130.『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の会話について
さて、『雷鳴の騎士』とその弟子とヴァンは邂逅を果たした。
『火炎の魔法師』ディグ・マラナラと『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラは久方ぶりの邂逅という事もあって、会話を弾ませている。
「で、どうおかしいんだ?」
「あー、見た方が早い。それにすぐにばらしたら面白くないだろ?」
ディグはニヤリと笑って言う。というか、ディグ自身もヴァンの強さに対して驚いた経験があるので、ルクシオウスにも同じように驚かせたいと思っていたのである。
ちなみに『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』が会話を交わしている中、ヴァン達も会話を交わしているが、少し離れているためディグやルクシオウスには聞こえていない。
「元々平民なんだろう? 一般的に平民は魔力量が少ないが、お前が弟子にしたからには魔力量も多いんだろう?」
「そうだな。そういえば、ヴァンの魔力量ちゃんと量ってねぇな」
「……魔力量、測定もしていないのか」
「ああ。しなくてもいいつーか、正直あいつの魔力量底が見えないし」
自身の魔力量を量るという行為は重要である。それによって、自分がどれだけの魔法を使えるかが変わるからだ。魔力切れすると、意識を保てなくなる。意識を失った後に魔力が増える事もあるが、魔力切れで意識を保てなくなると、死に至る場合もある。ディグもぎりぎりまで魔力を使ったりして自分がどれだけ魔力を所持しているか確認もしている。
でだ、ヴァンだが、召喚獣二十匹と契約を交わす、そのうちの召喚獣のほとんどを顕現させていても魔力切れな様子が一切感じられない。
魔力切れを起こしている様子も一切なく、召喚獣を何体も顕現させている状況で魔法を普通に使う。魔法をどれだけ使っても決して疲れた様子は見せない。
(……マジ、本当意味わからない魔力量だよな。召喚獣とあれだけの数契約を交わせるのもおかしい。召喚獣は一匹だけでも契約していれば騒がれるというのに、ヴァンときたら二十匹も契約を交わして余裕そうだし。あいつ、また召喚獣そのうち増やしそうだ)
ヴァンという存在に慣れてきて、ディグもヴァンがやることなすことに驚くことがなくなってきていたが、ヴァンという存在は本来なら驚くべき存在である。というか、そんな生き物本当に存在しているのかと思われるような少年である。
「底が見えない? お前がそこまでいうほどなのか」
「ああ。本当におかしいんだよ」
面白そうに笑ってディグがそういうから、ルクシオウスは益々ヴァンに興味津々である。
「それは、楽しみだ。シザス帝国との件でも活躍したんだろう?」
「ああ。ヴァンもフロノスもよくやってくれた」
シザス帝国との一件については、同盟国の英雄としてルクシオウスは把握している。
「ふぅん。誇張ではないのか」
「ああ。俺は無駄な誇張なんてしねぇよ。ヴァンの噂がどれだけ出回っているかは正直わからないが、寧ろ噂の方が過小評価なんじゃねぇかと思うが」
「はぁ? なんだそれは」
ディグの言った言葉に対し、ルクシオウスは信じられないとでもいうように声を上げた。
召喚獣を大量に連れているとか、ドラゴンを一撃で倒したとか、魔法を使うのが得意だとか。そういう噂を聞いてヴァンの噂は過大評価だとルクシオウスは思っていた。
なぜなら、そういう存在がいるというのは常識的に考えてありえないからだ。
ルクシオウスも魔法を使うし、自分が英雄と呼ばれるほどの強さを持ち合わせている存在だからこそそういう存在がありえないと思う。
「ま、せいぜい、あいつに驚けよ。俺も驚いたんだから、お前も驚け」
「なんだ、それは……」
ディグの面白そうな言葉に、ルクシオウスは呆れたような声を上げた。
「とりあえず、ヴァンとお前の弟子で模擬戦でもやらせるか? それだけでもお前は驚くと思うぞ」
「ああ、それは面白そうだな。ザウドックもヴァンがどれだけやるのか気になっているようだし」
「ただヴァンには召喚獣とかつかわせねぇからな」
「は? なんでだよ。全力でやらせろよ」
「………見たらわかるから、それでやらせろ。お前の弟子があいつに召喚獣を使わせるほどであったならそれで召喚獣も使わせればいい」
「はん、そこまでいうならそれでやってやろうじゃねぇか」
自分の弟子相手にそこまで手加減をしてやりあえるはずがない、まるでそう告げたいとばかりの言いぐさにディグは何とも言えない気持ちになった。
(……ヴァンが召喚獣まで使ったら手の付けようがねぇからな。あいつの全力は俺も見た事がないし。恐らくヴァンは召喚獣全員を顕現させても、普通に魔法を使える。普通は、そんなことありえないけど、ヴァンは出来る。召喚獣二十匹プラスヴァンの相手とか、俺でもしたくねぇよ……)
と、ヴァンの実態を知っているディグの身からしてみればそうとしか思いようがなかった。
そんなわけで、ヴァンとザウドックに決定権はないまま二人の模擬戦が決められたのであった。
――――『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の会話について
(英雄たちは久方ぶりに会話を交わす。『火炎の魔法師』は、自身の弟子の規格外ぶりを改めて思った)
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