55.王族たちと交流するヴァンについて 1
王子と王女たちがヴァンに会いたいと願い出て、その許可を王が出したということでヴァンは彼らと会う場を設けられることになった。
その話を聞いたナディアが自分も一緒にといったため、現在この場にはナディアとヴァンの二人がいる。他の王子殿下、王女殿下たちはまだ来ていない。
(ナディア様のお姉さんとお兄さんと会うとか緊張するなぁ)
ヴァンはといえば、そんな事を考えていて緊張しているようだ。
そんなヴァンの隣にいるナディアは、どこか不安そうに眉を下げていた。
(ヴァン様にお兄様たちとお姉様たちまで関心を持っているだなんて。ヴァン様はそれだけ関心を持たれている方で、ただの第三王女でしかない私がヴァン様を縛り付けてしまっている)
ナディアは、そんなことを考えてしまう。
その赤い瞳は、憂いに染まっていた。
(私は自分で思っているよりもずっと、ヴァン様の事を大切に思ってしまっているのね。ヴァン様が取られるのが嫌だってぐらいには)
そんな風に考えて、ナディアは何とも言えない気持ちになる。
ナディアが、第一王子であるレイアード、第二王子であるライナス、第一王女であるフェール、第二王女であるキリマの事をここまで不安に思ってしまうのは、ナディアが何も持っていないからである。
身分の低い寵妃が生んだ王女として、今までおとなしく目立たないように過ごしてきた。横のつながりもなく、自慢できるものなどない。
しかし、他の兄姉たちは違う。彼らは身分の高い母親を持ち、その身分に相応しく堂々と生きてきた。貴族とのつながりも強く、影響力も高い。
「ナディア様……? どうしたんですか?」
思わずぎゅっと拳を握ってしまっていたナディアに気づいたヴァンは心配そうに問いかけた。
「なんでもないですわ」
だけど、その問いにナディアはそれだけ答えた。ヴァンがほかの王子王女たちと交流を持って、そちらにいってしまったら嫌だなどという気持ちを口にすることは出来なかったのである。
ちなみにそんな会話をしている間、召喚獣たちはこそこそと二人の事を見ていた。
『主は鈍いな!』と、そんな言葉を発するのはフィアである。
『主様の初恋が上手くいくのは喜ばしい事です。我らは主様の初恋を見守ることとしましょう』と、そんな風に真面目に告げるのは《ブリザードタイガー》のザート。
『わたくしたちと主様が契約を結ぶきかっけとなった方ですから、是非結ばれて欲しいですわ』と《ファンシーモモンガ》のモモ。
今回はナディア以外の王族もいるということで、こそこそとしている召喚獣たちであった。
そんなこんなしているうちに、レイアードたちはやってきたらしい。ナディア付きの侍女たちが緊張した面立ちで礼を取る。
レイアード、ライナス、フェール、キリマの後ろにはそれぞれの傍仕えたちが存在していた。
この場にいる人の数はそれなりに多い。
「ディグ殿の弟子よ」
「は、はい」
席に着いたレイアードが声をかければ、ヴァンは返事を返す。
(ナディア様のお兄さんか…。うわぁ、緊張する)
そしてその内心は、相変わらずである。相手が王族であることよりも、ナディアの兄であることに対しての緊張の方が大きいらしい。
緊張した面立ちのヴァンの隣にいるナディアは、ヴァンを気にした様子である。
「楽にしてよい。今回は公な会合ではない」
「はい」
まずレイアードはそういった。ちなみにこの中ではもちろん、王太子であるレイアードが一番偉いので、他の王族たちは口を開かない。
プライドが誰よりも高いフェールも長兄を敬う心はあるのか、おとなしくしている。
レイアードはヴァンと言葉を交わしながらもヴァンの事を観察するようにまじまじと見つめる。
見た目は、何処にでもいる少年である。
何処にでもいる平民にしか見えない少年。
一目見ただけでは、《火炎の魔法師》の弟子だとはわからない。
召喚獣を大量に従えているという風にも見えない。
「私たちはただ貴方と話に来たのだ」
レイアードはただそういって、笑う。ヴァンを安心させるように穏やかな笑みを浮かべる。
正直レイアードとしてみれば、弟であるライナスはともかく、可愛い妹たち三人がこの場にいる事はなんとも言えない気持ちである。妹は可愛いものという認識のシスコンな王太子様は、妹三人がヴァンに関心を持っている事を不服に思っていた。
(――――私は認めない! まだフェールにも、キリマにも、ナディアにも恋愛ははやい! 私の可愛い妹たちはやらん!!)
と、そんな風に穏やかな笑みの下でシスコン魂を燃やしていた。そんな事実はきっとレイアードと親しくしている弟のライナスぐらいしか知らない。
ライナスはライナスで、ヴァンに対しては面白そうという興味でいっぱいだ。
フェールはヴァンに関心を持ちナディアから奪う気であるし、キリマはディグ様にお近づきになるためにと野心を燃やしていた。
そして、ナディアは、
(ヴァン様が、お兄様とお姉様たちの方にいってしまったらどうしよう)
と不安を感じているのだった。
―――王族たちと交流するヴァンについて 1
(それぞれの思惑が飛び交う中、それははじまるのです)
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