第3話




「銀貨1枚だと⁉︎」


現在、冒険者ギルドの受付で冒険者として登録しようと思い説明を受けていたのだが、登録料として銀貨1枚が必要だといわれた。


金がないから働こうとしてるのに金が必要なのか⁉︎


「はい。冒険者には誰でもなることができる代わりに登録料として銀貨1枚が必要となります。お金が必要となる理由は発行したカードが身分証ともなるためです。」


俺はダメ元で100円玉と500円玉を一枚ずつ取り出して受付に出した。


「これでどうにかならないか?」


「申し訳ございません。アラフミナ王国の通貨でお願いいたします。」


ですよねー。


「今は持ち金がないから金を作ってこようと思うのだが、この辺りに質屋はないか?」


とりあえずこの純金のネックレスを預ければ多少の金にはなるだろう。

あとは働いて稼いで取り返せばいい。


「申し訳ございません。質屋とは何でしょうか?」


マジか。この世界には質屋が存在しないのか。


「なら、アクセサリーなどを売りたいんだが、買取してくれる場所はどこにある?」


「魔物の素材や薬草、薬の買取はこちらで行っております。アクセサリーに関しては武器屋か防具屋、宝石屋での買取となります。武器屋と防具屋はこの建物を出て真っ直ぐ進んだ先の市場の中にあります。宝石屋も市場の中にありますが、一番大きなお店は城門通りにあるところになります。」


「城門通り?」


「お城の正門から貴族門まで続く高級店街が通称城門通りと呼ばれております。」


さすがに高級店街にスウェットとジャージで行くのは気がひけるな。


「どうもありがとう。それじゃあまた後で。」


「お待ちしております。」


お礼をいって冒険者ギルドから外に出た。



市場とは先ほどの肉串屋のおっちゃんがいたところみたいだ。

あの辺一帯が市場となり、その中にたいていの店があるのだろう。

俺はこの世界の文字が読めないから、キョロキョロしながら宝石屋を探す。


冒険者ギルドを出てから10分ほどで宝石屋っぽいお店を見つけた。

とりあえず中に入ると、そこまで高くなさそうなネックレスやブレスレット、指輪などがショーケースに並んでいる。

この世界でもショーケースなんてあるんだな。


「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」


ん?なぜかは分からないがこいつが俺をなめているのがわかる。

こういった店でなめられるのは損でしかない。

だから言葉には気をつけなくてはな。

そういえばこういうときに使えそうなスキルがあったなと思い、スキル画面を開く。


スキル 『観察眼』『識別』『禁忌魔法:憤怒』


あれ?スキルが増えてるぞ?

とりあえず観察眼を使おうとするがやはり何ともならない。

もしかしてこの店員が俺をなめてるって分かったのはこの観察眼のスキルなのか?

だとしたら常時発動型なのかもしれない。

なら識別を使ってみるか。

これは発動できるみたいだ。



…だが何も起こらない。



対象がないからなのかと思い、適当に商品を見て、識別のスキルを発動した。


『純金』


置いてある金のネックレスは純金らしい。

値段を参考にしようと思ったが字が読めない…。


いくつか形は異なるが同じ程度のサイズのネックレスが並んでいるので、それぞれ識別してみた。


『純金』『純金』『混ざり物』『純金』『金メッキ』


混ざり物はまだしも金メッキだと⁉︎


とりあえずそろそろ店員に返事しないと無視してるようになっちまう。


「ちょっと今使ってるネックレスに飽きてきたから売ろうかと思ってね。それにしてもこの店は城門通りのところとは違って様々な物が売ってるな。」


城門通りの宝石屋は行ったことがないがな。

だけど店員の見る目が変わった。

若干訝しんではいるが、なめてる態度ではなくなったようだ。


「当店は貴族の方のみならず、様々なお客様にご利用していただくために高級品からお手頃なものまで用意しております。」


高級品ってのはあのカウンターのところにあるやつかな?

