195.外交について 4
「ナディア様は噂に違わぬ美しい方ですね」
「婚約者がいなければ、うちの息子をおすすめしたのですが——」
ナディアの美しい見た目にそういった賛美の言葉が告げられる。ナディアはその言葉を笑みを零して受け止める。
また、ヴァンと婚約を結んだことに対して興味津々な様子で問いかけてくるものも多く居た。
そしてそのパーティーには、ビィタリアの婚約者はいなかった。どうやら公爵領の方で問題が起きていてこちらには顔を出せないという話だった。ビィタリアが心の底からほっとした様子だった。
(それにしても、皆ヴァンという存在に興味を持っているのね。ヴァンは只でさえディグ様の弟子になった平民という事でこの国でも騒がれていたでしょうし、それが私と婚約を結ぶことになって皆色々騒いでいるのね。でもヴァンが上手くやったとか、王族の婚約者になるのを望んで私を好いていないとかそういう噂があるのは……何だかもやもやするわ。ヴァンは、権力などには興味がないもの。ディグ様に見つからなければ私の側に現れることさえなかっただろうヴァンがそういうものに興味があるはずもないわ)
ナディアはそういう意味を含んだ言葉を投げかけられた後、どうしてもそういうことを考えてしまう。ヴァンの事を思考していた。
目の前の人たちがヴァンの事を理解していないことにもやもやとしながらも、自分がヴァンの事を理解している事を本当に嬉しく感じている。
「ナディア様も大変ですわね。平民と婚約を結ばなければならないなんて……」
「いえ、全く苦にはなりませんわ」
そういう言葉には、ナディアはにっこりと笑みを零す。
ナディアはヴァンがヴァンだから婚約を結びたかったのだ。ヴァンが平民であろうが、貴族だろうが、ヴァンがヴァンだから共に居たいと望んでいるのだ。だからビィタリアに答えたようにきっぱりと答える。
自分がヴァンの側に居たくて、平民であるヴァンと婚約を結んだという事実はナディアにとって恥じるべきものでは一切なかった。
「ナディア様は婚約者様の事を本当に愛しておられるのですね。羨ましいことですわ」
「まぁ、思い合っているのは素晴らしいことですわ」
そんな風に祝福される事はナディアにとって素直に嬉しい事だった。尤も王侯貴族とは心の底では何を感じているのか分からないものなので、実際は違う感情を持ち合わせている可能性も十分にあったが、それでもお世辞だったとしてもヴァンとの仲を祝福されるのは嬉しい。
「ナディア様、そういえば、貴方の国であるカインズ王国では——」
「ええ、そうですわ。最近は——」
パーティーの中では、ナディアの知識をためそうと思っているのか、あまり知られていないような情報を持ちかけてくるものもいた。だけど、王女として相応しくあろうと毎日政治の勉強をしているナディアなので、その話題についていくことが出来た。
自分の今の学びで、他国での外交でやっていけるのだろうかという不安も少しは感じていたナディアは自分が前置きもない問いかけに対応できている事にほっとしていた。
(よかった。私がやってきたことはちゃんと今に繋がっている)
そのことにほっとしている。他国で自分がきちんと対応出来たということは、これからの自信に繋がるものだ。ナディアはこれからのために、隣国への外交にこうして足を踏み出した。こうして上手く対応をしていくことで、ナディア・カインズの評価は上がる。少なくとも決して下げてはいけないとナディアは思っている。
評価を上げる事で、これからヴァンと一緒に歩む未来に良い効果をあらわすはずだと信じている。
そんなナディアの思いを知っているのか知らないのか、ディグ・マラナラはトゥルイヤ王国の貴族に囲まれながらのんびり過ごしている。こちらは緊張も一切していない。こういうパーティーには慣れているのだろう。
ナディアの護衛という名目でこの国に来ているのもあって、パーティー中もナディアの様子には気を配っているものの、ヴァンの召喚獣たちもいるのは知っているのでそこまで気を張って見張っているわけではなかった。
(ナディア様も頑張っているな。ヴァンに出会ってからヴァンに相応しくありたいと頑張るって、普通は王女の方が上の立場で逆なんだろうけど。まぁ、それがナディア様とヴァンらしいか)
ディグはそんな風に思いながら、本当に自分の弟子になった少年とその思い人である王女を見ているのは面白いと思ってならなかった。
(隣国の大きなパーティーもこれだけ堂々とこなせるのならナディア様はどんなパーティーでもちゃんとこなせるだろう。なら、外交に関しては心配はいらない。それ以外を俺が気を配らないと。ナディア様に何かあったら……あいつがどうなるか分かったものではないし)
そう思いながら、ディグはナディアの身に何か起こらないように気を付けなければならないと考えるのだった。
―――外交について 4
(第三王女はパーティーで頑張り、英雄はその様子を見守っている)
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