143.第一王女様とザウドックについて 3

 フェール・カインズは駆けていた。

 何が何だか分からないままに、駆けていた。




(私を、好き? 『雷鳴の騎士』の弟子が? 私なんかを? え?)



 フェール、混乱中。

 混乱しているフェールは、「あ、フェールお姉様!!」と声を上げたキリマに捕まった。様子のおかしいフェールを見て、目をキラキラさせている。




「キ、キリマ」

「ふふふふ、フェールお姉様可愛いー。すごい戸惑っている! ねぇ、ザウドックに告白でもされちゃった? 愛の告白? きゃー!! いいな、いいな、私も、ディグ様に告白されたいよー」




 キリマ、人の恋話とかが大好きなので、凄く興奮していた。王女としてのつつしみなどは一切放り投げているキリマであった。普段はそんなキリマをとがめるフェールにはそんな余裕はなかった。



「あ、貴方……し、知っていたの」

「ええ、ええ知ってますとも。寧ろ、気づかないフェールお姉様が鈍感なんですもの」



 キリマ、にこにこしている。

 フェール、唖然としている。



「ど、鈍感って……私は、そんな英雄の弟子に、好かれるほどの人間じゃないわよ……」

「もうー、フェールお姉様ってばそんなこといって。それを決めるのはフェールお姉様じゃなくて、ザウドックなんだからねー。それにフェールお姉様はとっても綺麗だし。確かにフェールお姉様はあの件が起きるまでアレだったけれど、フェールお姉様は今は私の自慢のお姉様だし」



 キリマ、そんなことを言いながら珍しく戸惑った表情を浮かべているフェールを見る。

 キリマはにこにこしている。楽しくて仕方がなさそうに笑っている。フェールは、顔を赤くしている。



「……私、そんな、自慢できるような、姉じゃないわ」

「ううん。自慢出来るお姉様だわ。それにザウドックはフェールお姉様のこと本当に気にしているのよ? 見た瞬間にこう、あれは一目ぼれってやつじゃないの?」




 キリマ、顔を赤くしたフェールをじっと見つめて告げる。




(ふふふ、フェールお姉様、本当に可愛い。ザウドックのことフェールお姉様も嫌いではないみたいだし、このまま、くっついたらいいのになぁ。でもあれ、フェールお姉様難しい顔している)



 キリマの言葉に、フェールは難しい顔をしていた。キリマとしてみれば、違う反応を期待していた。そのため、ちょっとびっくりしていた。



「一目ぼれ……か」

「ええ……た、多分。なんでフェールお姉様はそんなに難しい顔をしているの?」

「………ちょっと、考えているだけよ」



 フェールは難しい顔をしたままだ。キリマにはフェールが何を考えているか分からない。英雄の弟子に好意を抱かれている、それを素直によろこべばいいとそんな風にキリマは考えてしまう。

 キリマは素直に人の言葉や、思いをそのまま受け取る。

 キリマは好きだといわれたら、そのまま受け止めている。難しいことは考えない。だけど、フェールは、第一王女であるフェール・カインズの頭はそんなに単純ではない。




(……私を好いている。『雷鳴の騎士』の弟子が。でもそれは……。私は……。私は、カインズ王国の第一王女、フェール・カインズ。誇りある国の王女。そして私を好いてくれるのは、『雷鳴の騎士』の弟子。……多分、英雄になるのかもしれない、なら、私はどうこたえるべきなのか。私はどうするべきなのか)




 フェール・カインズは思考する。

 キリマが、戸惑った様子で見つめているのも、「フェールお姉様、どうしたの」と聞いているのも気にする余裕がないのか、答えない。




(―――私は、どうしたいのか。どうするべきなのか)


 フェールは、何度も、何度もそのことを考えている。どうしたほうがいいのか、どうしたいのか。




(……嬉しくない、わけじゃない。私は人に好かれるのは、正直嬉しい。こんな私でも好いてもらえることは嬉しい。……そう思う。だけど、私は———)




 嬉しいと感じているのは確かだ。

 誰かに好かれることが、嬉しくないはずがない。だけれども、フェールは、それを素直には受け入れない。彼女は、自分がどうしたいか、どう思っているか、それを思い至った。

 好いているといわれて、何と答えたら自分は納得するのかをちゃんと考えた。





「―――キリマ」

「ああ、フェールお姉様、ようやく私のこと無視やめてくれたのね!! 考えすぎちゃってたけど、どうするか決めたの? ねぇ、フェールお姉様」

「……そうね。ちょっとザウドックの所にいってくるわ」

「まぁ!!」

「でも、キリマ、貴方が望むような展開にはきっとならないわよ」

「え、それってどういう……」



 フェールが言った言葉に、キリマが目を見開く。だけど、それに対してフェールはただ笑うだけで答えず、そのまま、その場を後にするのであった。




 ――――第一王女様とザウドックについて 3

 (第一王女様は、第二王女様と会話を交わし、そしてある結論に至って、ザウドックの元へと向かった)

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