第122話



特別編成部隊の元に戻るため、ボロボロの屋敷内を歩いているのだが…。



魔王の死体と黒服と赤服の魔族の胴体を鞭で縛って持ってる右腕には「リキ様♪リキ様♪」とさっきから甘ったるい声で名前を連呼してくるヒトミが絡みついていて、黒服の魔族の頭部を持ってる左手首はなぜかアリアが掴んでいるから歩きづらい。


というか子守をしてる気分になるな。


ヒトミが俺の右腕を抱いてるせいで死体は引きずってしまってるが、まぁ証拠品としてだから足くらいなら取れても問題ないだろう。


というかヒトミってこんなキャラだったか?



…ん?そういやなんでこいつ喋ってんだ?



「おい、ヒトミ。なんで喋ってんだ?」


「それはね♪リキ様のおかげで魔族になれたからだよ♪」




…は?




そういや進化許可申請がきてたな。

何も考えずに許可したけど。


ヒトミのステータスを見ると確かに魔族になってる。

種族はドッペルゲンガーでこいつも性別はないのか。

なのになんで女みたいなんだ?

いや、男みたいな状態でこんな真似してきてたら気持ち悪すぎるけどな。


でもドッペルゲンガーってことは見た目は男にも女にもなれるってことか?

確か自分のそっくりさんってやつだよな?まぁ日本にいた時の情報だから当てにはならんが。



「ドッペルゲンガーって何ができるんだ?」


「いろんな人になれるよ♪」


いうが早いか、ヒトミは俺とそっくりになった。


もう1人の俺に腕を組まれている状態に鳥肌が立った。

男に腕を組まれるとか気持ち悪すぎる。


「やめろ!」


すると今度はイーラになった。

いや、完全な黒髪に黒目。小さいときの歩だ。


「ごめんね、お兄ちゃん♪」


心臓が握りつぶされるような錯覚がした。


「普段は元の姿でいろ。じゃないとヒトミだとわからなくて討伐しかねない。」


ビクッとしたヒトミは元の姿へと戻った。


「あと腕を離せ。」


ヒトミは目に涙を溜めて、俺の腕から離れてシュンとしてしまった。

アリアもそれと同時に手を離した。


べつに怒ったわけじゃねぇけど、勘違いさせちまったか?


「べつに怒ったわけじゃねぇんだ。ただ、今の姿にはもうならないでくれ。もう会えない妹にそっくり過ぎて反応に困るからな。」


イーラのように似ているだけならいいが、さっきのは年齢以外はそのまんまだった。

それはさすがにキツい。


もう会えないと腹をくくったつもりだったんだけどな。



「…ごめんなさい。」


「謝ることじゃない。そのスキルは有用だ。今後に期待してるからな。」


「はい!」




屋敷から出ると特別編成部隊の隊員が俺の両手の荷物を見て「ヒィッ!」と短い悲鳴をあげた。


騎士ならこのくらいは見慣れてんだろ。


「魔王とその側近2体だ。倒した証明としては十分だろ?だから帰ろうか。」


さっさと帰ろうとドライガーに乗ろうと思ったが、3体持ったまま乗るのは難しそうだな。


仲間を見ると、意図を察したであろうアリアとセリナは目を逸らしやがった。


ウサギはそもそも片腕しかないからダメだろう。


そしたら消去法でヒトミとサーシャか。


「ヒトミとサーシャはこれを一体ずつ持ってくれないか?」


「「はい。」」


返事を聞いて黒服と赤服の胴体を放り投げると、2人は嫌がることなくキャッチした。


魔王の死体と黒服の頭部くらいなら大丈夫だろう。


さて、やっと戻れるな。






ドライガーの全速力で戻ると、村の近くに大量の死体が転がっていた。

いや、呻き声を上げてるから生きてるのか?


