第96話



「リキ様。おかえりにゃさい。」


真っ先に気づいたセリナが手を振っている。

それにつられてアリアたちもこちらを向いた。


さっきの子どもは地面に敷いたタオルの上に寝かされてるみたいだ。

手足はちゃんと繋がってるみたいだし、ぱっと見は傷もないな。さすがアリアだ。


ってか寝てるんだよな?もしかして死んでるのか?


「アリア。その子の状態はどうだ?」


「…今は寝ているだけです。外傷は治し、状態異常もないです。」


あとは精神的な問題か。


「ん?どうやって状態異常の有無がわかったんだ?」


「魔法です。フェイバーさんから教わりました。」


いつの間に?ずいぶん仲いいんだな。


「そうか。あと、こいつらもちょっと預かっててくれ。俺は今度こそ金をもらいに行ってくるから。」


引きずってたクズを放り投げ、担いでた女を地面に寝かせてジャージをかぶせた。


俺が放り投げたクズがセリナ以外の他の奴らには何かわからなかったからか、全員の視線がクズに集まり、一部の奴らが不快な顔をし、サラはすぐにそっぽを向いた。


「サラ。これからは俺の戦闘奴隷として戦うことになる。このくらいには慣れておけ。」


「…はいなのです。」


サラは薄めでチラチラとクズを見るが、それでも凄く嫌そうな顔をしている。


まぁこれに慣れれば普通の死体とかは問題なく見れるようになるだろう。

それにしても俺の命令を一生懸命こなそうとするのは凄くいいことだ。


「アリア。その子が起きそうになったらまた眠らせろ。今回のことは全て夢だったことにするのが1番楽だろうからな。村に着くまでは寝かせてろ。何かあったときはセリナ、頼んだぞ。盗賊どもがまだ攻撃するなら殺していい。」


「「はい。」」


じゃあまた盗賊のアジトにでも戻るか。





リーダーもどきに案内させた宝物庫のようなところにはけっこうな金や武器やらが置いてあった。

よくこんなに貯めたな。


金貨はなく、あるのは銀貨と銅貨だけだが、金貨100枚分くらいはあるんじゃねぇか?


武器防具も俺の観察眼に反応するのがチラホラある。


これは当初の予定通り、金を全部回収したら、また野放しにしとく方が金になりそうだな。

だから武器は良さげなのだけもらって、残りは残しておくべきだろう。


「金と良さげな武器防具は貰ってくが、残りの武器防具と食料は残してやる。感謝しろ。」


「え?俺らは捕まって国に売られるんじゃねぇのか?」


国に売るのはあのクズだけだ。他の奴らはどうでも…いや、ただ野放しにするんじゃなくて、条件をつけた方が良さそうだな。


「いや、条件によっては売らないでやる。お前らはどの程度の強さなんだ?」


「前にBランク冒険者を護衛にしてた商人から荷物を奪ったこともあるから、不意打ちならそのくらいのやつは殺せる。正面からで一対一なら俺はCランク冒険者に勝てるかどうかくらいだ。他の仲間はせいぜいDランク冒険者といい勝負だろう。」


この男は初めて会った頃のマリナくらいってことか。


「この森の中に住んでるみたいだが、魔物は倒せるのか?」


森の中は強い魔物が多いから、もしかしたらこいつらは謙遜してるだけで本当はけっこう強いのかもしれないな。


「この森はゴブリンとラビケルくらいしか生まれないから、さすがに倒せる。夜だけ見張りを立てとけば問題はない…です。」


忘れてたならべつに無理して敬語にしなくていいんだが、まぁ立場はわからせておいた方がいいか。


というか森なのにゴブリンくらいしかいないとかあるのか?もしかしてそのゴブリンが強いとか?いや、アラフミナの王都近くの森のゴブリンは弱かったから、そんなに変わらないだろう。

ラビケルは聞いたことある気がするが覚えてないし、こいつのいい方的にゴブリンと大差ないのだろう。


そういや前に王都の近くの森の魔物が強い理由をアリアがいってたな。なんだったか?


