131.『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の弟子同士の模擬戦について 1
「今からお前にはこのディグの弟子と模擬戦をしてもらう」
ザウドック・ミッドアイラスは師である『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラの言葉に、驚いたような顔をする。それでいて少しだけ不安そうな顔をする。
「何を不安そうな顔をしてやがる。お前は、俺の弟子だろう? もっと堂々としていろ」
「いや、だってよ。ルクシオウス。あいつの噂すげーじゃんか……」
「はぁ、噂が幾ら凄かろうと、本当にあの弟子がそれだけやったとしてもだ。それでもこれは模擬戦だ。殺し合いでもないんだから強い敵と戦えるっていうことを良い経験だと思えばいいだろ」
ルクシオウスは少しだけビビっている様子の自分の弟子に対してそう告げた。
「び、びびってなんかないし」
「びびっているだろうが……ま、ディグの奴はあの弟子によっぽど自信があるらしい。ヴァンは召喚獣を持っているらしいが、お前との模擬戦には使わせないだとよ。そこまで、言われてんだ。お前は、ヴァンに召喚獣を使わせることを目指せ」
ルクシオウスは、ディグの言葉を思い出しながらザウドックへとそう告げた。
ルクシオウスからしてみれば、自分の弟子のことを過小評価されていると感じてならなかった。同年代であるのならば、引けを取らないはずだと思っている。
それは、一般的に見てみれば正しい感覚である。
『火炎の魔法師』の弟子と、『雷鳴の騎士』の弟子。
互いに英雄の弟子であり、対等であると言える存在同士だからこそなおさらその差は少ないはずだ。
……と、そう思っていても仕方がないことなのだ。
尤も現実的に考えてみれば、ヴァンはディグ・マラナラにしてみてもありえないと言わしめる存在である。そんな存在と、英雄の弟子であるだけの少年を比べてみると対等とは言えないだろう。
さて、そうして『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の弟子の模擬戦は幕を開ける。
「絶対に召喚獣を使わせてやるからな!」
「俺、師匠によっぽどじゃないと召喚獣呼ばないように言われているし」
やる気に満ちたザウドックに対し、ヴァンのやる気はそれほど高くなかった。
というのも、
(ナディアに会いたい)
などという思いが占めていたからだ。
ヴァンは本当にぶれない性格をしていて、こういう時でもナディアのことしか考えていなかった。
そして、早く終わらせたいとさえ考えていた。
ヴァンはまだ、ザウドックに興味をそれほどもてていなかった。この模擬戦に関しても、それほどの関心はない。
「くそっ、余裕そうで超ムカつく。その余裕そうな顔くずしてやる!」
ザウドックはそういうと、腰に下げていた剣の柄に手をかけた。抜かれたものには、剣先がなかった。ただの、柄。
それにはヴァンも驚いて、不思議そうな顔をザウドックに向ける。
フロノスは、その様子を師たちと共に見つめながら思考する。
(『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラ。ディグ様のライバルとも言える、英雄。ヴァンは特に周りに興味もなく、『雷鳴の騎士』の名の意味するところを、把握はしていない)
フロノスは、そう結論付ける。
『雷鳴の騎士』。その名の意味することを、ヴァンは把握などしていない。
(……ルクシオウス様が弟子と認め、ディグ様に会わせるような存在。ただの子供なわけがない)
そう思考し、じっと、勝負の行く末を見つめるフロノスの前で、その現象は生まれた。何もなかった剣先がバチバチと震える。魔法を使えるものならば、そこに魔力が通っているのが一目でわかるだろう。柄だけだった使い物にならないものはそこにはない。雷属性の魔力の剣先を持つ、力を持つ剣が生まれていた。
(――――剣に魔力を込めるではなく、魔力そのものを剣とする。それはすなわち魔法剣。ルクシオウス様とディグ様は確かにライバルとされている。だけど、二人には得意不得意がある。ルクシオウス様が用いるのはその剣技と、その剣技を生かすための魔法。ルクシオウス様の呼ばれる名が、『魔法師』ではなく、『騎士』であるのは、そういう戦い方をルクシオウス様がするからだ)
思考する。
視線の先で、フロノスにはヴァンが少しだけザウドックに興味を抱いたのが分かった。
(同じ年ほどの、男の子がルクシオウス様の技術を受け継いでいる……。私も……、ディグ様の弟子として負けてなどいられないわ。もっと、もっと、強く———ならなきゃならない)
フロノスは、弟弟子と、『雷鳴の騎士』の弟子を見ながら、そんな思考に陥っている。
そんなフロノスの目の前で、『火炎の魔法師』の弟子と『雷鳴の騎士』の弟子がぶつかり合うのであった。
――――『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の弟子同士の模擬戦について 1
(そうして『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の弟子は、模擬戦を開始するのであった)
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