194.外交について 3
ナディア・カインズは、『火炎の魔法師』ディグ・マラナラの弟子であるヴァンと婚約を果たした。そのことに対して、案内役のトゥルイヤ王国の第二王女、ビィタリア・トゥルイヤがナディアに何か感じている事はナディアも感じていた。
その理由は、ルクシオウスの弟子であるザウドック・ミッドアイスラがやってきてからすぐに分かった。
どうやら婚約者がいる身でビィタリアはザウドック・ミッドアイスラと婚約を結びたいと願っているらしかった。
(……ビィタリア様の婚約者はトゥルイヤ王国の公爵家のはず。その公爵領はカインズ王国ともシザス帝国とも国境を隣接させている重要な位置に領を持つ。その公爵領と王家の親交をもっと深めるために、という意味も込めて結ばれた婚約のはず。政略結婚を結ばされることになっているけれど、その相手の事を好ましく思っていないのでしょう……。でもだからといって嫌がっている方に迫り続けるのは……。ああ、でももし私ならどうするでしょうか。例えば、政略結婚を結ばされそうになった時、誰かほかに結婚したい時とか……考えても仕方がないたらればを考えてしまう。ビィタリア様の事を刺激しないように、上手くやらないと)
ビィタリアは、政略結婚の相手を政略結婚であるといって割り切れないのだろう。
(でも、王女として生きてきたのならば、政略結婚に理解があるのではないかと思うのだけれども、それでも割り切れない相手とはどういう方なのだろうか?考えても仕方がないけれどもそういうことを考えてしまう)
そう考えながらナディアはビィタリアと共に過ごした。
ビィタリアの兄である王太子は出来た人間で、ビィタリアがザウドックに迷惑をかけたりしているのを謝罪して回ったりと大変そうだ。しかし、王太子自身もビィタリアの婚約者の事をよく思っていないようだった。
(私が関わることではないけれども……ああ、でも隣国の事情だからちゃんと把握しておかないと、こちらの国に問題が降りかかることもあるのか。ならば、帰国したらお父様やお兄様たちに報告だけはしておきましょう)
此処で見聞きしたこと、感じたこと、それをきちんとカインズ王国の国王や王太子に伝えなければとナディアは決意するのであった。
さて、別の日、ナディアはトゥルイヤ王国で行われるパーティーに参加していた。
他国のパーティーに参加することも初めての事である。自国のパーティーと雰囲気が違うのは当然だ。他国のパーティーでは、ナディアは客人として、カインズ王国の顔として招かれる。ナディアが何かやらかしてしまったらそれがカインズ王国の評価になってしまったりもする。
そのことを考えるとナディアは不安を感じもする。こうして他国へと足を踏み入れて生活をするのは、ナディアには落ち着かない。
カインズ王国は、ナディアにとって心地が良い場所だ。自分を愛してくれている人が多く居て、何よりも落ち着く。
他国へと足を踏み入れたからこそ、余計に自分の国に対する愛情がナディアには芽生えている。
(でも、大丈夫。姿は見えないけれどヴァンの召喚獣たちは傍にいてくれる。姿を隠していても私の事を見守っていてくれている。ヴァンの……くれたプレゼントがある。それを思うと、私は頑張れる。私は一人ではないもの)
パーティー会場に足を踏み入れて、視線を受ける。
見定めるような目には緊張する。トゥルイヤ王国の王宮には数日前から足を踏み入れていたものの、これだけ多くのトゥルイヤ王国の人間の前に姿を現すのは初めての事であった。
緊張する気持ち、不安を感じる想い。
沢山の思いが交差していても、それでも頑張れると思うのはやっぱりヴァンがいるからなのだ。
(ヴァンがいてくれて、私に出会ってくれて……だからこそ、私はこうして頑張れている。大丈夫。ヴァンがいてくれるから、私は頑張れる。ヴァンとの未来のためにも、私はカインズ王国の第三王女として相応しく動く)
それは決意だ。
ヴァンと一緒の輝かしい未来を実現するために。
望んでいる未来を手に入れるためには、待っているだけではいけないのだ。行動をして、頑張ってこそ、その未来へと歩みだせる。
そう思うからこそ、ナディアはヴァンと婚約を結んだ。これで幸せになれると努力をやめる事はしない。
「私はカインズ王国、第三王女ナディア・カインズですわ。どうぞ、今回はよろしくお願いします」
ナディアは優雅に挨拶をする。
まだ幼さを残しているとはいえ、美しいナディアの着飾った姿にほぉと息を呑む者達も多く居る。
召喚獣たちは、「着飾っているナディア様のこと主にも是非見せたいぜ」などと思いながらひっそりとナディアの事を見守っていた。その場にヴァンの召喚獣たちが潜んでいる事を誰も気づいていなかった。
―――外交について 3
(カインズ王国の第三王女は隣国のパーティーに顔を出す)
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