104.王宮での不穏な動きについて 1

「ええ! あのルイネアラがナディアに喧嘩を売っているの? ええええ、なんで?」



 キリマ、ナディアからルイネアラ・フィーガーのお話を聞くと心の底から驚いたといった表情を浮かべる。

 キリマは驚愕の声を考えながら、彼女――ルイネアラ・フィーガーについて考える。



(私の周りに昔からいた女の子。王族である私にいつもへこへこしていて、権力の犬とでもいうかそんな感じの子だったはずなんだけど。だから、王族のナディアにそういう態度はしないと思ったんだけどなぁ)



 キリマから見てルイネアラ・フィーガーは権力の犬である。

 権力者にはへこへこして、それ以外には高圧的。それがキリマの思う彼女である。

 ナディアは側妃の娘とはいえ、王族である。この国の王女様であり、そんな存在に対してああいう態度をとる時点で不敬罪である。



「第二側妃のお気に入りの子だっていうならそのくらいの態度仕方がないのではないかしら。あの方も私のお母様もナディアの事を下に見ているもの」



 フェールはそういいながら、ナディアとキリマを見る。



 アンとキッコという二人の側妃はナディアに対して、良い感情を抱いていない。平民であった侍女の娘という事で、王族とさえ認めていないかもしれない。

 そういうものの手が入っているというのならば、そういう態度も仕方がないといえば仕方がないのである。



「不敬罪として処罰してしまえばそういうお馬鹿な子いなくなると思うのだけれど、第二側妃のお気に入りだっていうのなら反対をしてくるかもしれないわね」

「お母様は妃だからってなんでも許されてきたからね。ナディアにも色々嫌がらせしているし。でもナディアって嫌がらせされててもぴんぴんしているわよね」

「ヴァン様の召喚獣が私を守ってくださっていますから。嫌がらせをされても全く問題ありませんもの」



 ナディアはフェールとキリマの言葉にそういって嬉しそうに笑う。



 色々嫌がらせをされているのは確かである。特にナディアが表に出るようになってからの嫌がらせは益々過激化している。



「ヴァンが守っているならナディアは何も問題ないわね。でもヴァンっていう英雄候補の大切な存在に手を出しておいてお咎めなしというのはいけないわ。それだったらナディアに嫌がらせをしても許されるってことになるもの」

「お母様たち最近ますます色々起こそうとしているみたいだからね。そこでお父様に対処してもらえばいいんじゃない? ヴァンが傍にいないからこそ、ルイネアラもあんな態度とれたんだと思うし」

「……でもそれだと、お姉様方にも」



 母親を断罪するとなると、娘である王女二人にも何かしらお咎めがあるのではないかと不安そうな顔をするナディア。

 昔はともかく、今では仲良くしている二人の姉が処罰の対象になってしまうのは嫌であった。



「問題はないわ。私はナディアへの嫌がらせに何もかかわっていないもの。それに私もキリマもまだ子供と言える年齢ですし、今ではナディアと和解をしているし、そういう対象には入らないわ。まぁ、母親があれだってことで少しは敬遠されるかもしれないけど、それは今まで見て見ぬふりをしていた代償として受け止めるわ」

「そうよ。ずっと、私もお姉様も見て見ぬふりをしてしまっていたのだもの。ナディアが肩身の狭い思いをしているって知っていたのに。だから、別にいいの! それにナディアと仲良くなったからこそディグ様と仲良くなれたから!!」



 フェールとキリマはそういって笑った。



 見て見ぬふりをしてきたというのも一種の罪である。それを知っていたのに止めもしなかった。半分だけでも血がつながっていようとも、どうでもいいと思っていたから。



「そうですか…」

「ええ。そうよ。それにお母様達が存在したままでは、レイアードお兄様が王位を継いだ時に害になるわ。ただでさえ好き勝手してるもの。私は冷たいかもしれないけれどお母様に愛情はないわ。お母様も私に愛情はないもの」

「そうだよねー。私のお母様も妃であるプライドとかを大事にしているけれど、子育てに力を全然入れていないしさー。なんていうか、寧ろ最近ナディアと仲良くしている私に滅茶苦茶文句いっているしさー。面倒な連中と仲良くしなさいっていってくるし」



 冷たく思うかもしれないが、そういうものである。

 上級社会の中ではそんな家族も珍しくはない。

 フェールとキリマは家族全体に愛情がないわけではない。父親である国王が娘を可愛がっていることも知っているし、兄である王子二人にも可愛がられていて二人の事も好きである。王女三人が仲良くなかったのは親の影響やただ単に仲良くしようという気が特になかっただけであり、仲良くなった今は母親よりも兄妹の方が大事な二人である。



「……もし本当にヴァン様がいない間に行動を起こしてくるなら考えましょう」

「絶対おこすと思うわ。お母様だもの」

「うん。ナディアが表に出てこない時でさえ気に食わないとかいってたお母様だし、ヴァンと仲良くしている事気に食わないっていっているし」



 ナディアは出来れば処罰なんて物騒なことにならない方がいいと思っているのだが、フェールとキリマはさらっというのであった。




 ―――王宮での不穏な動きについて 1

 (ヴァンが居ない王宮で何かが起こるかもしれない)

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