第120話



明朝…といってもまだ日も昇ってない時間だが、俺たちは準備を整えて宿屋を出た。



待ち合わせの南西門に向かうためだ。



イーラには念のため残らせているが、魔王を倒せば魔王軍の魅了はとけるらしいから、操られていたやつは戦いをやめるだろうし、操られてないやつは勇者たちがなんとかするだろう。だから本当に念のためであって、イーラには悪いが戦うことはないかもな。



村の出口に向かう途中、道端で寝てるガキと目があった。


すぐに目を逸らしたが、ガキはずっとこっちを見てるっぽいな。


なんだろう…嫌な予感がする。


「急ぐぞ。」


アリアたちに声をかけて走ろうとしたときに何かに足を掴まれた。


振りほどく前に確認するとさっき目があったガキが足に絡みついてやがった。

俺には軽量の加護があるからこのまま走ることも出来なくはないが…。



「お兄ちゃん行っちゃうの?」


「あ?まぁこれからちょっと魔王を倒しに行ってくる。」


ガキが信じられないものを見る目を向けてきた。昨日のサーシャを思い出す顔だな。


「ダメだよ!死んじゃう!ヤダ!行かないで!」


ガキが俺の足を抱きしめる力が増した。といっても所詮はガキだから痛くもかゆくもないが。


「大丈夫だ。お前らの護衛として俺の仲間を1人残してる。だから安心して寝てろ。」


「…リキ様。たぶんその子はリキ様の心配をしているのだと思います。」


「そうなのか?」


「だって魔王はクルンシェル様でも倒せなかったんだよ。勇者様でもなきゃ勝てないよ。」


ガキが泣き始めてしまった。

泣き声がデカいから周りのガキどもまで目を覚まして、何事かと近づいてきた。


「クルンシェルって誰だ?」


「…魔王の進行により亡くなられた、クローノストの辺境伯様です。」


何度か話に上がってた人か。

その人の強さを知らないが、勇者様が戦えないから呼ばれたんだけどな。


「大丈夫だ。少なくとも俺はアラフミナの勇者よりは強い。だから気にすんな。戻ったらまた飯を食わしてやるからよ。」


「え?お兄ちゃんどっか行っちゃうの?」

「どこ行くの?置いてかないで!」

「ヤダ!ヤダ!ヤダ!ヤダ!」



今度は違うガキどもが騒ぎ出しやがった。しかも体をよじ登ってくるやつが何人かいやがる…ウゼェ。


「…そこに並べ。」


低い声で子どもにいうと、子どもは泣くのも叫ぶのもやめて、ゆっくりと俺から離れて並んだ。


昨日の躾がここで役に立つとはな。


「いいか。よく聞けよ?俺はこれからすぐそこまで攻めてきてる魔王を倒しに行く。」


「でも「黙れ。」」


途中で話そうとしたガキに一喝するとガキが泣きそうになったが、どうにか我慢しているようだ。


「俺は魔王を倒すためだけに雇われてきた冒険者だ。だから魔王を倒したらアラフミナに帰る。」


ガキどもが目にためてた涙を流して、鼻をすすり始めた。


「ただ、俺は冒険者であり、実は村長でもある。だから希望者は俺の村に住んでもかまわない。ただし、俺の村には働かないやつはいらない。子どもだろうと仕事はしてもらう。それにここからアラフミナまでは4日以上旅をすることになる。だが俺は奴隷以外と旅をするつもりはない。だから、ついてきたいやつには奴隷になってもらう。この2つの条件を飲めるやつだけ連れて行く。まぁ魔王を倒して戻ってくるのは昼過ぎになるだろうから、それまでによく考えておけ。いいか?」


子どもたちはコクリと頷いた。


「じゃあまた後でな。あと、昨日いた俺の仲間の黒と青の髪の女の子のいうことはちゃんと聞くんだぞ。死にたくなければな。」


ガキどもの反応は見ずにひらひらと手を振って村を後にした。






「やぁ。よく眠れたかい?」


南西門に着くと、まだ日が昇っていないにもかかわらず、複数の人々がいた。その内の1人、昨日会議にいた男が話しかけてきた。


「まぁな。お前が特別編成部隊なのか?」


「違うよ。残念ながら僕が持ってる魅了耐性のアイテムじゃダメみたいでね、参加できないんだ。」


魅了耐性の加護にも強さがあるのか?


「じゃあなんでここにいる?」


「そりゃあ君への挨拶だよ。会うのがこれで最後になっちゃうかもしれないからね。それと、少しでも生き残る可能性を上げるために僕のパーティーから戦力を貸し出そうかと思ってね。」


縁起でもねぇことをいうやつだな。

というかこいつとはあんまり関わりたくねぇんだよな。


「いらねぇよ。魅了に対抗できないんなら邪魔なだけじゃねぇか。」


「やっぱり君は正直でいいね。それに僕は対抗できないけど、彼女なら対抗できるし、強いから役には立てるはずだよ。」


男が俺と同い年くらいの女の背中を押して前に出した。

あからさまに嫌そうな顔をしてやがる。


「やる気のねぇやつを連れて行けと?お前に借りなんて作りたくねぇし、そいつの実力も知らないのに連れて行くメリットが俺にはわからねぇ。」


「お前!」


女が怒りを露わにしたが、それを男が静止した。


「いいんだ、アイリス。じゃあいい方を変えようか。僕はアイリスに魔王討伐の経験を積ませたい。だから連れて行ってはくれないか?実力を示せというのであれば、まだ時間もあるしここで相手をしてくれてもかまわないよ?」


