56.王族たちと交流するヴァンについて 2

 さてさて、王族たちとの交流が始まったわけである。

 ヴァンは王族たちから沢山話しかけられていた。



「ヴァンはどうやってドラゴンを倒したのかしら?」

「どうって、普通にです」

「普通? ふふ、面白いわ。普通に倒すなんて」



 と、そんな風にフェールは笑っている。ヴァンの事に興味津々である。そうやってヴァンとフェールが会話を交わすのをナディアは何とも言えない様子で見つめている。



(フェールお姉様は綺麗な人だし、ヴァン様は私よりもフェールお姉様が良いって言い出すかもしれない。それは、嫌だな)



 そんなことばかり考えて、ナディアは自分で自分の事が嫌になりそうであった。

 自分の内に存在するそういう心は、ナディアの事を戸惑わせるには十分なものである。自分で、自分の気持ちに驚くのだ。


 フェールがヴァンに会いたいというそれだけを聞いただけでどうしようもないほどにとられたくないと感じていたナディアである。それなのに、こうしてほかの三人までヴァンに関心を持っていることに色々と感じさせられているのだろう。



「ヴァン! ナディアとばかり親しくしているのでしょう? 私とも親しくしてほしいわ」



 そして、そういってヴァンとフェールの会話に入ってきたのはキリマである。

 キリマの内心はあわよくばディグ様に近づきたいというそういうものである。



 しかしまぁ、そういう本心を知る者はこの場にはおらず、キリマの目当てはヴァンであるという認識を持たれるのも仕方がない事であった。



(キリマお姉様も、ヴァン様と仲良くしたいのかぁ。本当、ヴァン様の世界が広がっていくこと、ヴァン様がこうして凄い人だって認めてもらえること。それって、嬉しいことなのに。なんで、こんな風に嫌だなって思ってしまうのだろう)



 そう、嬉しい事のはずなのだ。嬉しくないはずがない。

 ヴァンが活躍して、認めてもらえて、だからこそほかの王族がヴァンに会いにきて、それは嬉しい事なのだ。

 でもそれよりも、嫌だという気分がわいてきて、ナディアはぎゅっと手を握る。



「えっ」



 そして「私にも会いに来て欲しい」という発言に対しての態度は流石のヴァンである。正直ナディア以外どうでもいいヴァンであるから、嫌そうな顔をした。


 それに固まるのは、その場にいた王族たちである。

 幾ら、楽にしてよいと王太子に言われたからと言って、ここが公式の場ではないからといってその態度はおかしい。



「………ナディアには会いに行くのに?」


 ボソッと問いかけられた言葉に対しての言葉も、ヴァンは流石である。



「ナディア様だから会いに行くんです」



 ばっさり本心からの言葉を口にする。

 素直というか、馬鹿というか、色々とずれているといえるだろう。王族相手にこんな風に言ってのける人間はそうはいない。



 そんな態度をされた事はなくて一瞬ぽかんと固まったキリマ。

 その返答を聞いて面白くなさそうに表情を硬くしたフェール。

 そして、ヴァンの隣ではヴァンの言葉に嬉しそうに表情を緩めたナディアがいる。

 王女たちの反応は、それぞれ違った。



(不安、なんていらなかったのかもしれない。ヴァン様は、こういう人だから。フェールお姉様やキリマお姉様が素敵な人だったとしても、ヴァン様はそちらになんか行かない。そういう人だからこそ、ヴァン様なのだから)



 手を、強く握るのをやめる。

 前を向く。



「ヴァン様」

「なんですか?」

「ヴァン様は、私には会いに来てくださるのですね」

「当たり前です」



 迷う素振りもない。というか、ヴァンが魔法を学んだのも、召喚獣と契約をしたのも、ディグの弟子になったのも、こうして王宮で過ごしているのも、全部ナディアのためであるのだ。



 そんなヴァンにとってナディアに会いに行くのは当たり前で、それ以外に会いに行く意味はない。

 極端ともいえるべく性格であるが故に、ヴァンは扱いやすいとも扱いにくいともいえるだろう。



「ふふ、そうですか」


 ナディアはただその返答に笑って、フェールとキリマを見た。



「そういうわけで、お姉様たち、ヴァン様は私にだから会いに来てくださるのです。ヴァン様の事はあきらめてくださいませ」



 自信満々に笑って、嬉しそうに告げた。ヴァンの気持ちが嬉しいと全面に出した笑みは、酷く愛らしい。



 フェールとキリマはそれに顔色を変えるのであった。

 ちなみに、そんな王女たちが火花を散らしている間、レイアードとライナスは蚊帳の外であり、互いに色々と考えていた。



(あいつ、ナディアの事が本当に好きなのか。あんな風に言うなんて。いや、しかし、私はまだあいつを認めたわけではない!)



 そんな風にシスコンレイアードは考える。



(つか、ナディアの方がお熱じゃねぇか? 兄貴は認めない! ってなってるみたいだけど父上がなんだかんだでナディアのもとに置くこと認めているわけだし、放っておいてよさそうだけどな。つか、こいつ面白いし、義弟になっても面白そう)


 面白い事が大好きなライナスはそんな思考である。



 ―――王族たちと交流するヴァンについて 2

 (ナディア様、ヴァンの言葉にフェールとキリマに言い放つ)

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