72.王女三人の会話について

「ナディアももうすぐ11歳になるのね」

「ふふ、お祝いしてあげるわ!」



 さて、ナディアの住まう三の宮には、現在第一王女であるフェール・カインズと、第二王女であるキリマ・カインズが訪れていた。


 このカインズ王国の三人の王女がこの場にそろっていることとなる。


 三人とも見目が美しい王女たちである。三人そろっている姿に、周りについている侍女たちのうち何名かがほぉと感嘆の息を吐いた。



 どこの国にも言えることなのだが、王族というものは見目が美しいものたちが多い。そういう血筋のものばかりが王家に嫁いだりすることが多かったからである。

 美しさとは一種のステータスであり、上に立つものとしてみれば、美しくないよりも美しい方が人を動かしやすいのだ。



「ふふ、ありがとうございますわ。フェールお姉様、キリマお姉様」



 ナディアはそういって微笑む。



 フェール、キリマ、ナディア。

 その三人の王女たちがこうして仲良く過ごすなど、つい先日までは想像もできなかった光景であった。しかし現状はヴァンが刺激になり、関係が変化した。



「ナディア、私のお母様が貴方の事を邪魔に思っているわ」

「あ、私の方も。お母様がナディアの事嫌っていってた」

「……それは予想の範囲内ですわ。アン様もキッコ様も私が表だって目立つ事を嫌がっているでしょう。おとなしくしていても手を出してくるほどですし」



 アンとキッコ。それはフェールとキリマの母親であり、この国の側妃たちである。



「ミヤビ様はそれはもう美しい方だったわ」

「お母様、ミヤビ様、大嫌いだったなぁ」




 ミヤビというのは、今は亡きナディアの母親の名である。フェールとキリマの言葉に、ナディアは今は亡き母親の事を考える。



 うろ覚えの記憶。幼い頃になくなったため、記憶にはあまりない。だけど、自身の身を案じてくれた優しい人だったとそのことだけは確かに記憶している。



 美しい人だったということも、ぼんやりと覚えている。

 少なくとも身分が低いながらに王からの寵愛をもらえるほどの人であったのだ。そんな人が美しくないはずもない。



 ナディアがアンとキッコから嫌がらせをされているのは、あのミヤビの娘だからという理由も大きい。身分が低いながらに美しさを持ち、王の寵愛を得たミヤビの事を彼女たちは嫌っていた。それでいてその娘であるナディアの事も嫌っている。



「私は、少ししかお母様の事覚えてないのです。お母様は小さなころに亡くなって、ぼんやりとしか覚えていなくて」

「そうなの? って、そうね、ミヤビ様が亡くなった時って、ナディアは小さかったはずだもの」

「うーん、なら、私ミヤビ様の事、ナディアに話すよ。っていっても私もちょっとしか知らないけれど」



 キリマがそういえば、フェールも「じゃあ私も」と口にして、ナディアの母親の話をする。



「この私の目から見てもミヤビ様は美しい方だったわ。それでいて身をわきまえていた方だったわ。お父様はミヤビ様の美しさに首ったけだったけれど、それを驕るわけでもなく、おとなしくしようとしていた記憶があるもの。そしてお母様が何を言おうとも反論なんてしなかったわ」



 フェールは思い出すように過去を振り返ってそういう。ナディアの母親であるミヤビは本当にフェールが認めるほどに美しい人だったのだ。



「そうだよ。そんな調子で、お母様とアン様の反感買わないようにミヤビ様って凄い上手くやってたよ。それでもお母様もアン様もミヤビ様の事気に食わないみたいでちょっかいは出していたけどさ」



 キリマも、そんな風に口にする。それにしてもキリマは素がばれているからといって砕け過ぎである。王女としてパーティーなどに参加している時とは完全に別人にしか見えない姿であった。



「…そうなんですの」



 ナディアはそんな話を聞き、頭に留める。こうして二人の姉から自分の母親の話を聞くほど仲良くなるなどナディアは思ってもいなかった。

 こうしてこんな風に彼女たちがあれるのは、ヴァンがいたからで、それを思うとナディアはヴァンに感謝しか浮かばなかった。



「ナディアも、お母様たちに色々されているでしょう?」

「フェールお姉様、確かにされていますが問題はありませんわ。ヴァン様の召喚獣たちが守ってくださっていますから」

「……召喚獣たちがいなかったらナディアは生きていたかも怪しいわ。お母様を止められなくてごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですわ。それより、フェールお姉様、私と仲良くしていてアン様はどうですか?」

「口うるさくなったわ。なんであんな王女と仲良くしているのって。でもその点は”仲良くして裏切るため”って言っておいたわ。そしたら満足して何もいわなくなったもの」



 どうやらフェールはそんな風に言って、母親の小言を黙らせたらしい。



「え、なにそれ。その言い訳いい! 私なんていえばいいかわからなくて、正直にナディアはいい子だもんっていっちゃってお母様がもっとうるさくなった」

「……キリマ、貴方はもっと考えて口を開きなさい。キッコ様がそんな風に言って納得するわけないでしょう」



 キリマの馬鹿正直な言葉に、フェールがそう告げる。呆れた様子である。



 フェールもキリマも母親から、ナディアと仲良くしていることに対して色々言われているらしい。それもそうだろう、自分が気に食わないとちょっかいを出している王女と自分の娘が仲良くしているのだ。良い気持ちはしないだろう。



「ナディア、とりあえずよ、お母様たちは表だって行動しだしたナディアにこれからも色々とちょっかいを出すでしょう。ですから、気をつけなさい」

「はい、気を付けますわ」



 命令口調だけれども、確かにナディアを案じた言葉にナディアは笑顔で頷くのであった。



 ――王女三人の会話について

 (そして彼女たちはそんな風に会話を交わす)

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