それらを避けて村に向かうと、イーラが手を振っていた。


「リキ様。おかえり〜。」


「これはなんだ?」


転がっている手足のない人間?を見て、イーラに確認を取った。



「それはね〜。なんか大量にいた魔族や魔物の中に人間が混ざってたの。リキ様に遠慮しなくていいっていわれたけど、人間も食べていいのかわからなかったから、とりあえず動けないように手足だけ取っておいたんだよ〜。」


マジか…。

まぁ生きてるだけいいのか?むしろ楽に殺してあげた方が良かったんじゃないのか?


「頼む!彼らに治癒魔法をかけてやってくれ!」


特別編成部隊の隊長らしき女が俺の袖を掴んで懇願してきた。


「なぜ?俺が受けた依頼は魔王の討伐だ。こいつらは魔王軍として攻めてきたんだろ?なら討伐することはあっても助ける義務はないと思うが?それにこいつらは出血がないからまだすぐに死にはしないだろ。だから俺らが助ける必要性はない。それでも助けて欲しいなら依頼しろ。」


「これが魔王の死体?ありがとう!」


俺が特別編成部隊と話していると、イーラは俺らが持っている死体をお土産だと勘違いしたのか、止める間もなく3体ともペロリと食べやがった。



「…は?」



「…え?」


空間が静寂に包まれた。



さすがにこの空気はイーラですら読めたのだろう。


「ごめんなさい…。」


気まずそうにモジモジとして、謝罪してきた。

まぁ特別編成部隊は確認してるからいいか。

食べたものを吐き出せとかいえばできそうだけど、なんか嫌だし。


そうすると、特別編成部隊に悪い印象ばかり与えてると、証言しないとかほざきそうだな。


そしたら報酬の金貨30枚が出るかわからない。


脅したりなんかしたら余計面倒になりそうだし…。


「まぁ食っちまったもんはいい。今度は気をつけてくれ。それでこいつらの手足は?」


俺が小声で確認を取ると、イーラも小声で答えた。


「くっつけられるように保存してあるよ〜。でも、どれが誰のかはわからなくなっちゃったけどね。」


イーラがテヘッという顔をした。


まぁアリアがなんとかしてくれるだろう。

だがさすがに無償でやるつもりはない。


「隊長さん。気が変わったから無償で回復魔法をかけてやる。ただ、そうすると全員手足がない状態で傷口が塞がるだけだがいいのか?手足もついた状態で完治させてやることもできるが、それはさすがに無償ではできない。俺らはそこまでのお人好しではないからな。どうする?」


「それならとりあえずの応急処置を頼みたい。手足は町に帰って、神官を連れてきてから治してもらう。」


神官だと塞がった傷口に手足を生やせられるのか?

それならアリアの古傷とかも神官なら治せるってことか?


「…隊長さんは多分治癒魔法をよく知らないのだと思います。一度傷が塞がってしまうと、体はそれが正しい状態と認識してしまうので、改めて手足を付けるのは困難だと思います。ただ、それをできてしまう神官がいるという可能性を否定は出来ませんが。」


疑問に思ったことをアリアが小声で教えてくれた。


「そうか。それはさぞ凄い神官がいるんだな。普通は一度塞がった傷口に手足を生やすのはできないからな。じゃあ要望通り傷口を塞ぐとするか。」


俺の返答を聞いた隊長が驚愕の顔を向けた。


「待ってくれ!どういうことだ?」


「ん?治癒魔法使いの常識では一度塞がった傷口に後から手足なんかを付けるなんてできないが、お前はそれができる神官を知ってるんだろ?だから俺は要望通り傷口を無償で塞いでやるといったんだ。何かおかしいか?」


正確にはできないではなく難しいだと思うが、まぁほぼ出来ないことだから嘘ではないか。


「もし、手足を付けてくれといったらいくらかかる?」


「まぁ本当なら俺の仲間に敵意を向けた奴らだから殺すべきなんだろうけど、洗脳されてたってのを差し引いて、仕方ないから金貨30枚で助けてやる。」


「そんな金はない!」


「ならこのまま神官を呼んで助けてもらえ。どうせまだ死にはしない。なんなら死なないように生命力を上げる魔法くらいは無償でかけてやってもいい。でも、この国の神官が手足を生やす魔法を使えるとは思えないがな。」


