103.強さを見せつける二人の弟子達について

「ヴァン、そっち!」

「了解、フロノス姉」



 ポリス砦にそもそもディグ・マラナラが行く事になった原因というのは、魔物の増加といった点があげられる。ディグに連れられてポリス砦にやってきたヴァンとフロノスは只の付き添いというわけではなく、弟子としてこの場にいる。そのため弟子二人も魔物退治の仕事を任されていた。



 ヴァンは《イエロードラゴン》のクスラカンに、フロノスはつい先ほど契約したばかりの《ローズホーンラビット》のミィレイアに騎乗している。



 手際よく魔物退治を行っている二人を見ているものが居る。といっても敵ではない。ユイマ・ワンである。普段冷静な表情は、感情的になってしまっている。それも仕方がない。ヴァンとフロノスはユイマが思っている以上に強者であったのだから。

 元々二人の実力を知っているディグはヴァンとフロノスの二人だけで、ポリス砦を囲うように存在する巨大な森に行くように言ったのだが、子供二人を無駄死にさせられないとユイマはついてきたのだ。



 とはいっても、魔法使いとそうでないものでいえば、一般的に考えて強者は前者である。心配だとついてきたユイマだが、逆に足手まといになっていた。何より移動スピードが二人ともはやい。召喚獣の上に乗っているというのもあって歩きのユイマよりも圧倒的にはやい。




 召喚獣たちは基本的に契約者以外を乗せる事はしない。ユイマもそのことを知っているから歩いているわけだが、



「よし、フロノス姉、次行こう次」

「ちょっと待ちなさい! ヴァンが魔物退治ぐらい余裕なのは知っているけど、ユイマさんが居るでしょう」

「そういってもフロノス姉だって、どんどん次行きたいって顔してるじゃんか」

「……召喚獣と契約してはじめての戦闘だから嬉しいの! 仕方ないでしょうが」



 逆に二人にユイマは心配されているぐらいである。



『フロノス、嬉しいの? ミィも、契約はじめてだからちょっと楽しい』

『俺も嬉しいー。ご主人と思いっきり遊べるとか、超楽しいんだぜ』

『なんか、クスラカンの主人、いっぱい魔力結んである?』

『はははっ、俺のご主人は凄いんだぜー。沢山の召喚獣と契約しているからな!』

『そう、なの? 凄い』



 二人の召喚獣たちはなんだか仲良さげにわちゃわちゃしている。



 ユイマからしてみれば、目の前に広がる光景は正直理解出来ないことである。



(幾らディグ様の弟子だからといって、これは……。子供が持っていい戦闘力ではないです。特にヴァンさんは……砦に来た時と違う召喚獣ですし、ディグ様同様に複数の召喚獣と契約を結んでいる? それに契約する事さえ難しいドラゴンを従えているなんて。フロノスさんも、先ほど契約したばかりなのに、召喚獣をしっかり従えていますし)




 自分の目で見なければ決して理解などできなかっただろう。子供である彼らがそれだけの力を持ち合わせていることを。

 ディグの事を信用していないわけではなかった。だけれども、こんな子供二人がここでやっていけるなんて思ってもいなかった。



「ごめんなさい、ユイマさん。先に進もうとしてしまって」

「い、いえ、気にしないでください」


 ユイマが感じた感想を、心の内の大部分を占める感情を言うならば恐怖だった。

 目の前でどこにでもいるような子供たちが、自分たちでは考えられないような力を所持している事実。召喚獣を従えた圧倒的な力を披露している事実。



 恐ろしいと、考えたくなくても考えてしまう。



 ディグ・マラナラは力を所持しているとはいえ、英雄として確立している。

 英雄である彼が力を所持しているのは、心情的には恐怖よりも安心の方が強い。しかし、ヴァンとフロノスはディグの弟子であるとはいえ、ユイマにとってはよく知らない存在である。そんな存在が力を所持しているというのだから恐怖を感じるのも無理もない事なのかもしれない。


 人の感情に鈍いというか、他人からの評価を全く気にしていないヴァンはともかく、フロノスはそんなユイマの感情も読んでいる。そういう感情を向けられた事がこれまでなかったわけでもなく、幾らディグとヴァンという天才に挟まれ、自分がその中では平凡な分類あったとしても世間的に見ては異常であることぐらいフロノスは理解している。




「ユイマさん、どうしたの?」

「……ヴァンは気にしなくていい事よ。それよりユイマさんが辛そうだから少しスピード落とすわよ」





 人の感情に鈍感なヴァンに、フロノスは呆れた目を向ける。



「……お気遣いありがとうございます」



 ユイマだって、こうして声をかけてくれるフロノスが優しい性格をしていることぐらいはわかっている。しかし、それとこれとは別なのだ。湧き上がる恐怖心というのは押さえつけられるものでもない。



『えー、また? 俺ご主人と暴れられるのどんどんやりたいのにー』

「……この砦には魔物退治の目的で来ています。だからヴァンが呼びさえすれば幾らでも暴れられます」

『んー、ヴァンの姉弟子さん、敬語じゃなくていいよー。俺、敬語苦手だし』

「では、お言葉に甘えて。とりあえず、後からまた暴れられるから。あとは、よっぽど暴れたりないなら一人でか、ヴァンと一緒に適当に暴れてくればいいわ」



 そんな本来なら危険な提案をさらっと出来るのは、フロノスがヴァンの実力を知っているからである。少なくとも召喚獣を連れたヴァンが負ける姿はフロノスにはあまり想像できない。



(…この二人は、ディグ様と同じ世界を生きているのですね)



 恐怖心を必死に抑えながら、こんな時でもマイペースな二人を前にユイマはその事実を実感するのであった。



 ―――強さを見せつける二人の弟子たちについて

 (二人は力を見せつける)

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