玉が連なったタイプのネックレスが3つ並んでいるが、白いのは真珠かな?白と黒と金の3種類だ。

なんとなしに識別を発動してみた。


『混ざり物』『偽物』『混ざり物』


マジかよ…


「ちなみにこの店で1番高価なのはどれだ?」


ニヤリと笑みを浮かべた店員が先ほど俺が識別した真珠の偽物のネックレスの前まで歩いて行った。


「こちらが当店1番の高級品になります。アラフミナ王国の城下町の近くには海がないため、真珠の価値自体が高いのですが、それをふんだんに使用している最高級品です。」


本気でいってるなら、宝石屋はもう辞めた方がいいな。

まぁでもさっきの笑みを見る限り、わかっててやってそうだがな。


「ほう。この国での真珠の価値が分からないが、一部にしか使ってないネックレスで最高級品とは来る店を間違えたみたいだ。」


店員の頬がピクッと反応した。


「お客様の御慧眼に脱帽いたします。こちらの商品はあくまでサンプルでごさいまして、本物は厳重に保管しているのです。」


ずいぶんと嘘臭いが、まぁこれでもうなめた態度は取らないだろう。


「まぁ別に今日は買い物に来たのではなく、最初にいった通りこのネックレスを売りに来ただけだからかまわない。ちゃんと正規の値段で買い取ってくれるなら他の偽物類に突っ込むつもりはないさ。」


そういって俺は自分が着けているネックレスを外し、店員に渡す。

念のため識別を使うとちゃんと純金と表示された。


「それでは鑑定持ちに鑑定させますので少々お待ちください。」


そういって店員がカウンターの裏に向かった。


それにしても腹が減った。

ってか今は何時だ?

腕時計を見ると12時過ぎだけど、たぶん違う気がする。

噴水広場にいたときからまだ2時間も経ってないと思うけど、そもそもの時間がわからないしな。


「お待たせいたしました。こちらのネックレスは純金であり、精巧な作りにもかかわらず、一切魔法を使用した形跡がないという珍しい物でした。余程の名人の手作りなのでしょう。こちらはどこでお買い求めになられましたか?」


「デパートのセールだけどたぶんわからないと思う。」


デパートのセールで5万もしたのだからそこそこいいもののはずだ。


「申し訳ございません。もし作成者の名前がわかるような物があれば付加価値を付けられるかと思いましたが、なければこちらは金貨3枚での買取とさせていただきます。」


金貨3枚か…安いのか高いのかわからねぇな。

でも嘘はついてなさそうだな。

5万の物が金貨3枚で売れるってことは金貨1枚が日本円で1万円くらいってことか?

まぁいいか。


「わかった。じゃあ金貨3枚で買い取ってくれ。」


さらばだ。

俺の初任給で買ったネックレスよ。


「かしこまりました。今ご用意いたします。」


またカウンターの裏に入り、手提げ金庫のような物を持って出てきた。


「お待たせいたしました。それではこちらが金貨3枚となります。」


店員から受け取った金貨を確認する。

500円玉より二回りくらい大きく、なんか模様と女性の絵が入っている。

念のため識別を発動。


『本物』


金だから純金と出るかと思ったが、本物と表記された。

この基準はなんなのだろう?

疑問に思いつつ、金貨を濡れた財布にしまう。


「そしてこちらは加護付きのブレスレットになります。これからもご贔屓にしていただければ幸いでございます。」


口止め料といったところか。

もちろん識別を発動。


『本物』


「ありがたくいただく。ちなみにこれはなんの加護が付いているんだ?」


「こちらは身代わりの加護でごさいます。ブレスレットに使用されているのはいろいろと混じってしまっている金属のうえ、作成者も無名のため価値はありませんが、身代わりの加護が付与されているので、お客様のお役に立てるかと思います。」