…そうだ。瘴気だ。


山頂にいる魔物の瘴気のせいだとかいってたから、ここにはそういうのがいないだけかもしれない。


「ゴブリンって普通の村人でも倒せるくらい弱いのか?」


「普通のゴブリンなら武器を持った大人なら大抵は勝てると思うが、レベルが上がってるゴブリンや進化したゴブリンだとキツいと思うぜ…ます。」


「わかった。とりあえずの条件は俺と俺の仲間、あとは知り合いに手を出さなければ今まで通り好きにやっていいが、武器を持たないやつは殺すな。追加条件があればまたここに来る。」


「…おう。」


「不満なら盗賊なんてやめちまえ。もしくは俺を殺して自由に生きるか。下手に逃げたらどこまでも追うからな。」


まぁ追うってのは嘘だがな。

誰が好き好んでそんな面倒なことするかよ。


「俺らは盗賊としてしか生きられねぇはみ出しもんだ。だからそのくらいの条件なら飲むしかねぇ。」


そういうもんなのかね。


「じゃあ俺はこれで戻るわ。頑張れよ、新リーダー。」


後日俺に金を奪われるためにな。


「あぁ。」


宝物庫の金と良さげな武器防具の何点かをアイテムボックスにしまい、新リーダーと別れてからアリアたちと合流して村に向かった。


ちなみにアイテムボックスに金を入れると金額がわかりやすくなるんだが、盗賊の所持金は銅貨が多いから沢山あるように見えただけで、金貨20枚分くらいしかなかった。

いや、けっこうあった方なのかもな。





ゾンダ村は森に囲まれた村みたいだ。

木でできた簡単な策で囲われているだけで、ゴブリンですらどこからでも侵入出来そうな村だ。


森の中にあるのにこんな造りで怖くないのかね。


よっぽど魔物が少ない森なのか、住んでるやつがみんな強いのか…村の中にいる人たちを見る限り後者はなさそうだ。


ぱっと見の印象はみんな疲れてるって感じだな。やけに表情が暗い。


あとはまだ明るいのに子どもを見かけないな。


冒険者ギルドを探すのは面倒だから、てきとうに聞くか。


一番近くにいたおばさんに声をかけた。


「すまないが、冒険者ギルドと宿屋の場所を教えてもらえないか?」


「ん?冒険者の…ヒィッ!」


おばさんは俺を見た後に俺の後ろのアリアたちを見て、顔を青くして小さな悲鳴をあげた。


おばさんの目線を見るとアリアたちってより俺が引きずってるクズを見てるっぽいな。


「こいつはそこにいた盗賊のリーダーだ。金に変えたいんだがその場所も教えて欲しい。」


吐き気を我慢するかのように口を押さえていたおばさんが目を見開いた。


「盗賊を討伐してくださったのですか?」


「盗賊っていうか、捕まえたのはこいつだけだがな。」


他は雑魚すぎて金にならなそうだったからな。


「私の娘は…娘はいませんでしたか?」


おばさんがしがみついてきた。

ってかいきなり娘とかいわれてもあんたの娘を知らねぇよ。

年齢は30歳から40歳くらいだろうから、全員当てはまる可能性はあるか。


「生きてたのはこの3人だけだ。」


自分で歩いてる裸ローブの女とセリナがおんぶしてる裸ジャージの女、あとはイーラが抱っこしてる裸タオルの女の子を見せた。


あぁ、この反応は違ったみたいだな。

それは俺にはどうしようもない。


おばさんは泣き崩れてしまった。


それに気づいた村人たちが集まってきた。

なんか俺が悪者みたいな雰囲気だから泣くのはやめてほしい。


「どうしたんだ!?なにかされたのか?」


ガタイのいい若い男がおばさんの肩を支えて心配しだした。


「何もしてねぇよ。ただ道を尋ねただけだ。そいつが変に期待して思い通りの結果にならなかったからって泣き出しただけだ。」


本当にいい迷惑だ。

これでも珍しく無償で3人も助けてやったんだ。それ以上を期待するとか図々しいにもほどがある。


「お前…それはうぇっ…人殺しめ。」


ガタイのいい男はクズを見て吐き気を催しているみたいだ。


「は?殺してねぇよ。ほらっ。」


