100.召喚獣の召喚について 上

「ディグ様……こんな幼い子に本当に召喚獣との契約をさせるおつもりなのですか?」

「いくらディグの弟子とはいえ……」



 ユイマ・ワンとタンベル・ミーシャインは信じられないといった目でディグのことを見ている。

 ユイマと稽古をつけていたフロノスにディグが呼びかけ、召喚獣との契約を早速することになった。しかし、フロノスはまだ若く、二人からしてみれば子供である。

 そんな子供に召喚獣との契約をさせるというのは、二人にとっては驚きで、止めるべきものであった。



「俺が見ているし問題はねぇよ。それにさ、それを言うならヴァンはどうなるんだ? こいつはフロノスよりも年下だが、召喚獣を連れているが」

「……それは、その子が例外なのでしょう?」

「ま、それは言えてるな。でもフロノスだって俺の弟子だぞ? 普通の括りにはあてはまらないだろうよ」




 ディグはそういって、フロノスへと視線を向ける。そうだろ? ともいう風な目だ。



「はい。ディグ様。私はディグ様の弟子ですから」



 フロノスはディグの弟子であることを誇りに思っている。そのディグに弟子だと発言されるたびに毎回嬉しそうな顔をしていたりもする。



「フロノス姉の召喚獣って強そう!」




 ヴァンは能天気にフロノスがどんな召喚獣と契約を交わすのだろうかとにこにこしている。



 召喚獣二十匹とも契約をしているヴァンからしてみれば、召喚獣と契約を交わす行為の危険性をあまり深く考えていないようにも思える。第一、ヴァンはさらりと召喚獣と契約をなしてしまうようなちょっと他とはずれている少年なため、普通の感覚がわかっていないのも無理はない。


「ヴァンさん、何をのんきに……あなたも召喚獣を引き連れているなら召喚獣の危険性はわかるでしょう? 貴方がどういう経緯で召喚獣と契約をしたかは知りませんが、召喚獣とは恐ろしいものです」

「そうかなー? 俺あんまり危険感じたことないけど。召喚獣に関しては」



 ユイマが常識を問うように訴えかけるが、ヴァンからしてみればわからないものである。

 基本的にヴァンは召喚獣たちに面白いと思われて契約を交わしているし、襲いかかったとしても召喚獣たちが対処したり自分の魔法でどうにかしていたために特に危険はない。《クレイジーカメレオン》のレイもヴァンに反抗的だったがその力を前にさっさと下につくことを決めた。

 そんなわけで二十匹もの召喚獣と契約を交わしているが、ヴァンは特に危険な目にあったことはない。



「それは運が良かっただけだろう。召喚獣との契約は危険だ」



 ダンベルの言葉にヴァンはまた不思議そうな顔である。



 ユイマとダンベルからすれば、ヴァンが二十匹もの召喚獣と契約を交わしていることも知らないわけだ。ヴァンのことを運よく危険な目に合わずに契約を交わすことができた子供という認識に至っているらしい。

 ユイマに至ってはフロノスからディグ以上の天才と聞いているはずなのだが、どうしても無垢で、無害としか見えない普通な少年のヴァンの姿に騙されている。




(……二十匹もの召喚獣と運だけで契約をできたらすごいわよね。でもヴァンって見た目は普通だから仕方ないけど本当実力を見せないとヴァンは信じられないわ)



 三人の会話を聞きながらフロノスはそんな気分になる。二人は言ってもおそらく理解できないだろう。その目でヴァンの実力を見るまで。



「あー…ヴァンにそれいっても意味ないぞ。それより召喚獣との契約はお前たちがなんて言おうとする。少しでも危険があるかもしれないのは仕方がないことだ。それぐらいフロノスにだってわかっている。フロノス自身が召喚獣と契約をすることを望み、そして俺が許可した。だからお前たちが何を言おうとも関係はない」

「……そうですね。では見させていただきましょう」

「危険なら助ける」




 二人にとって子供というものは守るべき存在で、弱い存在であるという認識のほうが強いのだろう。

 心配そうにフロノスを二人とも見ている。



「フロノス姉、頑張って」

「召喚獣を召喚して契約するコツとかってあるの?」

「コツ……? んー、向こうが襲いかかってくるならぶちのめしたらいいよ? 召喚獣は強い契約者とか好きみたいだから」



 フロノス、応援するヴァンになんとなく聞いてみるとそんな答えが返ってきた。



「……そう」

「うん。頑張って」



 ヴァンの言葉に何とも言い難い気持ちでフロノスはうなずくと、ヴァンは無邪気に応援の言葉を言う。

 そしてフロノスはディグの前に立つ。



「では、ディグ様やります」

「魔法陣は覚えているか?」

「はい」



 フロノスはうなずき、地面に魔法陣を描く。召喚獣を呼ぶための巨大な陣を、丁寧に間違えないように描いていく。

 ヴァンはそれを見ながら「フロノス姉の陣ってきれいだなー」とかのんきに語っている。フロノスがきれいに書いているというのではなく、ヴァンがおおざっぱに書きすぎなだけだ。

 そして書き終えると、呼びかける。




 「我と契約を結ばんとするもの」

 ---私と契約を結んでくれるもの。

 「我は対価に魔力を授ける。汝我のために働きかけよ」

 ---私の魔力を与えます。だから、あなたは私の望みにこたえて。

 「我の呼びかけに応じよ」

 ---私の呼びかけに応じて。




 祈るような詠唱が終わる。

 そうすれば、陣は光輝いた。

 そして、そこにいたのは一本の角を持つ巨大なウサギだった。




 ―――召喚獣の召喚について 上

 (祈るような詠唱に答えたのはウサギだった)

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