「感謝する。」


早速右腕に付けた。


「指輪も変わった物を着けていらっしゃいますね。これもまた精密な。」


「これは売る気はない。」


歩が誕生日に買ってくれた指輪を売る気はさらさらない。


「左様で御座いますか。それではまたのご来店をお待ちしております。」


宝石屋を出て、先に肉串屋に行こうかとも思ったが、冒険者カードが身分証になるとかいってたからな。先に手に入れておいた方が良さそうだ。

国民健康保険証ならあるけど、この世界では意味なさそうだしな。


冒険者ギルドまで戻ってきて、先ほどのお姉さんのいる受付に向かう。


「金は用意したから、登録をしてくれ。」


カウンターに金貨を1枚置く。


「かしこまりました。先ほど説明した分は省かせていただいてもよろしいでしょうか?」


「あぁ。」


「それでは登録が完了するまでこちらの水晶の上に手を乗せておいてください。その間に先ほど話していない、いくつかの注意事項を説明いたします。」


指示された通りに右手を乗せる。


受付のお姉さんの話を要約すると、冒険者は危険がつきまとうが怪我や死亡に対するギルドからの補償は一切ないとのことだ。

ギルドがしてくれるのは身分証の発行と仕事の斡旋だけのようだ。

その仕事はランクによって分けられている。

上から順にS.A.B.C.D.E.Fとランク分けされ、初めはFからスタートのようだ。

この世界にアルファベットが存在したことに驚きだがな。

仕事は自身のランクとその上下1つのランクの仕事しか受けられない。

自身のランクを上げる方法は2種類あり、1つは仕事を決まった回数こなす。もう1つは試験を受けて合格する。

決まった回数の仕事をしてもランクを上げるかどうかは本人の意思次第だが、試験はランクを上げるつもりでないと受けられないようだ。

他にもいろいろ説明されたが、重要なのはこんなところだろう。

チームを結成出来るみたいなことをいっていたが、そもそも仲間がいないしな。


「それでは最後となりますが、ジョブを冒険者に変更なさいますか?」


「ジョブ?」


「はい。現在は人族となっておりますが、冒険者ギルドに登録をなさいますと変更することが可能となります。

登録時の変更は無料となりますが、後日変更をされる場合は有料となります。

ジョブを冒険者への変更は冒険者ギルドで行っておりますが、人族に戻すや他のジョブへの変更は神殿で行うことになります。」


いや、俺が聞きたかったのはジョブについてだったんだが、聞きたいことが聞けなかったということはこの世界では常識なのだろう。

聞かない方が良さそうだ。


「利点はあんの?」


「ジョブについてはそれぞれにいいところと悪いところがあるため、一概には何ともいえません。ダンジョンに入るつもりでいらっしゃるのであれば、ジョブを冒険者としてレベルを上げておくことをお勧めします。」


ダンジョンなんてのもあるのか。

ちょっとワクワクしてきたぞ。


「後日の変更だといくらすんの?」


「銀貨1枚となります。」


よくわからないからとりあえず人族でレベル上げてから考えるか。


「とりあえずジョブの変更はなしで。」


「かしこまりました。それでは登録は完了となります。身分証はカードとしての発行でよろしいでしょうか?」


「カード以外にもあんの?」


「はい。身体のどこかに魔術紋を刻むことが可能です。その場合は部位欠損でもない限り紛失することはありませんが、勝手に情報を読み取られる可能性があります。カードは紛失する可能性がありますが、専用の水晶でしか読み取れません。」


部位欠損って…


「魔術紋は傷を負っただけで効果を失うのか?」


「いえ、少しでも紋様が残っていれば問題ありません。全てが本体から切り離されてしまうと効果を失います。あとは魔法で消すことも可能です。効果を失った場合は再発行手数料で銀貨1枚いただくこととなります。」


どっちがいいのだろうか?

カードは財布に入れときゃ問題ないけど、魔術紋のが楽そうだな。

でもステータスとか見られるんだとしたら敵に知られるのはまずいな。


「とりあえずカードで。」


「かしこまりました。こちらがカードと銀貨99枚のお返しとなります。」


銀貨100枚で金貨1枚ということか。

というかカードはもう出来てたのか。

これで俺も冒険者か。いや、ジョブを変えてないから冒険者じゃないのか?


「それでは登録の確認のため、こちらの水晶にカードをかざしてください。」


文字が浮かび上がってくるが読めない。

こういうのってそれぞれがわかる文字になるもんじゃないのね。


「リキ カンノ様 人族 ランクFでお間違いないでしょうか。」


なんか名前がカタコトに聞こえるな。

というかこれだけの情報なら魔術紋でも良かったな。


「あぁ、問題ない。」


「それでは終了となります。ご武運を。」


案外あっさり終わったな。

外に出る前に一応掲示板の仕事の張り紙を見てみるが、やっぱり読めないか。

ギルド内のスペースでは仲間内での雑談や仲間への勧誘などをしているようだ。


さっきの受付での説明を聞く限り、冒険者ってのは命の危険があるっていうのによく知らない奴を勧誘なんてできるな。


裏切られたらおしまいなのに…。




とりあえずは腹ごしらえだな。


おっちゃんのところに向かうとするか。

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