実力を確かめるも何も俺の観察眼を信じるならウサギでも勝てるだろう。手加減してもな。

だからこいつの実力を図るなんて無理だ。

サラがいれば、サラに木の槍で戦わせれば実力も見れるだろうけど、そこまでする価値があるとは思えない。


強いていえばこの男に貸しを作れる程度だが、もう会うつもりもないから無意味だ。


「俺は依頼でもない限り奴隷以外と共闘なんかしたくない。奴隷になるっていうなら考えなくもないが、一度奴隷にしたら解放する気はないぞ?」


女が俺のことを睨んでるが、頼みごとをしてんのはそっちだろうが。態度がなってねぇな。


「やっぱりそこは噂通りなんだね。でもさすがに仲間を奴隷にさせるわけにはいかないから諦めるよ。君とは仲良くなりたいと思ったんだが難しいね。」


「性格が合わないのは仕方ないだろ。話は終わりか?」


「実はもう1つあるんだけど、これは本当は君に知らせてはいけないことなんだ。だから秘密にしてくれよ。」


男は人差し指を口の前に持ってきて、内緒だと示してから言葉を続けた。


「僕たち勇者と騎士はここで待機の指示が出ているから、魔王軍がここまで攻めてくるまで戦えないんだ。だから君には最速で魔王を倒して欲しい。これは僕からのお願いだ。」


こいつは勇者だったのか。そういや俺も日本人かって聞いてきたんだからこいつは日本人なんだろう。

なら勇者召喚されたって気づいてもおかしくなかったな。


それにしてもこの国も腐ってやがる。


でもまだ勇者はまともそうで良かった。召喚紋で縛られてるから何もできないにしてもな。


まぁ俺とは性格が合わなそうだがな。



「その辺りは手を打ってある。ここで待機してても暇なだけだと思うが、まぁ仕事頑張ってくれ。」


「ははっ。胸が痛いけど、ありがとう。」






勇者との話を終え、特別編成部隊と合流した。


女性のみで組まれた騎士っぽい姿の6人パーティーだった。


軽く挨拶を済ませて、用意されていたドライガーに乗って、すぐに魔王が根城にしている落とされた町へと向かうことになった。





目的地まで半分ほど進んだところで、セリナから静止の合図があり、全員止まった。


微かに地鳴りのような音と振動がある。


「たぶん魔王軍が攻めてきてる。」


ここはそれなりの幅はあるが、両脇が森に囲まれた一本道だ。このままだと正面からぶつかることになりそうだ。

まぁセリナとサーシャがいるからなんとかなるとは思うが、危険は避けたい。


「森の中を走るぞ。」


「「「「はい。」」」」


俺らが森の中を走り始めると、特別編成部隊の人たちもなにもいわずについてきた。


というかやっぱりこいつらいらないよな?

まぁ俺らの監視役でもあるんだろうけどさ。




ドライガーは森の中を走るのに適していないのか、速度がだいぶ落ちた。

そりゃ魔王軍に見つからないために少し森の奥を走らせているから足場が悪いし仕方ないか。




魔王軍とすれ違ったことをセリナが確認し、森から出てしばらく走るとひらけた場所に出た。

そこには王都と同じような壁に囲まれた町があった。


落とされた町に到着したはいいが、結構でかい町だな。


こんだけひらけた場所なのに見張りもいなそうだ。

門も開きっぱなしだしな。



門の前まで近づいて振り返った。


「こんなでかい町の中から魔王を探すのか?」


さすがにそれは時間がかかるぞ…。


「魔王の居場所は見つけてあります。案内します。」


今までほぼ空気だった特別編成部隊の隊長らしき女が答えた。


「あぁ、頼む。」


隊長らしき女が先頭を走り始めた。


俺らもドライガーに乗ったまま、隊長らしき女の後ろについて町中を走る。


隊長らしき女は町の真ん中にあるデカい家の前で止まった。

正確には家だっただな。


建物は半壊していてボロボロだ。


「ここです。」


ここですっていわれても、この中を探すのか?

まぁ町中を探すよりはいいか。


俺らはドライガーから降りた。


「じゃあちょっと行ってくるけど、特別編成部隊の人たちはここで敵の増援が来ないように見張っててくれ。」


「え?」


そんな不思議そうな顔をするなよ。

単純にあんたらは邪魔だからここに残ってもらうってだけだから。

それをせっかく気を使っていい方を変えたんだから、素直に従ってくれ。


「しかし、少しでも戦力は多い方が…。」


副隊長っぽい女が食い下がってきた。

めんどくせぇ。


「…増援さえ来なければ魔王の討伐はわたしたちだけで大丈夫です。なので、特別編成部隊の方々の役割は重要になってくるのですが任せてもいいでしょうか?」


「え?あ、はい。」


アリアがうまく隊長らしき女を丸め込んでくれたな。


それじゃあ時間もないし行きますか。

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