エピローグ

219.ガラス職人の息子と初恋の王女様についての話。

 カインズ王国。

 自然豊かなその大国には、有名な一組の夫婦がいる。



 それは、国内最強の英雄である『破壊神』とか、『召喚師』とか様々な呼び名で呼ばれているヴァン・サモナーとこの国の元王族でありヴァンの元へ降嫁したナディア・サモナー。



 ナディアが十五歳になった時に、二人は籍を入れた。

 結婚と同時に、ナディアが賜った貴族としての呼び名はサモナー。召喚師を現す語だ。それは、ヴァンが召喚師として知られているからであろう。



 『破壊神』と、その逆鱗として知られている元王女。

 その二人は何時でも何処でも仲良さそうにしている。



 領地は、王都から少しだけ離れた魔物がそれなりに出現する地を与えられた。ヴァンやヴァンの召喚獣達の活躍により、魔物の被害はほとんど出ないまでになっていた。

 それだけ、ヴァンの召喚獣達の力は強大であった。



 ヴァンという存在が『破壊神』と呼ばれるほどの活躍をした結果、カインズ王国に攻め入ろうなどと考える者は皆無になっており、カインズ王国はとても平和である。

 また、カインズ王国の国王であるシードル・カインズはヴァンが居るからと周辺諸国を攻め入るほどに愚かではなかったのも幸いしただろう。ナディアが周辺諸国に攻め入る事を望んでいないので、そんなことをシードルが決意した所で、ヴァンが拒絶して終わりであっただろうが。例えば、ヴァンの事を理解せずに無理強いをするような王だったのならば、ヴァンはこの国を見限って他の場所へとナディアを攫っていっただろう。



 カインズ王国が平和な様を見て、シードルは王太子であるレイアードに王位を明け渡す事を宣言していた。

 レイアードもまた、ヴァンの事を知っているので、愚かな真似はしないだろうと信じての譲位である。



 また、只の平民から王女様と結婚まで果たしたヴァンは平民達の憧れの的となっていた。ヴァンという存在が居た事もあって、平民の出でも有能な者が居るのではないかとそれを見つけ出す制度まで整っているほどだった。

 ヴァンは様々な影響を国内外で与えていた。



 さて、そんな『破壊神』などと呼ばれるほどの存在は、現在、にこにこと笑いながら愛しい妻の側に居た。






「ナディア、何か手伝う事あるか?」

「そうねぇ……」




 サモナー家は公爵家である。その公爵位を継いでいるのはヴァンではなく、ナディアだ。ヴァンはナディアの側に居ると決意して色々と学んではいるが、領地経営なんて出来ない。ナディアが当主として、領地経営をしているのだ。



 ヴァンはナディアに手伝う事がないか問いかけて、頼まれた事を意気揚々としている。そんなヴァンの地位は、師であるディグと同じく、王宮魔法師である。王宮魔法師でありながら、王都に居なくてもいいのかと言われそうなものだが、ヴァンの場合、やろうと思えば、すぐに王宮に行けるし、何より、ナディアの側に居たがるヴァンをナディアの側から離そうなどとカインズ王国では考えていなかった。

 何より、ヴァンを怒らせたくないと考えていたためである。仕事をしていないのならば、問題はあるが、ヴァンはきちんと王宮魔法師としての仕事をこなした上で、領地に滞在している。王宮魔法師としての仕事は通いでしていた。

 ヴァンは、今日もナディアの側で笑っている。



 平民だったガラス職人の息子は、初恋の王女様の夫として、幸せに過ごしている。

 その幸せな物語は、国内中で知られている。……それもヴァンが有名になったからとヴァンとナディアのなれ初めの話などの取材を受けて、ヴァンもナディアも隠さずに答えたからでもあるが。



 それは、『ガラス職人の息子と初恋の王女様の話』というタイトルで、物語として広まっている。ナディアは恥ずかしがっていたが、人の目を気にもしないヴァンは別にいいと思っていた。それに、恥ずかしがっているナディアも、ヴァンが自分のものだと広まるのは嬉しいと思っていたので、結局、物語とする事を許可してしまっていた。





 二人は幸せそうに、共に人生を歩んでいる。

 ――二人を邪魔する者は居ない。

 二人は只、互いに微笑みあいながら生きている。




 end


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