14.王国最強の英雄とカインズ王国の国王の会話について。
「陛下、報告したいことがあるのですが人払いを頼んでもよろしいでしょうか」
ヴァンの事を弟子として引き取り、いきなりの弟子に驚くフロノスに「お前の弟弟子になる」といって預けた後、ディグ・マラナラはその足で本宮へと向かった。
何のためにと問われれば、恐れ多くもこのカインズ王国の国王陛下に面会を求めてである。ディグ・マラナラは、この王国においての英雄であり、最強の魔法師である。
この国の王、シードル・カインズとの面会もすぐにまかり通った。
英雄は、王からの信頼を得ている。いや、王からだけではない、この国の重臣たちほとんどのと言える。とはいっても中にはディグの事をよく思わないものもいるが、それを公言するものはまずいない。
「では、お前たち、少し席を外してもらえるか」
シードル・カインズは美しい男だった。その髪色は、ナディアと同じ金色だ。今年三十八歳になる彼は、まだ若々しい王である。
王の言葉に、周りに控えていたものたちはそれに従い、出ていく。
国王と英雄以外、誰もいなくなった場所で王は口を開いた。
「して、わざわざ人払いをしてまで話したいこととはなんだ、ディグ」
「実はですね、俺この度弟子をとりました。その弟子が、色々と規格外ですのでシードル様に伝えておこうと思いまして」
二人っきりだからか知らないが、ディグの態度はなれなれしいものだ。近くに人がいたら無礼とでも言われそうな物言いだが、王は特に気にしていない。
ディグ・マラナラとはそういう人物だと知っているからだ。
「規格外? それに弟子をとったという話は聞いていないのだが」
王は椅子に腰かけたまま、驚いた表情ディグを見る。
「ああ、俺自身もとる予定はなかったのですが、最近気にしていた面白い存在が捕まったので弟子にしました」
「は? どういうことだ?」
「実はですね、シードル様、貴方様の娘であるナディア様の周りに大量の召喚獣がいることに先日俺は気づいたんです」
「は?」
『娘の周りに大量の召喚獣がいる』などという非現実的な話を聞かされたシードルは素っ頓狂な声を上げた。
仮にも国王であるのだから、どういう事を言われようと平然を保つべきであろうが流石に驚かずにいられない話であった。この場にいるのがディグだけだというのもあって、少し気を抜いているのもある。
それにしても、王にこれほど驚かれる事をやらかしておきながらも自称平凡な一般人であったヴァンはやっぱり色々おかしい存在であった。
「どうやら王宮魔法師に気づかれないように召喚獣を忍び込ませていた存在がいたようで」
「なんだと!? そんな者が…。それもナディアの周りに召喚獣を忍び込ませていたなどと、ナディアは大丈夫なのか?」
王宮に許可なく召喚獣を忍び込ませている、という話を聞いてシードルが真っ先に案じたのはナディアの身である。普通、王宮に召喚獣を忍び込ませるときいて思い浮かべるのはシードル自身に牙をむこうとしている存在とか、国を乱そうとしている存在とかである。
そんな王の焦りの見える態度に、ディグはヴァンの事を思い浮かべてくつくつと笑った。
「それがですね、その忍び込ませた存在―――俺が弟子にした子供なんですけど」
「子供!?」
「はい。まだ僅か十二歳。王都に住むガラス職人の息子で、召喚獣を従え魔法を行使しながら自分を平凡な平民などと勘違いしている面白い子供です」
口にしながらも笑みがこぼれる。
(召喚獣を数えきれないほど従え、魔法を行使する。そんな存在が平凡なわけないのになぁ)
とそんな思いにかられながら。
「しかもあいつ、俺が見つけなければガラス職人を継いで平凡に生きるつもりだったようで、あんな色々おかしい存在他国にやるわけにもいきませんし俺が弟子にしました」
「そう、だの。本当にそんな子供がいるのかと信じられないが……」
愕然として王は、ディグに告げる。それもそうである。一見してみなければヴァンという規格外な存在が実在するなどと信じられないのも無理はない。
ディグ自身も実際に見つけることがなく、人づてにヴァンの存在を聞くだけだったならばとてもじゃないけれども信じられなかったかもしれない。
「独学で召喚獣を従え魔法を行使する――っていうのですから俺以上に才能はあるでしょう。そもそも規格外の存在でなければ王宮魔法師の目をかいくぐって王宮に召喚獣を忍び込ませるなんて真似はできませんから」
そう語るディグは相変わらず面白いおもちゃを見つけた子供のように楽しそうだ。
「それで、そいつがどうしてナディア様のもとに召喚獣を放っていたかといえば、ナディア様に惚れているかららしいです」
「なんだ、それは」
「惚れた女の子が王族だからと大変な目にあっているのが嫌で守るために忍び込ませていたらしいですよ、驚くことに」
普通に考えて王宮に忍び込むだけの技量があるのならばもっと大それた事をやろうと思うものであろうが、ヴァンにはそういう考えは一切なかったらしい。ただナディアの事を守りたくて、ナディアの様子を知りたくて。ただそれだけのためだけに王宮に召喚獣を忍び込ませていたというのだから驚くべきことだ。
「それは……」
王はなんとも言い難い表情を浮かべていた。
「俺が言いたいことは、あいつは将来的に見て俺以上に活躍すると思うので、あの規格外をこの国にとどめるためにはナディア様をあげるのが手っ取り早いと思うんですよね。そもそもあいつナディア様が他国に嫁ぐとかなったらついていきそうですし」
ヴァンという規格外で、天才的な存在を他国にやるべきではないとディグは思っている。敵に回ったらひどく厄介な存在になるだろうという思いからそう進言したのである。
「そこまでか。ディグがそこまでいうほどなのか」
「はい。俺がそこまでいうほど異常です。そもそも平民でありながら召喚獣を従えている時点でおかしいですからね。しかも、複数。そんな存在は他国にやるべきではありません」
そう考えれば一番良い方法はナディアをヴァンに与えることだとディグは考えた。そうすればナディアのいるこの国を敵に回すことはしないだろうと。
「……考えておこう」
「お願いします。近いうちにそいつをこちらに連れて挨拶に来ますね」
「ああ」
二人の会話はそうして終わった。
―――王国最強の英雄とカインズ王国の国王の会話について
(ガラス職人の息子の知らないところで話は進んでいる)
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