とすっぽんである。親しい人達はそのことで何かを言ってくることはないものの、国の貴族たちの中では「あの英雄からこんな出来損ないが生まれるとは」などと口さがないことを言うものもいるぐらいだ。
とはいえ、ナガラードは自分と父親であるヴァンの差を明確に実感しているので、特に気にすることはない。
記憶の中で思い出される父親は、どうしようもないほど規格外で頭がおかしい。常識というものを学べば学ぶほど、ナガラードは自分の父親の規格外さを実感していた。
そもそも、ヴァンの召喚獣たちは王都やサモナー公爵領に何体か存在していて、最近では《守護獣》なんて呼び方がされていて、本人達は少しだけこっぱずかしそうにしていた。
フロノス・マラナラは、八年前からナガラードや、弟であるアレキセイの事を気にかけてくれている。ナガラードの叔母にあたるキリマ・マラナラやヴァンの師匠であるディグ・マラナラ、はたまたこの国の王や王弟も親族としてサモナー家の兄弟の元へよく訪れ、交流を深めている。
「それは良かったわ。疲れていなければ今から魔法の稽古をつけたいと思うのだけど」
「大丈夫です」
ナガラードは魔法の才能が父親ほどないとはいえ、それで腐るような少年ではなかった。
折角王都にきているのだからと、王城で魔法師として働いているフロノスが時間がある時に魔法を見てくれているのだ。
フロノスの教え方は分かりやすく、ナガラードはフロノスから魔法を学ぶ時間が好きだった。
さっそく、別邸の庭へと向かう。
「ナガラード、魔法を使うには魔法に対する理解が重要なのよ。ちゃんと本は読んでいる?」
「はい。ちゃんと魔法の本は読んでます。ただ学べば学ぶほど、父上の格外さやフロノスさんやディグさんたちの凄さを実感します」
「ヴァンは昔から色々おかしいもの。アレは真似しちゃダメよ。あれはヴァンだから出来たことなのだから。召喚獣を呼び出すのも、もしやる場合は本当に覚悟を持ってしなきゃダメだからね。ナガラードは昔から召喚獣たちに囲まれて過ごしているから、危険だって実感はないかもしれないけれど……、召喚獣を呼び出すのは危険なのだから」
「分かってます。呼び出すとしたらちゃんと準備をして、フロノスさんたちが見守っている中でやりますよ」
フロノスの言葉に、ナガラードはそう答える。
……そんなことを答えながら、昔の記憶、父親であるヴァンが軽い調子で召喚獣を呼び出し契約していたことを思い起こしていた。
ナガラードとアレキセイの事を連れて森へ出かけたかと思えば、そこで暴れていた魔物を軽い調子で倒して、「よし、呼び出すか」とすぐに召喚獣を呼び出し、その場で契約をしていた。幼き日のナガラードとアレキセイはそれはもう目を輝かせていたものである。
と、そんな昔の記憶を思い起こしながらナガラードはフロノス・マラナラとの勉強に励んだ。基本的にフロノスから与えられた宿題――本を読むなどを自習でこなし、フロノスがついてくれる時は実戦形式で学ぶことが多い。
フロノスはナガラードの目からしてみれば中々スパルタなのだが、フロノスがいうには「全然スパルタではない」とのことだ。
フロノス・マラナラは努力の人だ。
英雄である師匠と弟弟子に囲まれながら、英雄の弟子で、姉弟子として相応しくあろうと努力し続けた人だ。きっとその努力は並大抵のものではないだろう。
よっぽど努力をしなければ、カインズ王国にフロノス・マラナラありと言われるほどに名を馳せることは出来ないのだ。
ナガラードはサモナー公爵家を継ぐ予定であり、現状は王宮魔法師になる予定はない。けれども、魔法を学ぶということは何かで役に立つことだ。
ヴァン・サモナーが過去に大暴れした一件により、カインズ王国は平和を保っている。けれど、最近は少しだけきな臭い噂もある。ヴァンの召喚獣たちがいるため問題はないだろうが、何かが起こらないとは限らない。
ナガラードは公爵家の嫡男である前に、あのヴァン・サモナーの息子である。そのネームバリューは良くも悪くも人を引き付けるものなのだ。だからこそ、自衛のためにもナガラードは魔法を学んでいる。
「今日は此処までにしましょうか」
フロノスがそう言ったのは、すっかり日も暮れた頃だ。二時間近く、ずっと魔法の実践形式の訓練をしていたナガラードの顔には疲労が見えている。しかしフロノス・マラナラは汗すらもかいていない。
「ありがとうございました」
ナガラードがそう告げれば、フロノスは笑みを浮かべるのだった。
訓練を終えた後、フロノスは王城へと帰っていった。
そしてナガラードは別邸内にある自室に戻るのであった。
自室は簡素な部屋だ。本棚やベッドや机ある程度で、家具はそこまで多くはない。椅子に腰かけながら、ナガラード・サモナーはカレンダーに目をやる。
(……父上や母上がいなくなって、八年か)
そんなことを考え、ナガラード・サモナーは物思いにふけた。
『破壊神』、『召喚師』、『国落とし』などという多くの二つ名を持つカインズ王国の英雄、ヴァン・サモナー。
そしてその英雄の逆鱗として知られる美しき元王女、ナディア・サモナー。
その二人は八年前より行方不明になっていた。
――サモナー公爵家の長男 1
(サモナー家の長男は、王都の別邸で過ごしている)
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