99.王女三人について

「キリマ、ナディア。寂しいのはわかるけれど、その顔はやめなさい。王族とはかくあるときも、王族らしくあるべしなのよ」



 カインズ王国の第一王女であるフェール・カインズは目の前にいる二人の妹に視線を向けてあきれたように言った。

 現在、フェール・カインズ、キリマ・カインズ、ナディア・カインズの三姉妹は同じ場所に集結していた。理由は特にない。あえて言うなら寂しさを紛らわせるためである。

 ディグに恋心を抱くキリマと、ヴァンを思ってしまっているナディアは二人が砦に向かってからというものどこか寂しそうだ。




「キリマも、ナディアも、この国の英雄とその弟子の傍にいたいと望んでいるのだったらもっと強くならなければならないわ。特に、ナディア。貴方は今まで表に出てこなかった分評価が低いわ。ヴァンはすぐに結果を出すでしょう。だったら貴方も、寂しがっている暇があるなら行動しなさい」




 フェールは美しく微笑みながらナディアに助言をする。自分で助言をしながらもフェールはやはり不思議な気持ちになる。



(私がナディアにこんな警告をするようになるなんて、本当に思ってもいなかったわ。不思議だわ。私が、妹を心配するようになるなんて。でも、この関係が心地よい)




 兄はしたっても、妹に関心なんて持っていなかった。どうでもよかった。でも今のこの関係がフェールにとって心地よかった。



「……そうですわね」

「私もがんばる! ディグ様のために!」

「キリマはもう少し落ち着きなさい。貴方公の場では完璧だけど、本当に落ち着かないわね」



 上からナディア、キリマ、フェールの言葉である。



「ナディア、貴方はまだつながりがないわ」

「つながりがない?」

「横とのつながりよ。人脈というのは武器よ。特に女性達は噂の最前線に立っているわ。何気ない会話でも何か重要なことの手がかりであることもあるわ。社交界は女性の場よ。ヴァンは……正直貴族としてのそういうやり方はできないでしょう。なら、貴方が代わりにやらなければならないわ」



 ナディアは社交界にも出るようになって少しずつ人脈を広げている。だけど、フェールからしてみれば足りない。

 世間の評価はまだナディアはそこまで高くはない。高めなければ、ふさわしくあらなければヴァンの傍にいるのは大変なのだ。



「そのためにまず、同年代の子たちと仲良くなりなさい」

「同年代の子と?」

「貴族の子女たちは未来の夫人よ。仲良くすることに意味があるわ。もちろん、本当に友人になりたい相手がいるのなら特別仲良くするのもありよ。貴方はパーティーには出るようになったけれど、あまり同年代の子とかかわっていないでしょう?」



 今は意味がないと思えることでも、将来の糧になることはいくらでもある。ナディアは立派になりたいという気持ちばかり先行していて、そういうことにまで頭が回っていなかった。

 とるに取らない王女。目立たない王女。そうして暮らそうとしていたナディアはそういうつながりを全然作ってこなかった王女様なのだ。



「お父様に言えばすぐ場を与えてくれるはずよ。ナディア、貴方に寂しがっている暇はないの。寂しがっている暇があるなら、頑張りなさい」

「はい。フェールお姉様」

「お姉様、お姉様! 私は何をすればディグ様の心をつかめると思う? ねぇ、どう思う?」



 フェールとナディアが会話を交わしていたら、キリマが割り込んできた。




「それはわからないわ。人の心とは難しいものだもの。あの『火炎の魔法師』は女性に執着しないわ。今まで遊んできた女性に共通点も見られない。ヴァンは……ナディア以外見ないでしょうしナディアは自分を磨くことだけ考えればいいでしょうけど、キリマは…難しいわね」



 フェールはばっさりといった。



 なんだかんだで妹たちと仲良くなってから、フェールは妹たちのために情報収集をしたりもしていた。その結果ディグ・マラナラを攻略するのは難しいという結論に至った。



 ディグ・マラナラ。カインズ王国の英雄。最強の魔法師。

 異性に猛アピールされているが、特に靡かない。

 国王陛下に見合いを進められても断る。

 いろんな女性と遊んでいたりもする。その共通点はない。

 そもそも、年の差も問題である。ヴァンとナディアは子供同士だし、別に問題はない。

 が、ディグとキリマは大人と子供である。あと数年もすれば大人同士で気にもならなくなるだろうが、キリマは子供でしかない。



「うー、でも私あきらめないもん。ディグ様が大好きだもん」

 「応援はするわ。頑張りなさいともいうわ。でも、駄目だったときのことも考えなさい。英雄に嫁ぐことには意味がある。だから、それもありだわ。だけど、私たちは王女だもの。王の子よ。その血に、その身に意味があるの。駄目だった場合は、嫁がされるというのは覚悟しておきなさい」



 フェールはそういってキリマを見た。

 王家の血には意味がある。その身は国のためにある。

 ナディアは、英雄候補が望んでいる。ヴァンを他国にやるわけにもいかない。だから意味がある。

 『火炎の魔法師』のディグ・マラナラとの結婚にも意味がある。だけど、うまくいかなければ意味のある結婚をしなくてはならない。



「……わかっているよ、お姉様」



 キリマはそれにうなずいて、ナディアは二人の会話を黙って聞いていた。




 --王女三人について

 (ヴァンとディグがいない中で、三人王女は会話を交わす)

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