74.実家に帰ろうとするヴァンと王宮魔法師の弟子二人について

 その日、ヴァンはディグから許可をもらい、実家に帰ろうと色々と準備をしていた。といっても、翌日も社交界デビューのためにやることも沢山あるわけで、日帰りだが。



「母さんと父さんに会うのも久しぶりだな」



 ナディア以外の人に対して関心が薄いヴァンであるが、なんだかんだで家族の事は少なからず気にする情ぐらいはあった。だから自分が有名になることで実家に迷惑がかかるかもしれないとフィアたちに言われて、召喚獣に見守ってもらってたりもするのだ。



「ヴァン、今からいくの?」

「うん、フロノス姉」

「……私は貴方の両親が普通の人だっていうことが信じられないわ」



 そんな言葉を口にするフロノス。それはヴァンを知る大多数の人が思っていることであろう。



「そう? じゃ、いってきます」

「いってらっしゃい。ディグ様に言われている時間にはかえってくるのよ」

「うん、師匠に怒られたくないし、ちゃんと時間は守るよ」



 ヴァンはそういって、ディグの研究室から出て行くのであった。







 そして実家へと向かおうと歩き出す中で、ヴァンはクアン・ルージーとギルガラン・トルトと遭遇した。








「ヴァン、どこかいくの?」

「珍しいな、貴様がどこかに出かけるなど」



 クアンとギルガランはそんな風にヴァンに声をかける。



「あ、クアンとギルガラン」




 王宮魔法師の弟子という立場である二人とは、ヴァンは良い関係を築いていた。まぁ、他にも王宮魔法師の弟子という立場の人間は幾人かこの王宮内に存在しているが、そちらとはヴァンはあったこともない。



 そもそもヴァンはクアンとギルガランと交流はあるものの、彼らの魔法の師が誰かきちんと把握もしていなかった。

 年はクアンとギルガランの方が年上だが、呼び捨てでもいいといわれてそうしている。




「今から実家に向かうんだ」

「実家?」

「うん、王都にあるから」

「近いな」


 そんな会話を交わしていく。




「貴様が実家に帰るという話ははじめて聞くな。そもそも貴様の実家が王都にあるとは知らなかったぞ」

「ナディア様の誕生日プレゼント作りに行くんだよ」

「……何をやっている家だ?」



 ギルガランが買いにいくではなく、作りに行くとヴァンが言ったことに反応して問いかけた。



「ガラス細工職人。ナディア様にプレゼント作る!」

「……そうか。貴様はナディア様の事ではないと動かないのだな、本当に」



 呆れた声がギルガランから洩れるのも当然であろう。



 クアンとギルガランはこれまで少なからずヴァンという存在と交流を持ってきた。その中でヴァンがどういう人間なのかも理解していたのだ。



「それより、ヴァン、社交界デビューの準備は順調なの? ナディア様の誕生日の時に公の場にはじめて出るんでしょ?」

「んー、多分」



 クアンの問いかけに、そんな風にヴァンは答える。

 なんとも適当な返答である。




「多分ってな、大丈夫か?」

「大丈夫だと思う」

「貴様は、本当に呑気だな。俺とクアンは実家や交流のある家からお前に会わせろとせっつかれて大変だというのに」



 クアン・ルージーの実家はルージー公爵家、ギルガランの実家はトルト侯爵家。このカインズ王国の中でも名だたる二つの貴族である。

 ルージー公爵家と、トルト侯爵家もヴァンの存在に興味津々であるらしい。



「そうなの?」

「そうだよ。寧ろヴァンに興味がない貴族ってあんまりいないからね。まぁ、ナディア様の誕生日の日は大変だろうけど、頑張りなよ」



 クアンは少し同情するような言葉を、ヴァンにかけた。



 クアンも公爵家の一員として貴族社会でもまれてきた少年なのだ。貴族の連中にそれだけ興味と関心を引かれているとなると苦労しか見えなかったのである。

 第一、平民なのに社交界デビューしなければならなくなったヴァンは、貴族との付き合い方など知らないだろう。



「ヴァン、今度時間あるときに俺とクアンで貴族との付き合い方を教えてやる」



 あまりにもヴァンが呑気だったからだろう、ギルガランはそう口にした。



「本当? ありがとう。じゃあ、俺行くから」

「うん、じゃあね」

「ああ、またな」




 そうしてクアンとギルガランとヴァンは分かれて、王宮から正式な門から出ていく。



 ――本当は前に侵入していた時のようにこっそり出ていこうかなと考えていたが、ディグとフロノスに「正式な手続きをして出ていくように」といわれておとなしく正式な手続きをして出て行ったのだ。



 そんなわけで王宮から出たヴァンは、実家へと歩き始めた。





 ―――実家に帰ろうとするヴァンと王宮魔法師の弟子二人について

 (なんだかんだで三人は仲良くなっていたのです)

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