54.ヴァンに会いたいと告げる者たちについて 下

 「お父様、私をマラナラ様の弟子という方と会う場を設けてくださいませんか?

 聞けばお兄様方も彼と交流を深めることにしているという話ですから、私もその場に混ざってもよろしいですわよね?」



 フェールは決定事項だとでもいう風にそんな風に言い放った。


 この国の王相手で、なおかつ父親を相手にそのような口を利くフェールはさながら女王様のようである。

 シードル譲りの金色の瞳がまっすぐにシードルの事を見据えている。



「……お前も、ヴァンに会いたいというのか」



 シードルはそういって何とも言えない表情を浮かべている。つい先ほどレイアードとライナスがそのような事を言ってきた後のことなので、フェールまでもかというのがシードルの本音であった。


 そしてレイアードたちがヴァンと会うことが決定したのはつい先ほどだというのにそのことを把握しているフェールは流石としか言いようがない。



「ええ、私が会いたいのですわ。良いですわよね?」



 フェールがそんな風に決定事項だという風にシードルを見ているのは、シードルがなんだかんだで娘である自分に甘い事をよく理解しているからといえるだろう。



「……そう、だな」



 と、そんな風にシードルが口を開こうとしたとき、執務室がノックされた。



「お父様、キリマです。入ってもよろしいでしょうか?」



 来訪者は、第二王女であるキリマであった。



 シードルははて? と首をかしげる。今日はレイアード、ライナス、フェール、キリマと、ナディア以外の子供たちが全員執務室に訪れている。そんな不思議な日はそうはない。



 シードルが許可を出すとキリマが執務室の中へと入ってくる。



「あら、お姉様いらしたのですか?」



 礼儀正しくそう笑いかけるキリマは、正直身内しかいない時の様子を知っているものが見ればものすごい猫かぶり具合である。



「ええ。少しお父様にお願いがありましたのよ。貴方はどうしてここに?」


 フェールとキリマ。



 同腹の子であるわけでもなく、血のつながった姉妹とはいえ二人の間に大した交流はない。第一、側妃であるアンとキッコは互いに仲が良いわけでもなく、二人は時々しか会わない血のつながった姉妹としか互いの事を認識していなかった。



「私もお父様にお話があってきましたの。―――ディグ様の弟子の事で」



 と、そんな風にキリマが話し出すわけだから、シードルはそれはもう驚いた。



 本日珍しくもナディア以外の子供たちが執務室を訪れたかと思えば、そろいもそろってヴァンの事を口にするのだから当然だろう。



(……何故、あ奴はナディアだけではなく、俺の可愛い子供たちの関心を集めているのだ)



 そんな風にシードルは内心不機嫌であった。



「ヴァンについての話とは?」

「ナディアとディグ様の弟子様は親しくしているのでしょう? ディグ様の弟子を取り込みたいというのならばナディアではなく、私でも問題はないでしょう?」



 にっこりと、キリマはそういって微笑む。



 キリマがディグに恋愛感情を抱いているなどとそんなことを想像さえもしていないシードル(娘たちには恋愛は早いと思っている)は、その言葉にあまりヴァンに関心のなさそうであると思っていたキリマまでもが! と心の底からショックを受けていた。

 そんな親バカな王様の心境など知らないフェールとキリマは話し始める。



「あら、貴方もでしたの?」

「貴方もとは、お姉様も?」

「ええ。マラナラ様の弟子に私も興味がありますの。だから、お父様にお願いしていましたの」

「まぁ、お姉様だけずるいですわ。私もお会いしたいですわ」


 にこやかに会話を交わしながらも二人の内心は笑ってはいない。



 フェールは私が目をつけた存在にキリマまでもが目をつけているなんてと感じながらも、”私が興味がある”と口にして、自分のものにするといわんばかりの態度である。


 キリマはお姉様だけずるい! 私だってディグ様の弟子と仲良くしたいのに。お姉様もディグ様の弟子に興味があるだなんて、まさかディグ様を狙っているのではないか、といったそんな勘違いで慌てていた。

 二人とも王族というだけあって、本心を隠す事はお手の物であった。



「お父様、私もいいでしょう?」

「あーと……」

「お姉様とナディアはずるいわ。私だってディグ様の弟子と仲良くしたいのに」



 それだけ聞くとヴァンと親しくしたいように感じるが、彼女の内心はヴァンと仲良くなってディグとの距離を縮めるというそういうことを考えていた。



 最もそんな本心を知らないシードルは、キリマまでもがたぶらかされたとまたショックを受けていたわけであるが。



 しかし結局の所、キリマの「お願い」を断れず、それでいてレイアードとライナスも一緒なら問題はないだろうということでヴァンと会う許可を出してしまうのであった。




 ―――ヴァンに会いたいと告げる者たちについて 下

 (カインズ王国の王女様方はそれぞれの思惑の元、ヴァンに会いたいと願うのでした)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る