193.外交について 2

「王女と一緒にお前まで来ると思わなかったぞ」

「うちの国の国王陛下は親バカだからな。心配だからついていけと。それに、俺もこの国にしばらくきてなかったしな」

「そうか。しかし、あの王女、以前と少し雰囲気が変わったな」

「ヴァンと婚約を結んでからナディア様ははりきっているからな」



 そんな会話を交わしているのはトゥルイヤ王国の英雄である『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラとカインズ王国の英雄である『火炎の魔法師』ディグ・マラナラである。



 ルクシオウスとディグが会うのは、ルクシオウスとその弟子であるザウドック・ミッドアイスラがカインズ王国にやってきた時以来である。



「平民の身でありながら王女と婚約なんて凄い逆玉じゃねぇか」

「まぁ、そうなんだが、あいつ婚約を結ぶ前と後であんまり変わってないからな。王族と婚約を結んだからと気を大きくすることもしないし」



 そう言いながら、ディグは例えばヴァンがそういう性格だったらどうなっただろうかと考えるとぞっとした。自分の力を見せつけたいというタイプだったり、我が強くて自分の思うままに全てを進めたいなんて考えてしまうような存在だったのならば王位略奪でもさらっとできてしまいそうである。ヴァンがああいう性格だからこそ、良かったのだと改めて思うディグであった。

 召喚獣二十匹と、規格外の少年が本気を出したらどうなったものかたまったものではない。




「……そういえば、ディグ、そちらでは誘拐事件が起きていたんだよな?」

「ああ。それで人間と魔物を組み合わせた存在も保護している」

「……こちらでも似たような事件がおこっている。流石に人間との合成獣はいなかったが、シザス帝国の動きが活発だ」

「そうだな……ここの所、色々あいつらは起こしている。だが、対処できないほどではないからどうにでもできるだろう」

「まぁ、そうだが……うちの国内も色々と不穏な動きがあるから外交に来ている王女の事は気にかけていた方がいいぞ」

「ああ。それは当然する。ただ、手を出そうとしてもヴァンの召喚獣たちやヴァンの与えた魔法具に守られているナディア様に何かあるとは思えないけどな……」

「……相変わらず、召喚獣がいるのか?」



 ルクシオウスはまだ遠目にしか外交にきたナディアを見ていなかったので、その傍に召喚獣がいることに気づいていなかった。



「ああ。七匹もいる」

「七匹……本当に規格外なやつだな」



 ルクシオウスは面白そうに笑いながらも呆れた感情を持っている。



 本当に、何処までも規格外。他に追随を許さない召喚獣の数。そして、簡単に魔法具を作ってしまう才能。魔法をいとも簡単にこなすだけの才能。――それを全て持ち合わせている存在なんて、今まで聞いたこともなかった。



「あれだけの守りを掻い潜ってナディア様に何か出来る奴はいないだろう」

「そうだろうな。しかし、万が一という可能性はあるのだから、ちゃんと見ていた方がいいぞ」

「ああ、それはきちんとするさ。もし何かあったとしてあいつがどんなふうに動くか分かったものではないからな」



 例えば、本気でナディアの身に何か起こったのならばヴァンは躊躇いもなく行動を起こすだろう。そのことがわかるからこそ、余計にディグはナディアの身に何も起こらないように気を付けようと思ってならない。もし何かあったのならばどんなふうに動くのか分かったものではないのだから。




「それと、ヴァンと王女が婚約したことで、ザウドックの方にも色々と弊害が来ていてな」

「弊害?」

「そうだ。あいつは自分は養子だからとか色々いって上手く躱していたんだが……あいつ俺の弟子で養子だし見た目もいいからそれなりに縁談来るからな」



 どうやら、ヴァンがナディアと婚約をしたことで、ザウドックの方にも縁談の話が舞い込んできているらしかった。ザウドック本人としてみれば、いつかフェールに求婚できるぐらいに実績をあげて、フェールと結婚したいと思っているので他の者達は邪魔でしかないわけなのだが……。



「ふぅん。それにしても俺とお前の弟子は俺達と違って一途だな」



 ディグもルクシオウスも弟子たちのように誰か一人を思っているわけではないので、二人して不思議な気分になっていたりもする。



「本当だな。あとはそうだな、この国の王女が婚約者がいるにも関わらずザウドックと既成事実を作りたいと思っているのか面倒な行動を起こしている。確か、そっちの王女の案内係になっている王女だから少し警戒したほうがいいかもしれない」

「へぇ。まぁ、そのあたりはナディア様だけでどうにかするだろう。ナディア様は自分の力でどうにかしたいと思っているみたいだから俺は荒事以外で手を出す気はない」



 ディグはルクシオウスの発言にそういった。



 実際、ナディアは荒事はともかくとして外交は自分の力でどうにかしたいと思っていた。どうにかできるだけの交渉力を身に着けてこそ、ヴァンの側に相応しい自分に近づけると思っているのだ。その考えを聞かされていたのもあって、ディグは荒事以外は手を出す気はなかった。



 ――外交について 2

 (二か国の英雄は二人で会話を交わしていた)

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