75.実家に帰るヴァンについて 上
ヴァンが実家へと歩くなかで、周りからは大量の視線が降り注いでいた。それも当たり前のことである。ヴァンは、あのディグ・マラナラの弟子である。
ディグに引き取られてからと言うものほとんど王宮から出ることもなかったヴァンに通行人は興味津々である。
「ヴァン!? お前何してるんだ?」
驚いた声をあげてヴァンをみる少年がいる。
「あ、ハマサ」
ヴァンはその少年をみて、声をあげた。どうやら知り合いらしい。王宮に引き取られてから一度も実家へかえっていないヴァンにとって実に久しぶりの再会であったが、実に軽い。
「実家へかえろうと思ってるんだ」
ヴァンが告げればハマサは益々驚いた顔をした。
「実家へかえる!? 王宮なんていう帰りやすい場所にいながら一度も実家へかえらなかったお前がか? お前がいなくなってからおばさんたち大変だったんだぞ! あとなんか、おばさんたちにてを出そうとした奴等か次の日には怯えた目をして近づかなくなったらしいが、お前なにかしたのか?」
「俺はなにもしてないよ、召喚獣たちには頼んだけど」
さらっといわれた言葉にハマサはまじまじとヴァンをみた。
正直な話をいうとハマサを含めたヴァンをよく知る面々はヴァンがディグ・マラナラの弟子になったときいた時耳を疑ったものである。それも当たり前といえば当たり前だ。ヴァンはそんな素振りを一切見せなかった。ハマサにとってヴァンは変わった人間だけれども普通の少年であったのだ。
それが英雄の弟子になったと聴いて、まず信じられなかった。弟子でディグ・マラナラの勘違いですぐ戻ってくるのではないかとさえ思うほどだった。
しかしヴァンは戻ってこなかった。
それどころか、ドラゴンを倒した英雄にまでなり得た。ハマサたちからしてみれば意味がわからないことであった。今まで普通に遊んでいた近所の子供がそんな存在になったのだから仕方がないことである。
だからこそ、周りからヴァンのことを友人として聞かれても正直なにも答えられなかった。
頭ではヴァンはディグ・マラナラの弟子になり、自分たちとは違う世界の人間であるとわかっている。しかし現実のヴァンを思うと本当に自分たちがしるヴァンがそんなすごい存在になったとは理解なんぞ出来ないものであったのだ。
だが、しかし目の前のヴァンは確かに自分たちの知るヴァンであるが、確かに噂の英雄の弟子でもあるのだとヴァンの言葉に実感した。
「どうしたの?」
黙りこんだハマサにヴァンは不思議そうにといかけた。
街中で会話を交わすヴァンとハマサには注目が集まっている。
「いや、お前...すごいやつになったのになにも変わらないなって」
自分たちでは考えられないすごいことをやってのけているのに、昔から全然変わらないなヴァンにハマサはそう告げる。
ただの平民から英雄の弟子にまでなったのだから調子にのって性格が変わってもおかしくないのにヴァンはなにも変わっていない。そのことはハマサにとって嬉しいことだった。
「俺は俺だよ?」
「ヴァンだしなあ...それより実家へかえるならビッカに会ってやれよ。ヴァンが王宮にいってあいつ悲しんでたからなあ」
「やることあるから約束はできない」
「そうか......っておい、そこは約束しろよ。ちょっとあうだけだろ! 本当にお前はあまり人に興味がないな」
ハマサにとってヴァンは友人である。昔から知っているのもあり、ヴァンの性格は知っていた。友人とはいえヴァンは誘わないと子供たちの輪に入らないような少年だったのだ。
ヴァンとビッカ。幼なじみの男女とくれば、少しぐらい特別扱いしてもよいものだと思うが、ヴァンにとってみれば生まれた時からの幼なじみであるビッカも幼少期に仲良くなったハマサも等しく扱いが同じであった。ヴァンは対してこちらに関心を抱かず、ハマサとしてみればビッカが不憫に思えてくる。
なぜならビッカがヴァンに特別なおもいを抱いているというのは親しい友人たちの間では承知の事実であったからだ。
「師匠に許可もらってかえってるし時間ないし」
「お前...本当ひどいな。お前が誰かに興味をもつ姿が全然想像出来ない」
そんなことをいってるハマサはナディアと一緒にいるヴァンを見たら、別人かと疑うことであろう。
「じゃあ俺いくから」
「ああ...またな」
「うん」
「時間あったらビッカにあえよ」
「うーん、ないからあわないよ」
きっぱりそう告げてヴァンは去っていった。
その後ろ姿を見ながらハマサは相変わらずのヴァンにため息をはくと、ヴァンとしゃべっていたからと視線が集まっていたためその場からそそくさと去っていくのであった。
―――実家に帰るヴァンについて 上
(ヴァンは実家へ途向かう途中、昔馴染みと出会う。ナディアへの誕生日プレゼントをどう作るか考えて忙しいヴァンは幼なじみに会う気もない)
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