第4話
「おっちゃん、肉串1本と特上2本くれ。」
肉串屋のおっちゃんに注文して、銀貨を1枚渡す。
「毎度!ってさっきのあんちゃんじゃねぇか!もう稼いできたのか⁉︎」
肉串を焼きながら銅貨75枚を返金してきた。
ってことはやっぱり銅貨100枚で銀貨1枚なんだな。
「さすがにまだ登録しただけだよ。」
「じゃあこの金は誰から奪ったんだ?」
確かにちょっと前まで無一文のやつが金なんて持ってたらおかしいわな。
おっちゃんには今持ってないじゃなくてこの国の金がないっていっちまったし。
「持ってたアクセサリーを売って金にしたんだよ。」
「おいおい、それでせっかく手に入れた金を無駄遣いしないほうがいいぜ。」
自分の店の商品を買おうとしてる客に無駄遣いとは凄いこというやつだな。
きっと顔に似合わずいいやつなんだろうな。
「これから稼ぐから大丈夫だ。それにまだ多少の金はあるし。」
おっちゃんが最初に焼けた肉串を渡してくる。
「ほらよ。まずは普通の肉串からだ。」
「あんがと。」
礼をいって齧り付く。
若干かたくて臭みもあるが食べれなくはない。
噛み応えがあって空腹の今にはちょうどいいかな。
「多少の金があるっていってもこれから装備とか薬とか買うんだろう?金は足りんのか?」
「…そうだな。」
全く考えていなかった。
そもそも装備品っていくらくらいするんだ?
「考えてなかったのかよあんちゃん。はぁ…しょうがねぇな。ここで会ったのも何かの縁だ。こっから冒険者ギルド側に歩いて最初にある武器と防具の総合店でカザエルの紹介だって伝えろ。多少は安くしてくれるかもしれねぇ。少なくともぼったくられはしねぇはずだ。ちなみにカザエルってのは俺の名前だ。」
なんて親切なやつなんだ。
今日初めて会ってちょっと話しただけなのにこんなに優しくするなんて、普通は詐欺を疑うな。この顔だし。
でも、識別スキルによると『味方』と表記された。
顔の印象で疑ってすまなかった!
「何から何まで恩にきる。」
これからは何かあるたびにここで肉串を買おう。
おっちゃんが特上の肉串を1本渡してきた。
「いいってことよ!ほらよ。特上1本目だ。」
さっきの肉串はとっくに食べ終わっていたので、特上に齧り付く。
「何これ⁉︎うめぇな!」
「だろ?肉がいいってのもあるけど、俺の焼き加減が絶妙だからな!」
本当に美味くて、もう食べ終わってしまった。
「おっちゃん、顔に似合わずやるな!」
「顔は関係ねぇだろう!」
上機嫌だった親父がビックリした顔で怒鳴ってきた。
なかなかの迫力だ。
「悪い悪い、失言だ。ってかこれって何の肉?」
「最初のがラビケルの肉で、特上がカウブルの肉だ。」
聞いといてなんだが全くわからんな。
牛とか豚とかいわれることを期待した俺がバカだったわ。
そんな雑談を交わしながら最後の肉串を食べて、おっちゃんとは別れた。
おっちゃんがいってた武器防具の総合店に着いたのだが、ここでいいのか不安になる小ささだ。
入らなければどうにもらないし、とりあえず入っていく。
「いらっしゃい。」
声のする方を見ると、レジっぽいところに座るおっさんがいた。
おっちゃんよりも少し年上っぽいおっさんだ。
元気がなさそうだからおっさんに感じてしまうがさすがに本人を前におっさんとは呼べないな。
おっさんに近づいて、確認のためにまずは挨拶をしてみるか。
「どうも!カザエルさんの紹介できたんだけど、この店であってる?」
「敬語も使えねぇガキなんか紹介しやがって。おい、坊主。金はあんのか?」
なんだ?ずいぶん口の悪いおっさんだな。
俺も人のことはいえないけど。
「なくはないがあまりない!そもそも武器や防具の値段の基準を知らんから所持金が足りるかわかんねぇ。」
「値段の基準ったってピンキリだからな。店内見回って欲しいの持ってこいや。値引きできるやつなら値引いてやっからよぉ。銅貨しか持ってねぇならその樽の中から探せや。サービスでどれでも1つ銅貨20枚で売ってやらぁ。」
口は悪いけど一応紹介サービス的なのはしてくれるつもりなのか。
店内を見て回るが、狭いからすぐに一周してしまった。
気になったのはいくつかあったが、大剣とか斧とか盾なんて使ったことないし、最初から持ってても使えなさそうだから除外した。
普通の剣や槍なら使えるかもと思ったが、しっくりくるのがなかった。
残りの気になったのはまずはガントレットだ。
殴り合いなら今までやってきているから1番しっくりきそうな気がするし、観察眼のスキルなのか、このガントレットは良い物な気がする。
次は短剣だ。
確かに刃物は欲しいなと思う。
短剣なら持ち運びに便利そうだし、扱いやすそうでもある。
それにこれも良い物な気がする。
あとはチェインメイルとかブーツとか指輪にピアスにハチマキ…これらは後回しでいいだろう。
武器を買って、金に余裕があれば買えばいいか。
「まずはこのガントレットとこの短剣が欲しい。」
親父は商品を見てから俺を舐めるように見る。
「坊主は目利きができるのか?」
観察眼のことか?
