73.王子二人の会話について
さて、王女たち三人が仲良く会話を交わしている頃、王太子であるレイアード・カインズと第二王子であるライナス・カインズもともにあった。
「ライナス、折り入って相談があるのだが」
真剣な顔でレイアードはそう告げる。
「……なんだよ、兄貴」
そう答えながらライナスはどうせしょうもない事なのだろうなと酷い事を考えていた。
「……ナディアへの誕生日プレゼントについてだ」
「あー、ナディアの誕生日もうすぐだもんな」
などと答えながらも、ライナスはやっぱりしょうもないことであったと考える。
二人は向かい合ってソファに腰かけていた。机の上にはチェス盤がある。どうやらチェスをしながら会話を交わしていたようだ。
「てか、何で改まってその相談を俺にするんだよ? 兄貴、毎年”これならナディアは喜ぶ”と自信満々に口にして選んでいるだろうが。いつも通り、勝手に選べばいいじゃねぇか」
そう、レイアードはライナスがいうようにいつもは「これを買ってきた。これならナディアは喜ぶだろう」とそんな風にいってくるのだ。なのに、何故今回に限って相談してくるのだろうとライナスは疑問であった。
あとシスコンを拗らせている兄を見るのはライナスにとって面白くもあったが、時にも面倒でもあった。
「……あいつがいるだろう」
「あいつって……ヴァンのことか?」
「そうだ。ヴァンよりも良いものを、ヴァンがあげたものよりもナディアが喜ぶものをあげたい」
真顔でそんなことを口にする兄に、ライナスは呆れた。
「何を、張り合ってんだよ」
プレゼントで張り合う必要など全くない。だというのに、ヴァンよりも良いものを与えたいなどという王太子。
こんな王太子でも、優秀で次期王として相応しいといわれているのだがら、世の中わからないものだ。
「私はな、ナディアに良いものを与えたいのだ。折角の誕生日なのだから。そして兄としてのプライドで、ヴァンには負けたくないのだ」
「いや、あのさ。王太子と『火炎の魔法師』の弟子じゃ財力は全然違うし、兄貴の方が良いもの与えられるだろう」
それもそうである。ヴァンはお金を持っているわけではない。あくまで王宮勤めの『火炎の魔法師』の弟子という立場でしかないのだ。
そんなヴァンと張り合うなど、レイアードは妹の事になると中々大人げなかった。
「それでもだ。兄として負けるわけにはいかない」
「……それは兄貴だけの考えだろう。大体、ヴァンが何を上げるかもわからないのに、どうやって張り合うんだよ」
「その辺は配下のものに探らせている」
「……無駄に連中を働かせるのやめろよ」
ライナスは呆れた声を上げる。
「ライナスは、可愛いナディアがヴァンにとられてもいいのか」
「恋愛は自由だし、ヴァンは面白い奴だし別にいいけど」
「ぐぬぬっ、ライナスが認めても私はまだ認められない」
「親父もだけどさ、兄貴も、いい加減あきらめろって。ヴァンをつなぎとめるためにナディアと結婚させるって話まで出てるわけだし、あいつナディアの事本当に好きじゃないか」
親バカとシスコンは、中々ヴァンの事を認められないらしい。正直無駄なあがきだとライナスは思っている。
「そうだが、とりあえずだ、私はヴァンには負けたくないのだ。プレゼント選びには付き合ってもらうぞ」
「はいはい、わかったよ」
呆れながらもなんだかんだでレイアードのシスコンに付き合うライナスであった。
「つか、兄貴、ヴァンに興味を持っている貴族ってかなりいるよな」
「ああ、それはそうだ。《竜殺し(ドラゴンキラー)》で、『火炎の魔法師』の弟子なのだからな」
二人はチェスを進めながらもそんな会話を交わす。
「ヴァンは貴族連中と上手く付き合っていけるかね」
「貴族たちと上手く折り合いがつけられないのならば、ナディアの傍にいる資格などないだろう。ナディアは王族だ。王家の娘を欲するというのならばな」
「……最初から完璧には無理だろうけど、まぁ、ヴァンはナディアのためなら上手くやるんじゃねぇか?」
「……ライナス、ヴァンの肩を持ちすぎだ」
「俺は兄貴や親父と違って、ヴァンが義弟になることに反対はしていないんでね」
ライナスはそういって笑った。
ナディアの事は妹としてライナスも可愛がっている。そしてヴァンはナディアはどうしようもないほど好きで、ナディアを守っている。なら、二人がくっつくことに対して何か口を出す必要はないと思っていた。
(大体、親父も兄貴も認められないだけで、ヴァンを嫌っているわけでもないしな。認めるのも時間の問題だろう)
第一、ライナスはそんな風に考えていた。ただナディアが可愛いあまりに認められない親心と兄心があるだけで、ヴァンの事を二人は嫌っているわけではないのだから。
「そうか。しかし私はまだ認めないぞ」
「それならそれでいいんじゃね?」
「それでだ、ナディアの誕生日パーティーでは――」
そして二人はナディアの誕生日についての話を続けるのであった。
――王子二人の会話について
(王太子殿下は相変わらずシスコンを拗ねらせ張り合っていた)
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