57.王族たちと交流するヴァンについて 3
「まぁ、ナディアはそれほど自信があるのね」
フェールは微笑みながら告げる。しかし目は笑っていない。
「自分の方がディグ様の弟子に相応しいと思っているの?」
キリマはそう告げながらも、色々と思案している。
ちなみに、この二人思っている事は全然違う。
フェールは欲しいものを全て手に入れてきた王女様であり、手に入れるのは当然と考えているのだ。そんなフェールが手に入れたいと望んでいる存在を、妹から渡さないといわれたのだ。プライドが刺激されるのは当たり前といえば当たり前だろう。
キリマはフェールほどプライドが高いわけではないので、そんなこと考えてはいない。ただ、ナディアがディグではなくその弟子であるヴァンにそれほど関心を持っているのか? と不思議に思って探りを入れようとしているだけである。
さて、王女三人がそんな風に会話を始めた中で男たちは蚊帳の外である。
(ナ、ナディアがフェールとキリマにつっかかっているだとっ)
そしてレイアードは、自分が知らないナディアの姿に何とも言えない心境である。まぁ、王太子という立場であるのもあって、そんな感情公には出さないが。
ナディアはヴァンに出会うまで、自分の立場をわきまえておとなしくしていたのだ。母親を亡くした自分よりも立場が上な二人の姉に意見をすることなく、おとなしく、ただ見た目だけの姫として生きていこうとしていた。
だけど、ヴァンに相応しくありたいとそんな風に望んでしまったから。だからこそ、ナディアは前を向く。前へと歩く。少しでも、前進していこうとしている。
「ヴァンよ」
「は、はい」
「お前は…」
レイアードは、三姉妹が口論を繰り広げている中で、ヴァンへと話しかけた。
何とも言い難い表情で、ヴァンを見ている。
「ナディアの、味方でいれるか? どんなことがあっても」
可愛い妹の周りをうろつく男――正直レイアードはそんなヴァンに対して良い感情はない。でも、父親であるカインズがナディアの傍に置くことを認め、ナディアからも信用されている。
だけど、だからといって簡単に認められるわけがないのである。シスコンなレイアードとしてみれば。
「当たり前です」
迷うことなく、発言をする。まだ十三歳という子供だというのに、その言葉には一切の迷いがなかった。
ヴァンにとってみればそれは迷うべきものでもなんでもない。ナディアの味方であることは当たり前の事である。そもそも周りからしてみれば信じられない事かもしれないが、ヴァンは本当にナディア以外どうでもいいのである。
「……それは、真実か」
「はい」
「ナディアを悲しませる事は許さない」
「そんなこと、死んでもしたくないです」
なんでこんな質問されているのかもよくわかっていないヴァンであるが、問いかけられるがままにこたえる。
「……口だけならば何とでもいえる。もし、お前が、ナディアを悲しませるなら私はお前を許さない。父上が許してもナディアの傍から突き放す」
レイアードはヴァンの事をよく知らない。信頼できるほどかかわっているわけではない。だからこその、そういう言葉。
「兄貴はひとまずナディアの隣にお前を置くことを認めるっていってるんだ。ま、兄貴に怒られないように頑張れよー」
「って、おい、ライナスっ」
崩した口調でヴァンに話しかけ始めたライナスに、レイアードが怒ったように声を上げる。
「怒るなよ、兄貴。ナディアがあれだけなついているんだぜ? それにマラナラが弟子にしたのだから信用は出来るだろ。
お前の事はヴァンって呼ぶな! 俺の事は公式な場以外なら、ライナス兄さんとでも呼んでいいぜ」
「って、おい」
義弟になっても面白そうなどと考えているライナスは、そんなことを言い出す。ライナスはナディアの事は大切な妹だと思っているが、レイアードのようにシスコンなわけでもなく、ヴァンの事を面白がっていて仕方ないのである。
そんなこんなで、男三人の会話は楽しげに続く。
ちなみにこうしている間に女性陣三人はといえば、
「ですから、ヴァン様はフェールお姉様とキリマお姉様のもとにはいかないといっていたでしょう?」
「お姉様に向かってなんて口のきき方かしら。ナディアは少し見ない間に生意気になったのではなくて? それにディグ・マラナラの弟子を一人で独占だなんていつからそんなに偉くなったのかしら?」
「どうしてナディアは良くて私はダメなのかしら?」
バチバチと火花を飛ばしていた。
ヴァンのためにと意見を言うナディア。
欲しいものは手に入れたいフェール。
ディグの弟子と仲良くしてあわよくばディグに近づきたいキリマ。
そんな三人が今回の交流の中で相容れる事はなかったのであった。
―--王族たちと交流するヴァンについて 3
(そんなわけで、ヴァンと王族たちとのはじめての交流の時間は過ぎていくのでした)
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