37.パーティーのはじまりについて

「ナディア様だ」

「珍しいですわね」

「相変わらず愛らしいですわ」



 ナディアがパーティーの会場である大広間へと顔を出すと、一斉にナディアへと視線が集まった。



 それも無理もない話であった。今までほとんどパーティーへと姿を現さなかった第三王女ナディア・カインズがそれはもう久しぶりにパーティーに顔を出したのだから。


 ナディアがほとんど表に出てこないのもあって、ナディアの事を見るのもはじめてという貴族たちも少なからず存在する。そういう者たちは、あれが美しいと噂される第三王女かとナディアに視線を向けていた。

 ほとんど表に出ないとはいえ、ナディアは仮にも王族である。故に人から視線を向けられることは慣れているほうであろう。でもこうして一斉に視線を向けられると何とも言えない気分になるものだ。



(でも召喚獣たちについては言及はされてないってことはうまく隠れててくれてるんですわね。私もレイ以外は何処にいるかわかりませんが)



 つい先ほどレイが『じゃあ、俺様たちはナディア様の事を守るから一旦姿消すぜ!』といって、三匹の姿を消してしまったのだ。それでレイは、一番ナディアを守れる位置にということで実はナディアの肩にのっていたりする。ナディアとしてみればそこに確かに何かが居るような感覚があるのに、姿が見えない事に対して違和感があるが、ヴァンの召喚獣が守ってくれるのだと思えば久しぶりのパーティーも乗り切れる気がした。



 まずは主催者であるシードル・カインズ国王陛下とマラサ・カインズ王妃殿下の前へと挨拶をする。



 シードルは愛娘の着飾った姿にほぉと声をあげ、マラサもまた自分が生んだわけではないとはいえ夫の娘であるナディアがきちんとした作法で挨拶をしたことに対して満足そうに頷く。



 マラサ・カインズは美しい人だ。強烈な赤い髪をなびかせ、優しく微笑んでいる。一見するとこの大国であるカインズ王国の王妃なのかと疑うほどに穏やかで、のほほんとした雰囲気を醸し出しているが、一度敵に回せばその恐ろしさはよくわかる――そういう人である。ナディアもこの王宮に住んでいる中で、マラサ・カインズ王妃殿下には良くしてもらっているからというだけではなく、その性格を知っているため、余計に敵に回したくないと思っていた。



 挨拶を終えたナディアの元にはパーティーに参加した多くのものたちが接触をしてきた。ナディアの美しさに見ほれるもの、シードルよりも年上であろうに十歳のナディアをいやらしい目で見ているもの、好奇心で近づいてくるもの、様々だ。

 その中には、側妃たちの手のものももちろんいた。彼らはナディアに恥をかかせたかったのだろう、ナディアを貶めようと声をかけてきたものだが、そのたくらみはナディア自身によって粉砕された。


 悔しそうに目の前から消えていく者たちを見ながら、


(私は確かにあまりパーティーにも出ていませんでしたけれど、仮にも王族として教育を受けているっていうのになめすぎですわ)


 そんなことを考えていた。



 そもそも王族であるナディアにそういうことを仕掛ける時点で色々とアレである。まぁ、ナディアは王族といっても母親は侍女であったし、実家の権力というものはない。父であるシードル・カインズが目をかけてくれていなければとっくに殺されていたかもしれないような微妙な立場なのである。



 ナディアに仕掛けてきた貴族たちは権力者である側妃たちが率先して命令していることだからということで悪気なしに行っていることだろう。

 それを思うとやっぱりパーティーは面倒だとナディアはため息を吐きそうになる。



 だけど、


(私はヴァン様に守られるに相応しい人になろうと決めたんだもの。だから、パーティーぐらいきちんと乗り切らなきゃ。見た目だけいいなんて評価に甘んじてたらダメだもん)


 と、そんな思いから溜息なんて吐かず笑顔を顔に張り付けていた。




 そんな風にパーティーを過ごしていたら、


 「ナディア」

 「久しぶりだな」


 そういう風に声をかけてきた二人組がいた。




 何を隠そうその二人組、ナディアの兄である王太子レイアード・カインズと第二王子であるライナス・カインズであった。



 二人ともナディア同様、その見た目といったら美しいの一言に尽きる。

 第一王子であるレイアード・カインズは、王妃譲りの目に焼き付くような赤い髪を持っている。目の色も、同様だ。年は十七歳。身長は190センチ近くである。

 第二王子であるライナス・カインズは、国王譲りの金色の髪と青い目を持つ。優しい雰囲気のレイアードとは違って、少しとっつきにくいイメージがある。年は十六歳。身長はレイアードより少しだけ低いぐらいだろうか。



 そんな二人の事を十歳のナディアはもちろんのこと見上げる形になっていた。



「はい。お久しぶりです。レイアードお兄様、ライナスお兄様」



 ナディアはこの二人の兄の事が好きだった。たまにしか会えないけれどもそれでも自分の事を可愛がってくれていることは知っていたから。だからこそ、ナディアは満面の笑みを浮かべた。

 三人の王族たちのことをちらちら見ていた貴族たちは、その笑みにほぉと息を吐いた。嬉しそうに笑う姿は年相応で、その笑みがそれだけ魅力的だったからだ。

 そうして三人の王族の会話ははじまっていく。




 ―――パーティーのはじまりについて

 (さぁ、パーティーははじまった)

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