15.ガラス職人の息子と英雄の弟子について

 「貴方がディグ様の見つけてきた方ですか」



 ディグが国王と会話を交わしている時、ディグ・マラナラの研究室には二人の人物がいた。



 一人は灰色の髪を腰まで伸ばした少女、フロノス・マラナラ。

 もう一人はどこにでもいそうな平凡な見た目を持つ少年、ヴァンである。


 フロノスは興味深そうに、目の前にいる少年の事を見ていた。


 ディグ・マラナラの召喚獣であるシロがナディアの周りに大量の召喚獣が存在すると告げた時、フロノスもその場にいた。だからナディアの周りの召喚獣の主をディグが探していたことは知っていた。



 しかし―――、


(まさか、大量の召喚獣を従えているのが私よりも年下の男の子だなんて)


 と、フロノスは驚きを隠せなかった。





 フロノス・マラナラは、その所持魔力の多さと将来性を買われてディグ・マラナラの弟子となりえた。『王国最強の魔法師』の弟子として、そのことを誇りに思い、その弟子としてふさわしいために努力を続けてきたつもりだった。

 しかし、そんなフロノスでさえ、召喚獣を呼び出し、契約を果たすことはしていない。



 それには、師であるディグが許可を出していない。

 召喚獣との契約は危険を伴う。呼び出した召喚獣が牙をむく可能性だってあるのだから、一人前と認められなければ呼び出しは許可できない。

 フロノスは召喚獣と契約をすることに憧れていた。それは、ディグを見てきたからだ。召喚獣と確かな絆を結び、ともに戦う師の姿を確かに見ていたからだ。





「見つけてきたっていうか、捕まったっていうか……」



 気まずそうに視線をさまよわせて、ヴァンは告げた。



 そう、捕まったというのがヴァンの状況を説明するのに一番の言葉であろう。捕まるつもりはなかったというのに、あっさり捕まってしまった。ヴァンがもう少し戦闘経験でもあればあれほどあっさりと捕まることはなかっただろうが、いくら才能があろうともヴァンはあくまで平凡に人生を生きている平民であった。



「その二体は貴方の召喚獣なのでしょう? ディグ様は貴方が大量の召喚獣を従えているといっていましたが、何匹なのでしょうか」




 三匹も召喚獣を従えているディグが、大量というのだからそれなりに従えていることはわかる。ディグよりも多くの召喚獣を目の前の少年が、従えている。その事実に、戦慄する。恐ろしいとさえ、フロノスは感じていた。


『主様が従えているのは俺ら含めて二十匹だぜ!』

『うふふ、ご主人様は凄いのよぉ』




 なぜか、フロノスの問いに自信満々に答えたのはフィアとオランであった。



 その言葉にフロノスは、「え」と大きな声を上げる。なぜなら、二十匹も召喚獣を従えている存在なんて、過去の歴史上を見てもいない。

 召喚獣を従えるのは難しい。そして召喚獣と絆を結ぶことも難しい。第一契約をしているとはいっても、召喚獣側が契約者を見限ることがないわけではない。でも、目の前でにこやかに声を響かせている召喚獣二匹は確かにヴァンの事を認めているのだろう、というのがフロノスにも見て取れた。

 認めて望んで、契約している。そして、従っている。それも、二十匹も。



 一言でいえば、異常。



 魔法師としての訓練なども何も受けずに、普通の平民として生きていた少年だとディグは早口で説明をして、どこかにいってしまった。

 だというのに、二十匹も従えている。

 それでいてディグの話が確かなら、この目の前の少年は魔法にも長けている――――それを思うだけでどうしようもないほどの、怯えが心を支配していくのがフロノスにはわかった。



 才能が溢れる者が、ディグの弟子になること。

 それは良い。弟弟子ができることに関しても、別に問題はない。

 だけれども、これだけ異常な存在を目の前にしてみると恐ろしいと感じた。二十匹も召喚獣を従えているというのならば、やろうと思えばどんなことでもできるといっても過言ではない。

 召喚獣が一匹存在するだけでも大きな影響力があるのだ。



「フロノスさん、どうしたの?」

「……なんでもないわ。それよりもどうやって二十匹も召喚獣を従えているの?」

「どうやってって適当に」



 などと軽く言っているヴァンであるのだが、やはり二十匹も制御しているのは色々おかしい。一匹の召喚獣との契約を維持するのだけでも大変という話を聞くのに、二十匹も契約しておきながらも適当だなんて、おかしい。



『主様、面白いからなぁ』

『ご主人様、飽きませんもの』



 その場にいる二匹の召喚獣―――《ファイアーバード》と《レッドスコーピオン》は声を上げる。


 面白いと、飽きないと。

 それが一番の理由なのだろう。これほどまでに異常だからこそ、召喚獣たちはヴァンを主として認めている。



「そう、ですか。とりあえずディグ様が戻ってくるまでの間、ディグ様の弟子としての必要事項、気を付けるべき点などを話しておきましょう」



 異常性を見せつけられ続けるともっとどうしようもなく目の前の存在に戦慄してしまいそうで、フロノスは話を切り替えた。

 『王国最強の魔法師』、『火炎の魔法師』、そう呼ばれる存在の弟子になるということについて姉弟子として教えておこうと思ったのだ。



 いくら恐ろしいと思ったとしてもこれからともに過ごすディグの弟子同士なのは変わらないのだからとなんだかんだでヴァンの面倒を見ようとするフロノスであった。


 そしてそれからディグが戻ってくるまでの間、フロノスはヴァンに様々な事を語るのであった。




 ―――ガラス職人の息子と英雄の弟子について

 (ガラス職人の息子の事を英雄の弟子は戦慄した目で見ている。それは、彼があまりにも異常だから)

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