144.第一王女様とザウドックについて 4
「ザウドック・ミッドアイスラ!」
「は、はい!」
フェールを探して、うろうろしていたザウドックは、その探し人であったフェールから大きな声で名前を呼ばれて、思わず戸惑ったように返事をしてしまった。
そこは、お城に中庭である。丁度、フェールの住まう一の宮の近くにある中庭。花々が咲き誇るその場所で、第一王女フェール・カインズは、ザウドック・ミッドアイスラと向き合っていた。彼女の金色の目には、一切の不安が見られない。
「貴方、私を好いているといったわね」
「はい!」
フェールの言葉に、ザウドックが元気よく返事をする。ちなみにこの場に他に誰もいないわけではない。フェールは王女であるため、王女付きの侍女が周りにはいる。
「私は、その気持ちを嬉しく思うわ。私は正直、貴方に好かれるほどの人間ではないもの」
「そんなことないです!」
「そんなことないって、貴方、私のことをそんなに知っているわけではないでしょう? 少し前までの私は、我儘で、自信満々で、人に迷惑をかけ続けていたわ。ナディアが、嫌がらせされていたのも全て知っていて、それでも傍観していたようなそんな女だもの」
フェールは淡々と告げる。
今のフェールは確かに、ナディアやキリマとも仲良くしているが、ついこの前までそんなことはなかった。フェール・カインズは何処までも自分のことしか考えていなかった、そんな王女だった。ナディアが嫌がらせされているのも全て放っていた。
そんな、人間だ。
「だとしても、俺は今のフェール様のこと、好きだって思います!!」
「……そう。ザウドック、私は貴方の気持ちは嬉しい。貴方は私が第一王女だからではなく、私自身にそういう言葉を投げかけている。でも———私は、貴方の思いには答えないわ」
「……それは」
答えない、そういった瞬間、ザウドックの表情がゆがむ。その表情を見ながら、フェールはいう。
「今はよ」
「いま、は?」
そして次にフェールが言った言葉に、ザウドックの表情は驚きに染まる。ころころ変わる表情を見ていてフェールは面白いと思う。そこまで感情を露にすることはフェールはしない。フェールは王族であるが故に、心のうちで思っていることと外に見せている表情は異なるものなのだ。だからこそ、そうやって表情をさらすことに笑みを零してしまう。
そしてそんな笑みを見て、ザウドックは見惚れたように、フェールを見てしまう。
「ええ、今はよ。私は貴方の思いに、今は答えない。だけど、そうね」
フェールはいう。
「貴方が、私を———カインズ王国の第一王女である私を、娶れるぐらいがんばったら」
フェール・カインズは、カインズ王国の第一王女。誇り高き、王族。彼女は、国のための結婚をしたいと、そう望んでいる。王族であるからこそ、王族であることを自覚して、そう望んでいる。
「そして———貴方が、私を娶れるぐらいの名声を手にした時、なおも、私のことを好きだと言ってくれるなら————その時は、貴方の気持ちにこたえてあげるわ」
王族を娶れるぐらいの名声を手に入れる。それは並大抵のことで出来ることではない。だけど、それを叶えて、そしてなお、フェール・カインズを求めるのならば、それにこたえようと、そうフェールはいっている。
「はい!!」
そして、ザウドック・ミッドアイスラはそのフェールの言葉に元気よく答えた。
「俺、フェール様と結婚できるぐらいがんばります!!」
「ええ……でもなるべく早めにね。結婚適性年齢を超えるほどは、私は待てないわ。数年以内に、私が欲しいなら、叶えなさい」
「はい!!!」
フェールの言葉に、ザウドックは笑みを零していった。今は断られているというのに、数年後に希望が持てるのなら彼にとっては笑顔で頷くことなのだろう。
(……人の心なんてすぐに変わるものだわ。だから正直ザウドックの気持ちがそれだけ続くかはわからない。国も違う。私とザウドックがこれから次に会えるかは正直わからない。でも本当に———、数年後、彼がそれだけの力をつけて、私たちの国同士間に亀裂が入ることなく、それでいて、ザウドックが私を好きだといってくれるのなら——――、私は、それに、喜んで答えてしまうかもしれないわ)
フェールは、笑みを零しているザウドックを見ながら、そんなことを考えるのだった。
そしてその後、フェールは国王と第一王子に、その一件についての報告をする。数年後そういうことになるかもしれないという報告だ。報告をしたとき、国王と第一王子の反応がおかしかったが、それがなぜなのかフェールには見当もつかなかった。
――――144.第一王女様とザウドックについて 4
(第一王女様は、『雷鳴の騎士』の弟子の思いに、返事を返す)
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