でも良い物の気がするだけで、どう良いのかはわからないんだよな。
「まぁ、なんとなく良い物な気がする程度にって感じだがな。」
「その通り、この2つは加護付きだ。だからこれ以上は安くできねぇんだ。そん代わりにベルトをサービスしてやるよ。合わせて銀貨50枚だ。」
2つで銀貨50枚⁉︎
これは買いだろ!
「ベルト?」
「武器を付けるベルトだ。もしかして坊主は武器を手に持ったまま街を歩くつもりってぇのか?」
なるほど。あまり周りは見てなかったが、さすがに武器を持ち歩いてるやつはいなかったな。
「じゃあお言葉に甘えておくわ。ちなみにこれらはなんの加護なんだ?」
「ガントレットは軽量の加護だ。素材が鋼だからけっこう重てぇんだが、加護のおかげで重さをあんま感じねぇ。短剣は血避けの加護だ。所持者が意図的に触らねぇ限り血に触れねぇってものだ。武器が錆びねぇから使わなくても持ってた方がいいぞ。つっても短剣も鋼だから壊れねぇ限りはずっと使ってても問題ねぇがな。」
なかなか優秀じゃねぇか。
銀貨50枚ならまだ余裕があるし、チェインメイルとブーツも聞いておくか。
「ちなみにこの2つはいくらだ?」
「坊主はうちから良い物だけ持ってくつもりか?このチェインメイルは銀貨50枚でブーツが銀貨10枚だ。悪いがこれらも値引きは出来ねぇわ。」
他のに比べてチェインメイル高いな⁉︎
「なんでチェインメイルは他の倍額くらいするんだ?」
「こいつは魔鉄を使った鎖でできてんだ。だから防具として優秀なうえに炎耐性の加護まで付いていやがる。完全耐性じゃあねぇんだけど、よっぽどじゃなきゎあ炎によるダメージは受けねぇ優れもんだ。」
マジか。買えなくはないがどうするか。
この後薬とかも揃えなきゃならないからな。
とりあえずチェインメイルは保留にしよう。
「このブーツもなんかあんの?」
「こいつぁ駿足の加護だな。わかりやすくいゃあ足が速くなる。」
なんかこれだけ微妙な加護な気がするが、その分安いし買っとくか。
「じゃあこのブーツもくれ。」
「あいよ。紹介で来たのにたいしたサービスも出来ねぇから、中古で悪いがマジックバックをつけてやらぁ。」
「マジックバック?」
「知らねぇのか?決まった容量までなら荷物を入れても重さの増さねぇバックだよ。」
四次元ポケットの肩掛けバック版かな?
「ありがとな。」
「いいってことよ。金ねぇとかいいながらけっこうな買い物をしてくれた上客だからな。」
親父に銀貨60枚を渡して、ブーツに履き替え、ベルトに武器類を取り付けて、脱いだスニーカーはバックにしまい、店を出た。
空を見るとさっきよりも日が傾いている気がする。
早くしないと魔物狩りにいけないな。
急いで薬屋っぽいところを探すがわからない。
仕方がない…。
「おっちゃん、特上1つ!」
「毎度!ってあんちゃんじゃねぇか!また食うのか?」
「小腹が空いてな。それと薬屋の場所を聞きたくてさ。」
おっちゃんに銅貨10枚を渡す。
「冒険者なら薬はギルドで買った方が安いって聞くぞ?薬の調合の本とか高級品の薬を買うつもりなら、城門通りにデカい薬屋があったはずだ。あと、あそこにも小さいけど薬屋があったな。」
おっちゃんが指差す方を見ると駅中にあるコンビニくらい小さいお店があった。
「おっちゃんマジで助かる!」
「いいってことよ。それより早くしないと夜になっちまうぞ。」
確かに夜になると視界が悪くなって危険だもんな。
「わかってはいるんだけど、準備に時間がかかっちまってさ。」
おっちゃんが焼けた肉串を渡してくる。
「ほらよ。まぁ準備をしっかりやるのに越したこたぁねぇからな。」
肉串を受け取り一気に食べる。
噛まずとも溶けるような柔らかさ。
喉越しがたまらねぇ。
「あんがと。」
あっという間に完食して、薬屋に向かう。
「気をつけてな!」
まずは小さいところから覗いてみた。
扉を開けると草の匂いがした。
それにしても暗過ぎないか?
「いらっしゃいませ〜。」
奥から黒いワンピースを着た女の子が出てきた。
前髪で隠れて顔がよく見れないが、歳は俺より少し下くらいか?