クズの頭を持って前に突き出した。


クズはさっきからずっと唸っているから間違いなく死んではいない。


村人たちが一斉に目を逸らした。

何人かは走って離れて吐いたみたいだ。


「こいつは盗賊だ。子どもにやってたことをそのまま本人にやり返してやっただけだ。」


べつに本当にそういう意図でやったわけではないし、子どもは穴は空けられちゃいなかったがな。

まぁその方が話がややこしくならずに済みそうだしな。


「それでこいつを売る場所と冒険者ギルドの場所を聞いたら泣き崩れたんだ。たぶん生存者に娘がいなかったからだろうが、俺が行ったときには既にこの3人しか生きてなかったからどうしようもない。」


「盗賊を討伐してくださったのですか?」


またかよ。

ギャラリーの誰かの発言みたいだ。


「盗賊じゃなくてこいつだけだ。俺の癇に障ったから捕まえた。」


ギャラリーの一部ががちょっと引いてるようだ。

それでも一部は暗い笑みを浮かべている。たぶんそいつらは被害者たちだろう。


「その者はこの村で買い取ろう。」


ギャラリーを割って歩いてきたのは杖をついたじいさんだ。


村長とかか?


「いくらでだ?」


「金貨3枚でいかがか?町の役所に売れば金貨10枚になるほど有名な盗賊じゃが、この村で買うなら金貨3枚が限界じゃ。だが、できれば譲っていただきたい。」


このじいさんは私的にクズをどうかするつもりっぽいな。

そんな雰囲気をヒシヒシと感じる。


でも、ちゃんと他での正規の金額を告げたうえで安価で譲ってほしいと頼む姿勢は嫌いじゃない。


町までこいつを持ち運ぶのも面倒だし、じいさんに売ってやるか。


「べつにそれでいい。こいつはここに置いとけばいいのか?」


「冒険者ギルドにその男を見せてからでなくてよいのか?」


「は?なぜ?」


「いや、てっきり冒険者ギルドからの依頼で討伐したのかと思ったからじゃよ。」


へぇ。そんな依頼もあるのか。

だったら今から依頼を受けて、すぐにこいつを持ってけばさらに金になるんじゃね?


「…たぶんですがリキ様では受けられないランクの依頼だと思います。逆にその男を討伐したと冒険者ギルドに知らせてしまうと面倒なことになる可能性もあると思います。」


俺の心を読んだのか、アリアが助言をしてきた。

なら余計なことはしない方がいいか。


「いや、これは俺が私的にやったことだから、他言無用で頼む。」


「わしらもその方がありがたい。」


交渉成立ということで金貨3枚とクズを交換した。

クズは村の若いのが荷車でどこかに連れて行った。


「そういや生存者が3人いるんだが、この村のやつらかわかるか?」


じいさんに3人を見せると驚いた顔をした。


「モンジュなのか?」


「お父さん…。」


マジか!?

セリナがおんぶしていた裸ジャージの女がじいさんをお父さんといいやがったぞ?

若干やつれてはいるが、見た目的に30歳くらいかと思ってたが、もっと上っぽいな。


他の2人もじいさんは知っていたようで、全員渡してローブとジャージとタオルを回収した。

ってかこのタオルは買った記憶がないが…まぁアリアが用意してたのだろう。


女の子がやられたことを親には説明して、精神的に不安定になる可能性があることは伝えておいた。余計なお世話だろうが、知ってるのと知らないのとじゃ対応が変わってくるからな。

夢オチエンドにしてやるのが良いことだってある。



じいさんから宿と冒険者ギルドの場所を教えてもらって早々に別れた。


とりあえずは今日は冒険者ギルドで地図を買って行き先を決めるとこまでにして、出発は明日にしよう。


そう決めて冒険者ギルドに向けて歩き出した。






あっ、生存者の親から金をもらっときゃ良かったな。…まぁいいか。たまには純粋に善意だけでやったってことにしておこう。

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