71.ディグとフロノスとヴァンの会話について
「師匠、俺実家かえっていい?」とそんな風に突然問いかけられ、魔法練へと戻ってきたディグは正直驚いた。
そもそも、ディグがヴァンを引き取ってからというもの、ヴァンがこうして実家に帰りたいなどと告げたのははじめてである。そもそも、そのことも考えてみればおかしい。
王宮に住んでいて、すぐ近くの王都に両親がいて、普通ならもっとその話題とかをあげるものであろう。しかし、ヴァンは両親に関してもそこまで関心がないのか今まで一言も口にした事はなかったのだ。
ディグは、問いかける。
「いきなりなんだ。理由を説明しろ」
「もうすぐナディア様の誕生日だから!」
説明しろと告げたディグの言葉に、ヴァンの返答はそれである。正直、”ナディアの誕生日”と”実家に帰る”というのが、ディグの中では結びつかない。
相変わらず言葉が足らないし、意味がわからないと思いながらもディグはヴァンを見る。
「理由になっていないぞ」
「……ディグ様、ヴァンはガラス細工のアクセサリーをあげたいだそうですよ」
ディグの呆れた顔を見ながら、フロノスが口をはさむ。
「ガラス細工?」
「……ディグ様、ヴァンの実家はガラス細工師でしょう」
「あー、そういえばそうだったな」
「ディグ様、忘れてました?」
「いや、こいつあまりにもなじんでいるし、全然そんな家で生まれたと思える要素が普段の様子からしてないだろう」
「それは、そうですけど」
二人して、ヴァンにそんな感想を抱く。二人の視線がヴァンへと向く。ヴァンは、「それで、実家かえっていい?」と目を輝かせてディグを見ている。
はやく実家に帰ってナディアへのプレゼントを制作したいらしい。相変わらずナディアの事ではないと行動に出ないヴァンであった。
「まぁ、いいけど――」
「よし、じゃあ、俺いく――」
「って、待てっ。まだ話は終わってない」
早速実家に帰ろうと、窓から飛び降りようとしたヴァンをディグは捕まえる。
捕まえられたことにヴァンは不機嫌そうな表情を浮かべている。
「師匠、今いいって」
「今すぐじゃねぇし! お前にはほかにもやることあるだろう。帰るなら明日だ明日。それと条件をつけるぞ」
「……条件?」
「お前は俺の弟子としてやることがある。それにナディア様の誕生日でお前は社交界デビューをするんだ。そのためにも色々とやることがあるだろうが」
はぁと溜息を吐く。しかし、ディグはため息を吐く姿も様になっている。ディグとヴァンを見ながらも、どんな表情でも様になる美形って苦労もあるけれども得だよねなどとフロノスは考える。
(……それにしても、ヴァンは本当ブレない。大体なんで、かえっていいって許可が出たからって窓から飛び降りようとするのかもわからないし。普通に玄関から出ればいいのに)
などとフロノスは思考する。
「えー」
「えー、じゃねぇよ。あのな、ヴァン。お前のお披露目もナディア様の誕生日パーティーの中でも重要な要素なんだ。お前に会ったことのない貴族連中もお前にかなりの関心を持っているんだぞ? お前は注目されるだろう。そんな中できちんとできてなかったらナディア様の誕生日をお前がダメにすることになるんだぞ? それにナディア様も三女とはいえ、この国の王女だ。その隣に並びたいというのなら、きちんとやる必要があるからな?」
「じゃ、頑張る」
ディグ、ナディアの事を口にしてヴァンのやる気を引き出すことを最近よくしている。
「師匠」
「ん?」
「帰るのは明日でいいけど、ナディア様にあげるならどんなアクセサリーがいいと思う?」
「……お前がやったものなら何でも喜ぶんじゃねぇか?」
「それ、フロノス姉もいってたけど答えになってない」
などとヴァンはいうが、実の所ナディアはヴァンの事をそれはもう気に入っているため、何をもらっても喜ぶだろう。
「つか、俺は女に贈り物とかあげねーし、俺に聞くな」
「え、師匠ってでも女に関して百戦錬磨だっていってた」
「おい、誰だ。それをいったのは」
「フロノス姉」
「おい、フロノス……」
そういってフロノスを軽く睨みつけるディグ。
「ディグ様が女遊びをしているのは事実でしょう? いい加減、ディグ様も結婚してもいい年頃なのですがね」
「……お前は俺の姑かよ」
フロノスの小言に、うんざりしたようにディグが言う。
結婚をしないかという話はディグにはよく来る。ディグはこの国の英雄であり、引く手あまたである。ただし、本人としてみれば一人の女性に縛られる気は全くない。
「いっその事キリマ様をめとってしまえばいいと思いますが」
「キリマ様は子供だろうが」
「いえ、でもすぐに女性になるでしょう?」
「……お前なぁ」
そうしてディグとフロノスがそんな会話を交わす隣で、ヴァンはナディアに何をあげようかとそれを考え続けるのであった。
―――ディグとフロノスとヴァンの会話について
(そんなわけでナディアへの誕生日プレゼントをヴァンは引き続き考え、実家で何を作ろうかと頭を悩ませるのであった)
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