132.『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の弟子同士の模擬戦について 2
魔法剣を発動させたザウドックを見ても、ヴァンは慌てることはなかった。
(へぇ、あんなこと出来るのか。俺にでも出来るかな?)
などと呑気なことを考えていた。
もちろん、ヴァンからしてみても、ザウドックの生み出した魔法剣が脅威ではないわけではない。ヴァンの目から見ても、バチバチと音を立てるそれは、力を持っている。それが見てとれる。
だけど、それがあるから勝てないかと考えると、ヴァンはそれをどうにでも出来ると思っていた。
(ナディアの隣で、ずっと、ナディアを守る。そのためには、どんな敵と遭遇しようとも勝たなきゃいけない。ナディアに何かあるなんて、絶対嫌だ。ナディアのことを守る。ナディアがどんな目にあっても大丈夫なようにする。……目の前の、物騒なあの剣をどうにかできるように俺はならなければならない)
ヴァンの思考は何時だってナディアで染まっている。ナディアのことを考えるからこそ、ヴァンは強くある。ナディアのことを考えるからこそ、ヴァンは行動する。
ザウドックが、ヴァンの視界で動いた。
ヴァンの方へと一心に向かってくる。その、魔法剣を携えて。
ザウドックは魔力をさらに込め、魔法剣の大きさは少しだけ一般的な長剣よりも大きなものになっていた。それを両手に持つ、ザウドックは、ヴァンに向かって振り下ろす。
「はじけ」
一言。たった一言で、ヴァンは魔法を形成した。
ただし、生み出した壁はザウドックの魔法剣には耐えられず崩壊する。しかし、ヴァンに魔法剣が届くことはない。
ヴァンは、魔法剣の軌道から横にずれていた。
(あのくらいのものだと壊せる威力……、初めてあの剣見るけど、中々強力そう。じゃあ——)
ヴァンは、呑気に思考する。
(……師匠と同じ英雄の弟子なら、死にはしないだろうし、やるか)
そして、そう思考した次の瞬間、燃え盛る無数の火の玉が、その場に形成された。ザウドックを囲うように出現したそれ。無数のそれを、ヴァンは一瞬で生み出した。
その魔法に囲まれたザウドックの表情はこわばった。
その様子を見て、見物していたルクシオウスは声を上げた。
「はっ!? あいつ一瞬であれだけの魔法を——、というか、あいつ詠唱しなかっただろう」
「あいつ魔法関係の才能は俺以上だからな」
「だからって……あれだけの数を……お前が弟子にしてそんなに経ってないというのに」
「……あいつ、俺が見つけた段階でもうあれだけ魔法が出来たからな」
「は!?」
「……独学で魔法を見につけ、召喚獣と契約してたんだよ、あいつ。平民として暮らしながらな」
ディグはそういいながらも、驚愕するルクシオウスのことを見る。詠唱も発さずにあれだけの魔法を行使できる子供——そんな存在が居れば、ルクシオウスがこれだけ驚くのも無理もないことなのだ。
(それだけ、あいつはおかしい)
ヴァンと出会ってから、ヴァンはそういうものであると認識し、驚くことも少なくなってきたディグは改めてヴァンという少年の異常性を認識する。
「……そんなのが、居たのか」
「ああ。居たんだ。俺だって驚いた。しかもあいつ、普通に平民として生きるつもりだったからな。引っ張り出して俺の弟子にした」
ヴァンはディグが見つけなければただの平民として生きる予定だった。あれだけの才能を持ちながらである。そもそもナディアに惚れさえしなければ魔法を覚えることもなかっただろうし、あれだけの才能を持ちながら埋没していた可能性がある。
ディグとルクシオウスの目の前で、火の玉が、一斉にザウドックを狙うのが見えた。ザウドックは魔法剣を振り回し、加えて魔法を行使しながらそれに対処しようとする。その目の前でヴァンは特に何もすることなく立っている。
ヴァンからしてみれば追撃の魔法を行使することも簡単なのだが、それをしないのはこれで片が付くと思っているのか、それともこれ以上追撃すれば流石にザウドックが死んでしまうと思っているのか……どちらにせよ、ヴァンが全力を出していないのは傍目から見ても一目瞭然であった。
そして、実際に火の玉による攻撃にザウドックは全て対処することが出来ず、いくつかがザウドックに命中する。火が大きくなり、その身体を燃やす前にザウドックの上から水がかかる。ヴァンがわざわざ魔法で出現させ、火を消した。それからの行動は早かった。
「風」
たった一言で、魔法を形成させると、魔法を使ってザウドックの身体の身動きを封じる。出現させた風で、ザウドックを城の城壁に押し付け、動けなくする。それから、長剣をザウドックの首へと押し付ける。
「こ、降参」
ザウドックがそういえば、ヴァンは魔法を解く。地面へ落下するザウドック。それに視線も向けずにヴァンは駆け出した。
どこに、かといえば、いつの間にかこちらに向かってきていたナディアのもとにである。ナディアの側には召喚獣たちと、ナディアの侍女が控えている。
「ナディア!」
というか、ヴァンはさっさと勝負をつけたのはこちらに来ていたナディアを視界に留めたからであった。
―――『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の弟子同士の模擬戦について 2
(そしてヴァンは『雷鳴の騎士』の前でその実力をさらす)
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