38.魔物退治の途中のイレギュラーについて
「爆せろ」
ヴァンはルフに跨って移動していた。巨大な《スカイウルフ》の上からあたりにいる魔物たちを魔法や剣で倒していく。ヴァンが一言発するだけで、魔法は発動され、それだけで活性期の魔物とはいえ、命を散らしていく。
そんなヴァンとルフを追いかけながらも獰猛な力をふるうのは《ルーンベア》のリリーである。鋭い爪で、一閃。小型化したままだというのに他を圧倒するのは、《ルーンベア》という召喚獣が、召喚獣の中でも上位の存在であるからといえるだろう。
そして、そんなヴァンたちの様子を見据えながら何とも言えない顔をしているのはクアンとギルガランである。二人も召喚獣をそれぞれ出しているが、ヴァンほどに圧倒的に戦えるわけではない。
クアンとギルガランは、ここまで圧倒的なヴァンを見て《火炎の魔法師》の弟子として相応しいと認めざるを得なかった。弟子になって三か月ほどしか経過していないものが、普通これだけ戦えるわけがないのだ。だが、ヴァンは倒せることが当たり前とばかりに、活性期の魔物を圧倒しているのだ。これで認めないとは言えなくなってしまう。
最初、ヴァンの事を知った時クアンとギルガランは自分たちが断られたのになぜこんな如何にも普通の一般人らしき人間が弟子として認められたのだ。自分たちの方がふさわしいと突っかかったわけだが、ヴァンは普通の一般人にしか見えないだけであって、中身は全然普通ではなかった。というのを、ようやく二人は理解していた。
『わー、ヴァン様凄い』
クアンの召喚獣である《ブラックスコーピオン》のアリがそんな声を上げる。
『ヴァン様つよーい』
ギンガランの召喚獣である《ファイヤータイガー》のヤヤもキラキラした目でヴァンを見ている。
クアンとギルガランは、自身の召喚獣たちと共に活性期の魔物たちをなんとか相手にしながら(ヴァンとフロノスが異常なだけで本来は王宮魔法師の弟子にとってなんとか戦えるレベルの相手である)、ヴァンの事をちらりと見る。
(アリがあいつはもっと怖いのと沢山契約しているといっていたが、あんなでかい《スカイウルフ》と、あの《ルーンベア》と契約しているなんて……)
と、クアンは思考していた。
実際にヴァンが召喚獣を召喚するのを見たのははじめてだった。ヴァンが召喚獣と共に活性期の魔物を相手に戦ったという噂は聞いていたが、実際どういう風なのかよくわかっていなかったのだ。噂で聞くのと、目で見るのでは感じ方が全然違う。
間近でヴァンが召喚獣たちと共に戦う様を見て、余計にヴァンの異常性が理解できた。
こいつは色々ぶっ飛んでいると、
とはいっても、クアンとギルガランも王宮魔法師の弟子になれるだけの人材ではある。ヴァンとフロノスが《火炎の魔法師》ディグ・マラナラの弟子であり、そのために色々と普通から外れているだけであって、一般人から見てみればクアンやギルガランの年で魔法を使え、召喚獣を従えていることは驚くべきことなのである。
少しぎりぎりな所もあるけれども、召喚獣たちと共に確かに活性期の魔物相手に戦っていけている。それだけでも王宮魔法師の弟子として上出来である。王宮魔法師の弟子の中にも、一人では活性期の魔物相手に立ち向かえないものももちろん多くいる。寧ろ、そういう存在の方が多いといえるだろう。
そんな中で、ここにいる三人は(特にヴァン)はそれなりにとびぬけているといえるだろう。
そうしてヴァン、クアン、ギルガランは活性期の魔物相手に戦っていく。
時折不安な場面もあっただろうが、召喚獣たちの力を借りながらも概ね順調に活性期の魔物相手に戦っていく。
次々に魔物を狩っていき、もう少ししたら一旦切り上げるかという話を三人でしていた頃、何処からか悲鳴が聞こえてきた。
「今の、声」
「悲鳴だな」
「行くか」
短時間とはいえ、ともに戦ってきたというのもあって三人の間には前よりも信頼感が芽生えているように心なしか感じられた。
三人はそんな風に会話を交わすと悲鳴の聞こえた方へとかけていく。三人とも急いでいるのもあって召喚獣の上へと跨って、一気に駆け抜けていく。
近づけば、ドスドスという何かが移動するような足音と、それと対峙しているであろう人々の逃げ惑う声、音が聞こえてきた。
そして、三メートル以上もある森林よりも高い位置に、それの角が見られた。
悲鳴のしたほうへと近づいた先に、彼らが見たのは、
「ドラゴン!?」
「……小さいとはいえ、これは」
「それより助けなきゃだろ」
そう、ドラゴンだった。
赤い鱗に覆われた真っ赤なドラゴン。それは《レッドドラゴン》と呼ばれる召喚獣が魔物化したものであるといえた。それに加えて活性期だという事もあって、黒い霧にその魔物は覆われていた。
――――魔物退治の途中のイレギュラーについて
(ガラス職人の息子は、魔物退治中にドラゴンに遭遇しました)
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