第2話




感覚がなくなり、意識が途絶えるのを待っているのだが、砂嵐のような音がなかなか止まない。


これが『死』という感覚なのだろうか?


それにしては意識がハッキリしている。


ん?


そもそも体の感覚があるぞ?

後頭部の痛みがなくなってるから全身の感覚がなくなったと思い込んでいたが、手が動く…。


これなら隼人も殺せる。


まずは状況の確認をしようと薄目を開けてみたが、眩しくてよく見えない。

徐々に慣れてきた目に映ったのは見たことのないガキどもの顔だった。


「!?」


「「「「!?」」」」


ビックリして目を見開くと、それにビックリしたのか俺の顔を覗き込んでいたガキ4人が一歩下がった。


変な体勢で倒れたはずなのに仰向けにされてたみたいだから、死んだと思われて外まで運ばれたのか?


とりあえず起き上がろうとしたところ、段差のある場所だったようで着こうとした右手が空振り、そのままこけて…。


バッシャーン…。


水の中に落ちた。


結果だけをいえば底が1メートルもない浅い場所だったから問題なかったが、寝起きでダイブとか溺れたってしょうがないだろ…。


底が浅いと気づいて起き上がったらガキどもは走って逃げたみたいでけっこう遠くに後ろ姿が見えてるし。


「はぁ…。」


とりあえず状況整理をすると、砂嵐みたいな音の正体は噴水だったようだ。

もちろん俺が落ちたのがその噴水で、どうやら噴水のふちに寝かされていたようだ。


スウェットが水を吸ってめちゃくちゃ重い。

上はTシャツとジャージだからそのうち乾くだろう。


水が綺麗でマジで良かった…。


そして今いる場所は公園…いや、噴水と木々しかないから噴水広場の方がしっくりくる場所だ。

だが一切見覚えがない。


そういえば後頭部の痛みが消えていると思い触ってみるが、血が出ていないどころかコブにすらなっていないみたいだ。


完治する程の長い時間気絶していたとは考えづらいし、もしかして死後の世界とか?


夢の可能性も否定できないが、正直わからないから、しばらく様子を見るか。


というかさっきから目の端に映るゴミのような黒点?が気になってイライラする。


その黒点に意識を集中させると脳に直接情報が流れ込んできた。



神野 力 16歳

人族 LV1

状態異常 なし

スキル 『観察眼』『禁忌魔法:憤怒』

加護 『愛慕』



他にもステータスのような情報が流れ込んできたが、もしかして後頭部を殴られたせいで頭がおかしくなったのか?


「これじゃまるでゲームじゃないか。」


脳に直接情報が入る形に違和感が半端ないと考えていると視界にMP、PPのゲージが現れた。


さっきのレベルやスキル、ステータスも視認できるようになり、思考で操作ができるようだ。


俺はなんとなしにスキルの『禁忌魔法:憤怒』を選択してみるとけっこう長めの文章が現れた。


「これを読めば魔法が使えるのか?」


死後の世界だろうが夢の世界だろうが、魔法があるなら使ってみたいと思うのが普通だろう。


まだ現状把握がほとんどできていないが、興味本位で魔法を使ったって仕方がないことなんだと自分に言い訳をしつつ、詠唱を始めた。


「我願う。古の力にて、度の越えし感情を…。」


目の端にあるMPゲージが凄い勢いで消費されていると思ったら、あっという間に0になってしまった。

そのまま続けようとしたらPPゲージまで減り始め、それに比例するかのように体が怠くなり、危険を感じたために詠唱を中断した。


「もしかして俺は魔法に適性がないとかか?」


いや、禁忌魔法とかなってるくらいだから、この魔法が特別なんだろう。きっとそうであるに違いないはずだと思いたい…。


今の減り方からMPは魔力なんだと思うが、PPはなんだろう?

ステータス確認をしたときには既に少し減ってたしな。

ゲージが減ると体が怠くなるってことは体力的なものかな?


そういやもう1つスキルがあったなと思い選ぼうとしたが何も起こらない。


観察眼っていうくらいだから何かを見ようとしないと使えないのか?

それとも常時発動型とかか?


「ってかこんなことしてないで現在地の確認をしなきゃな。」


とりあえず噴水から出て、遠くに見えるデカい建物の方へ歩き始めた。





10分くらい歩いたところでずいぶんと活気のある場所にたどり着いた。

いろんな店が立ち並び、屋台のようなものもある。


違和感が半端ない。


薄々分かってはいた。

だから死後の世界とか夢の世界とか思っていたのだろう。


まず、人がおかしい。

多少耳がとんがっているくらいならそういう人もいるのだろうと納得もできるが、頭に耳が生えていて、尻尾まであるなんていうのは俺の知識には作り物の世界以外では存在しない。


そして、文字が読めない。

店先や看板に模様があるが、たぶんあれはこの世界の文字なのだと思う。

俺の知識には一切ない模様の羅列でしかない。


それなのに言葉はわかる。

店先のおっちゃんや猫みたいなお姉さんたちの話し声はなぜか日本語に聞こえる。


まぁ言葉が通じるのは幸いだと思うしかないか…。


「とりあえず小腹が空いたな。」


何の肉かわからない串焼きの出店が目に入ったので、それを食べることにした。


「おっちゃんこれいくら?」


「いらっしゃい!この串は銅貨5枚で、こっちの特上は銅貨10枚だ!」


「…銅貨?」


とりあえず財布を出す。

ってかビショビショじゃねぇか!

財布から10円玉を5枚取り出しておっちゃんに渡す。


「毎度!って何だこりゃ ︎どこの国の金か知らないが、これはうちでは使えねぇよ!アラフミナ王国の銅貨で頼むわ!」


聞いたこともない国の名前だ…。

まぁ肉串が50円で買えるなんて思っちゃいなかったがな。


「実はこの国の金がないんだが、他国の人間でも金を稼げる仕事って何かないか?」


「はぁ!?」


ただでさえ強面のおっちゃんが眉間にシワを寄せて俺を観察する。

客に対する態度じゃねぇだろ…ってか金のない俺は客じゃねぇからいいのか。


「確かに見ない服装だな。誰でもなれる仕事っていやぁ冒険者くらいじゃねぇか?」


もう認めよう。

ここは日本じゃないどころか地球上に存在する場所じゃない。

仮に夢なら覚めるまで、死後の世界なら終わるまでは何をするにも金が必要になるだろう。

諦めて生きるために働くしかない。


「どうやったらなれる?」


おっちゃんは少し離れたところにある、城ほどではないがここからでも見える大きな建物を指差した。


「あの建物が冒険者ギルドだ。あとはあそこの受付で聞いてくれ。」


客じゃないのに親切にしてくれるおっちゃんで本当に助かった。

金が出来たら絶対ここに買いにこよう。


「ありがとう!」


おっちゃんにお礼をいい、冒険者ギルドへ向かうことにした。

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