122.水の中の施設について 2

 ディグとフロノスがまず、魔法を行使して、気づかれないようにひっそりと建物の中へと侵入した。

 ディグはともかく、フロノスの顔は緊張で染まっている。

 フロノスは、この国の英雄であるディグ・マラナラの養子で、弟子である。とはいってもヴァンより一つだけ年上の少女でしかないのは事実である。まだ実戦経験も少なく、ようやく召喚獣と契約を交わす事が出来た少女。



(……ディグ様が、私なら大丈夫と連れてくれるのだから足手まといにならないように頑張らなければ)



 そう気を引き締める彼女は緊張に、冷や汗すらも流している。



「フロノス、そんなに緊張しなくてもいい」

「……でも」

「でもじゃねぇ。お前は俺の弟子だろう? 今までやってきた事を信じて行動すれば大丈夫だ。確かに弟弟子になったヴァンが異常なのもあってフロノスは自分が弱いと思い込んでいるかもしれないけれど、それは違う。フロノスは十分、こういう場でもやっていけるだけの実力を持っている。だから、自信もて」

「……はい」



 ディグにそう言い放たれて、フロノスは頷く。



 性格に難があろうとも、フロノスにとってディグは尊敬する師である。だからその言葉に、不安を打ち消そうと首を振るのだった。



(不安なんて今は感じている場合ではない。それより、行動をしなければ)



 と、彼女は気合いを入れるのである。



 さて、ディグとフロノスは一つの扉の前に立っている。

 施設の中に侵入した後、妨害する敵といったものには一切合わなかった。これが罠なのか、それともこの施設の持ち主が侵入者の存在を考えていないのか、どちらなのかは定かではないか、ひとまず彼らは進んでいた。


 そしてその扉の前にたどり着いた瞬間、大きな音がした。その建物自体が揺れていると思うほどの、大きな音。



「……ヴァンが、派手にやっているみたい」

「やるようにいったからな。そっちにこの施設の連中がかかりっきりになってくれたらいいんだが」

「どうでしょう?」



 室内からはばたばたとした音がする。それに二人は警戒するように身を隠した。先ほどの扉から、誰かが出てくる。それは、研究者風の服装を纏った男たち数人である。彼らは何かを抱えていた。そして慌てふためいていた。



「何事だ!?」

「まさか、ここが……」

「ひとまず、あれをけしかけて」



 と話しながら、ディグ達には気づかずに通り過ぎていった。



「……あたりだな」

「……あの抱えていたものって」

「あの異形の化け物の原型みたいな感じだったな。ヴァンにけしかけるんじゃねぇか?」

「ありえるわ。……でもヴァンなら大丈夫でしょう」

「ああ。あいつなら召喚獣たちもいるし大丈夫だろう。それより、俺達は証拠を集めるぞ」

「はい」



 フロノスとディグが会話を交わす。



 二人は、ヴァンが負けるなどという想像はしていない。只脳のない異形の化け物が暴れるだけであるのならば、ヴァンと召喚獣たちが負けるはずもないだろうという事をきちんと理解している。



「ヴァンがあいつらを引き受けてくれるんだ。俺たちは証拠集めるぞ」

「はい!」




 二人は、あの男たちが現れた扉へと近づいていく。中にまだ人が居ないとは限らない。そしてゆっくりと扉を開ける。中には、人は居なかった。

 ただ、大きな機械と沢山の書類が存在していた。



「……これは」

「あの、異形の化け物」




 あの異形の化け物が、機械につなげられた先に存在している。沢山の魔物がそこに押し込められていて、継ぎ合わされた何かがそこにいくつか存在している。それは、あの異形の化け物が、人為的な手段によって、生み出されたという紛れもない証拠である。

 その後、ディグとフロノスはその場に存在するものを見ていく。そして証拠になりそうなものを回収していく。

 その間、この施設は、何度も大きな衝撃を受けた。



「ヴァンの奴も、派手にやってるな」

「そうですね。でもヴァンがひきつけてくれているから私たちはこうして証拠を集められるから感謝をしないと」

「やっぱり、シザス帝国の連中だな」

「…この、魔物たちはどうしますか」

「殺した方がいいだろう」

「……そうですね。壊しますか」

「ああ。……外のヴァンが連中を生かしてとらえてくれればいいんだが。あいつらは生きた証拠になるからな」

「そうですね。ならこちらをさっさと片付けてヴァンの元へ行きましょう」



 証拠となるものをある程度回収した二人はそんな結論にいった。



 この、異形の化け物の原型と、異形の化け物の元となる魔物たちをまず殺す。そしてそれが終わればヴァンの元へ向かう事を決めた。

 正直二人は、ヴァンが生かしたまま彼らをとらえられるかといった点が不安であった。力加減がいまだに上手く出来ないヴァンであるのだから、そういう不安は当然だろう。



「……まぁ、ヴァンにとっても人との殺し合いは初めてだろうから、そのあたりで殺せない可能性もあるが」

「ディグ様、ヴァンがそれで立ち止まったりはしないと思いますけど。何でも気にせずこなすイメージしかない」

「とりあえず、やるか」

「はい」



 そして彼らは、魔法を放った。目の前のものを殺すために。




 ―――水の中の施設について 2

 (ディグとフロノスは、水の中の施設で証拠を集める)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る