そもそも今まで神官ってジョブのやつにすらあったことねぇけどな。


ちょっと心配になったからアリアを見た。


「…国の神官を全員集めれば1人2人ならできるかもしれませんが、しかしとても多くのMPを消費するので、1日ではここにいる半数すら無理でしょう。アイテムの使用にも限界がありますから。そして、日が経つごとに自然と傷口は塞がってしまうので、全員の腕を生やすのは無理だと思います。」


傷口さえ塞がってなければMPしだいで生やすことは可能なのかよ。さすがファンタジーだな。


隊長は凄く迷っているようだ。

ない金は払えないが仲間は助けたいと。


仲間思いなのは嫌いじゃない。


「まぁ払えないものはどう足掻いても払えないよな。なら、俺が魔王を倒したことを証言すると約束するなら、お前ら1人金貨2枚の計12枚で引き受けてやる。魔王の死体がなくなっちまったから、倒したことを証言できるのはあんたらだけだからな。でもこれは当たり前にすることだ。それがあんたらの仕事なんだからな。それをするだけで金額が半額以下になるんだ。お得だろ?どうする?ただ、俺は約束は守る主義だし、守らせる人間だ。何をしてでもな。それを理解したうえで決めてくれ。」


「…お願いします。」


なんでそんな悔しそうな顔をするんだ?

本来やらなくていいことをやってやるっていうのによ。


前払いだというと、渋々といった感じで金貨12枚を渡してきた。

なんで助けてやるってのに俺が悪者みたいになってるんだろうな。


金貨10枚はアイテムボックスにしまい、残りは一枚ずつアリアとイーラに渡した。


「いいの!?」


「…いいのですか?」


「正しい判断をイーラがして、それをアリアが治すんだからな。これは2人の報酬だ。」


なら6枚ずつ渡せよって話だが、俺の交渉あってのことだし、俺は主だからな。

決して脅したとか詐欺ってるなんてことはない。



「…それでは見られると厄介なので、特別編成部隊の方には寝ていてもらいます。」


「え?」


『ヒプノティック』


疑問を持った顔をした隊長を無視してアリアが魔法を発動させると、特別編成部隊全員がその場に倒れた。

どうやら眠ったようだ。


「…それではイーラ。手足を出してください。」


「は〜い。」






それからはジグソーパズルでもするかのように手足と胴体を組み合わせて、一致したら魔法でくっつける作業を繰り返した。


単純作業なんだが、やってることがグロいから気持ち悪くなる。


イーラが傷口を分裂させた体で薄く覆っていたから、出血はなく、生臭くなかったのだけが救いだ。

出血がないからこいつらは生きてるんだろうしな。


さすがに数が多くて時間がかかった。

魔王の討伐の倍以上かかったかもな。


昼過ぎに村に戻るってガキどもにいった気がするが、もう夕方じゃねえか。

まぁ確かにここまで戻って来たのは昼頃だったけどさ。



全員のくっつけ作業が終わり、特別編成部隊のやつらを起こした。


治療を終えたやつらはまだ体力が戻ってなくて寝てるけど、もう完治してるから心配はないはずだ。


てきとうに村の中に放り投げといて後で回収にくればいいんじゃね?と提案しておいた。



それにしても腹減った。

朝から携行食しか食ってないからな。


でも今は肉を食いたい気分ではないんだよな。


まぁ、先に報告して報酬もらって戻って来たら肉を食えるようになってるだろう。

だからとりあえず俺も町に向かうか。


ガキどもには一言いっておこうかと思ったが、面倒だからそのまま待っててもらおう。



寝てる騎士達を村の端に寝かせて、特別編成部隊とともに町に帰還した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る