123.水の中の施設について 3

「よし、師匠もフロノス姉ももう入っていったし、大丈夫だよな」



 ヴァンはディグとフロノスが侵入したのを確認して、少し待ってからそうつぶやいた。その周りには二匹の召喚獣が控えている。



『小生は、この場に呼ばれた事を嬉しく思います。主様のために全力を尽くすのです』

『私は一生懸命頑張りますわ。ヴァン様の力になるのですわ』



 《サンダースネーク》のスエンと、《グリーンモンキー》のニアトンだ。二匹は、ヴァンに呼ばれた事が嬉しくて仕方がないのか、その声が弾んでいる。



 さて、ディグとフロノスが施設の中へと突入したことで、ヴァンはディグに言われたように派手に行動を開始する事にした。



(建物の中には、師匠とフロノス姉がいるから、建物自体を破壊するのはなしの方向で。そもそも証拠が残らなかったらダメだって師匠も言っていたし。なら——)



 ヴァンは思考がまとまると、次の瞬間行動に出ていた。



「水を吸い上げればいいよな、ブツブツブツ」




 そして考えをまとめると、魔法を行使する。湖の水を全て持ち上げた。むき出しにされる建物。建物の周りの水が全て無くなったという事もあって、建物内部の衝撃は相当のものであろう事がうかがえる。



『流石、主様でございます。小生は主様の召喚獣で居られることが本当に嬉しいのであります』

『流石、ヴァン様ね! ふふ、慌てて人が出てくるわ。思いっきり暴れるわ』



 この場にいる召喚獣二人は、ヴァンの事を崇拝というか、ヴァンの才能にほれぼれしている二匹なのでヴァンがやらかしているのを見ても楽しそうにキラキラした目で見ている。



「……ガキだと?」

「お前はなんだ!?」



 建物の中から出てきたのは、研究者風の白い服装の男たちである。男たちは、建物の外に出て、水がない事に愕然とし、次に、水を持ち上げて浮いているヴァンを見て声を上げた。



「んーと、こういう時どうすればいいんだっけ」



 ヴァン、とりあえず水を持ち上げて派手にしたのはいいものの、出てきた男たちへの対処方法が分からなかった。実力はあっても相変わらず経験の足りないヴァンである。




『では小生が。そこのもの達よ。主様に降伏をせよ。そうすれば、痛い目には合わせる事はなかろう』



 スエン、声を張り上げる。



 男たちは二体の召喚獣の姿を確認して呆然としていたが、それでも、男たちはスエンのいった降伏などという真似をする事はなかった。

 男たちだけならば、したかもしれない。しかし、男たちの手の中にはあの異形の化け物がいた。



「何を! 我らが負けるはずなどない。こちらには最強の生物がいるのだから!!」




 男の一人がそういって、手に持っていたそれを割った。中にあるのは、あの異形の化け物の原型のような小さな塊だった。しかし、容器が割れた瞬間、その小さな塊は徐々に物量を増していく。どういう原理かはわからないが、あの巨大な異形の化け物を圧縮でもしていたらしい。



 異形の化け物が、その場に何体か現れる。その化け物は、以前ヴァンが見かけたように相変わらず色々なものが混ざったような見た目をしている。統一感がない、作られた存在とでもいうべきか。それに対して、男たちは命令を下す。驚くことに、簡単な命令は利くように出来ているようだ。



「あのガキを殺せ」



 研究者風の男たちは自分たちの勝利を確信しているのだろう。ヴァンに向かって勝ち誇った笑みを浮かべている。



「んー、スエン、ニアトン、俺らだけでいけるか?」

『問題はありませぬ。小生たちだけでも十分でしょう』

『ええ、大丈夫よ。私だってもっと暴れたいから他は呼ばなくていいわ』



 ヴァンが確認をすれば、二人の自信満々な声が聞こえてくる。



「じゃあ、やるか」

『殺していいのでしょうか』



 逃げる気もなく、怯えもせずに告げられた「やるか」という言葉に対し、スエンが言う。ヴァンはそれに少し考える素振りをして、


「……ああ、一人だけでも残しておけばなんとかなるだろ。なるべく生け捕りの方がよさそうだけど」


 と軽い調子でつぶやくのだった。

 人を殺すという行為を直接的にしたことがないヴァンだが、この世界において割と殺される、殺すといった行為は身近にあるものだ。幸いそういう危険な目に合っていないヴァンだが、必要ならば人を殺すことも厭わない精神は持ち合わせている。


『了解しましたわ!』

「じゃ、俺、さっさとあの人間達どうにかするから、こいつら任せていいか?」

『問題ないのです』



 ヴァンが人間を片づけるから、異形の化け物を頼むといえば、スエンとニアトンは頷くのであった。


 そういうわけで、ヴァンは人間たちを対処するために、異形の化け物には目もくれずに向かっていくのであった。



 魔法で宙に浮きながら向かってくるヴァンに、男たちは慌てたように声をあげた。




「あのガキを殺すのだ!」




 その指示に、異形の化け物が向かっていくが、それはスエンとニアトンによって阻まれる。




 その隙にヴァンは一人の人間に急接近して、その身体を拘束する。



「この人殺されたくなかったら捕まって」



 一応殺さないように生け捕りの方がいいだろうと、そう告げるヴァンだが、男たちはそれでも降伏する気はないようで、「やれるものならやってみろ!」「お前はあいつの餌食になるのだ」となぜか自信満々である。



「……めんどくさいな」



 ヴァンは一言つぶやいて、まず拘束している男以外の人間に魔法を行使する。

 炎が出現して、男の一人が燃えた。



(加減苦手なんだよなぁ……)



 悲鳴をあげる男。青ざめる他の男たち。拘束されたまま震えだした男たちを見ながらヴァンはそんな思考をする。



(一人だけ、残っていればいいか)



 ヴァンはそう考えて、拘束している男以外の連中に魔法を放つ。燃えるものもいれば、切り裂かれるものもいる。一瞬にして命が奪われていく。



「……よし、これでいいか」



 そうしてヴァンに拘束されている一人だけが生きている状況になった時には、その残った一人は恐怖で何も言葉を発せなくなっていたのであった。

 異形の化け物たちに関しては、スエンとニアトンがきちんと対処していた。




 ―――水の中の施設について 3

 (そしてヴァンは魔法を行使してその場をあっという間に収めるのであった)

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