124.水の中の施設について 4

 ディグとフロノスが施設の外に出た時、相変わらずヴァンは湖の水を持ち上げたままだった。外に出て湖の水を持ち上げているのを見て、ディグは面白そうに笑って、フロノスは驚いたような顔を浮かべている。



「……つか、何人か死体あるな」

「普通に殺してる……一人だけ生きてますが……」



 二人は、死体を見て何とも言えない顔をしていた。ヴァンだから、もしかしたらこういう事もあるかと考えていたものの予想よりも容赦がなかった。



「……おい、ヴァン」

「あ、師匠。こっちは一人捕まえたけど、そっちは?」

「あー、問題はない。とりあえず俺らが上がったらその水戻していいぞ」

「うん、戻す!!」



 ヴァンは年相応に元気よく答えて、二人が出た後に手をかざして水を戻した。水を戻した後にディグとフロノスとヴァンは会話を始める。



「それで、一人だけしか生きてないのか」

「なんかめんどくさくなったから……手加減難しいのに向かってくるし」



 ヴァンがスエンとニアトンを横に侍らせながら軽く言った。ヴァンにとってみれば手加減は難しい。ディグの弟子になってから手加減の練習をしているから大分マシになっているとはいえ、人に魔法を向けた場合の手加減方法はまだまだである。


「それに早くこの件片づけたらナディアの所に戻れるんだって思うと、早く片付けたいと思って……」

「まぁ……今回は資料もこっちで集めたし、一人でも生かしてくれてればまだいいが……時と場合によっては全員生かした方がいい場合もあるんだからな? あともう少し手加減覚えろよ。それがナディア様のためになるんだから」

「うん、頑張る」



 相変わらず、ナディアのためといえば笑顔で頷くヴァンであった。



「中も排除したし、外に出てたあの化け物はヴァンがどうにかしたし、ひとまずはこれでいいか。でも大量に魔物が溢れていた件もおそらくこいつらだろうからそれもききださないと」

「……となると、尋問しなければですか」

「そうだな」



 王宮魔法師は、カインズ王国のために尽くす魔法師である。華やかな職業に見えるが、尋問といった行為も時と場合によってしなければならないものであった。



「ヴァンは……ナディア様のためならそのくらい出来そうだな。こんな惨状生み出しているし」

『主様ですから、それは当然です。小生は主様がこういう方で本当に楽しいのです』



 ディグの言葉になぜかスエンが得意げに答える。



 その言葉を聞きながら、



(……私も、このまま王宮魔法師のディグ様の弟子で、この後、王宮魔法師を目指すならこういう事にもなれるようにならなきゃな……)



 フロノスはそれを思うのであった。



 それから、ヴァン達はポリス砦へと戻った。








「シザス帝国のかかわりか……」

「ああ、締め上げたらぺらぺら喋ってくれたよ。魔物を組み合わせて新しい魔物を作って戦争で使おうとしていたらしい。このあたりでその実験をしていたのもあって魔物が大量に居たらしいぞ。迷惑な話だ」



 タンベルとディグが二人で会話を交わしていた。




 とらえた一人の男は情報を締め上げた後、ポリス砦内の捕虜のためにあった牢屋に入れられている。自殺をされても困るので、そのあたりの対処もきちんとしていた。



 あの施設の中にあった資料からある程度の事はわかっていたが、やはり魔物の数が多かったのはあの異形の化け物を生み出そうとした実験の結果であるという。


「……ひとまずこの問題は解決といえるが、とはいえ、シザス帝国が他の場所でも同じ事をやっていないとは限らない。これからあの異形の化け物が戦争で出てくるかもしれないとなると大変だぞ」

「そうだな……俺では無理かもしれない」

「王宮に持ち帰ってシザス帝国への対応についてはそちらでやってもらう事になるが、魔物を組み合わせる技術なんてどうやって手に入れたんだか」




 ディグはそういいながらめんどくさそうな顔をする。ただの魔物でも大変である。それなのに、魔物を組み合わせて強大な力を持った異形の化け物を生み出すなんて厄介以外言いようがない。




「それにヴァンの話では、あいつらのいう事を異形の化け物は聞いていたらしいが、その後もそれが続くか分からないだろ。下手すればあれが普通に出てくる世の中になる」

「それは困る」

「厄介だが、そうなったら対処するしかない。ここはひとまず片づけたが、もしかしたらまだ残党が居る可能性もあるからそれは気をつけろよ」

「おう、わかっている」




 人が手を出して生み出したものが、人の手の範疇の外へといってしまうのは時たまあることである。そういうことになった時が一番厄介だ。




「……それにしても、お前の弟子は本当に規格外だな」



 タンベルは、ふとヴァンの事を思い浮かべてそういった。



「ああ、規格外だな」

「……あの異形の化け物の対処をしたりもしているんだろう? あんなのどこにいたんだ?」

「なんか普通に王都で暮らしていたぞ……。俺が見つけなければ今も平然と暮らしていたと思うけど」

「なんだそれは」

「あいつ、色々変だから」

「……そうだな、確かに少ししか共に過ごしていないが、それでも変だ」

「まぁ、俺達が帰った後にも何かあったら王宮に早めに連絡しろ。そしたら俺たちの誰かがこっちにまた来ることになるだろうから」

「ああ。その時は頼む」



 ディグの言葉に、タンベルはそういって頷くのであった。





 ―――水の中の施設について 4

 (水の中の施設の一件はこうして幕を閉じるのだった)

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