頭にリボンを着けて箒を持ったら宅急便とかできそうだ。
自分で見て回ろうと思ったが、文字が読めないから店員に聞いた方が早いだろう。
「冒険に最低限必要そうな薬と薬草の本があったら欲しい。本は絵付きのがあれば絵付きにして欲しい。」
「冒険者さんが必要なものですね〜。」
店員がふらふらと店内を歩き回る。
覚束ない足取りに少々不安だ。
いくつか商品を持ってレジのような所に戻ってきた。
「まずはポーションと塗り薬ですね〜。ポーションの品質は普通で十分だと思います〜。ポーションは〜戦闘中の外傷や全身の外傷の回復には適していますが〜1度に全量飲まなければ効果が薄くなっちゃうので〜1本で1回分なんです〜。それにたいして塗り薬は〜ポーションほどの即効性はありませんが〜怪我にたいして適量塗るだけなので〜1つあれば何度か使えるんですよ〜。だから塗り薬は高品質がオススメですね〜。あとは〜どんな魔物と戦うかによりますが〜毒消しと麻痺を治す薬はあった方がいいと思います〜。お金があるなら万能薬にするのが楽ですけど〜。初めは毒消しと抗麻痺丸だけで十分かと思います〜。この2つは念のため高品質で揃えるべきですね〜。どちらも命にかかわるので〜。品質普通で完治しないほどの敵に会ったら終わりですからね〜。高品質で治らないほどの敵だったら〜そもそも万全の状態だろうが〜なったばかりの冒険者さんじゃ逃げることすら出来ませんから〜高品質で十分かと思います〜。それと薬草の絵が付いた図鑑はこちらです〜。」
ヤバい…なんだこのトロい喋り方は?
ちゃんと説明してくれたのは助かるが、馬鹿にしてんのか?
「全部でいくらだ?」
「えっと〜。全部で銀貨10枚です〜。」
銀貨10枚か。
冒険者ギルドで買った方が安いって話だったけど、こいつのトロさのせいで時間もなくなったし、銀貨10枚くらいならいいか。
そう思って財布を出そうとしたら、払ってはいけないと直感が告げている。
もしかしてと思い、商品を全て識別スキルで見てみるが、本物のようだ。
品質が違うのか?
だが品質が違うのなら俺には調べようがない。
品質を聞いたうえで識別をして本物となっているのだから信じるしかないだろう。
あと他に違うとしたらなんだ?
「会計の内訳を教えてくれないか?」
「チッ」
「は?」
「えっと〜品質普通のポーションが〜1本銅貨20枚で5本と〜高品質の塗り薬が〜大きめサイズで1つ銅貨30枚で〜高品質の毒消し丸が〜1つ銅貨50枚で3つと〜高品質の抗麻痺丸が〜1つ銅貨30枚で3つと〜絵付きの薬草図鑑が〜銀貨1枚なので〜合計銀貨10枚です〜。」
今こいつ舌打ちしなかったか?
っていうか…
「ボッタクリじゃねぇか!」
「ビックリするので〜大声はやめてくださ〜い。」
「ちゃんと計算しろよ!合計銀貨4枚と銅貨70枚だろ⁉︎」
「えっと〜。う〜んと〜。本当ですね〜。計算間違えてました〜。ごめんなさ〜い。」
馬鹿すぎるだろと思ったが、なんか違和感があるぞ?
すると勝手にスキル画面が開いて、識別の部分が点滅していたので選んでみた。
『ダウト』
嘘まで見抜けるのかよ!
「ってか演技かよ!」
「え〜。何いってるのかわかんないし〜。」
天然系のトロい喋り方からギャルみたいな喋り方に変わってるし、ぼったくろうとしたときだけじゃなくて、そもそものキャラが演技なのかもな。
「嘘ついてんのはバレてんだよ。まぁちゃんとしたの売ってくれりゃもういいわ。」
銀貨5枚を渡して銅貨30枚を返してもらう。
カウンターの上に置かれている薬類をマジックバックに入れていく。
「あーあ。冒険者のくせにわざわざ薬屋で薬を買う馬鹿だから騙されてくれると思ったのに、算術できるなんて予想外だったな〜。」
ぶっちゃけ過ぎだろ。
というか冒険者ってこんな計算も出来ないとか思われてんのか?
それともほとんどの冒険者が本当に計算出来ないような脳筋どもなのか?
「というか客に向かってその態度はないだろう。」
「だって私は店員じゃないし。」
「は?」
「ここはおばあちゃんの店だけど、今出かけてるから店を閉めてたのに、閉店の看板を無視して入ってきた奴がいるから、文字も読めない馬鹿ならぼったくってやろうと思ってさ。」
確かに文字は読めないし、閉まってる店に入った俺も悪いな…。
ってかあんなに長ったらしく説明したのは馬鹿だから知らないかもと思って説明してくれたのかもな。
だとしたら案外優しいのかもしれない。
どうでもいいけど。
「それはすまんかったな。でもボッタクリはやめとけ。いつか痛い目見るぞ。」
カバンを背負い直して出口に向かう。
「心配どーも。騙そうとしたお詫びに1つアドバイスをしてあげるね。ダンジョンに入るときは抗麻痺丸は口に含んだままにしておくのをオススメするよ。うちのはコーティングしてあるから唾液じゃ溶けないし、麻痺になったらすぐに噛み砕けばほぼノータイムで復活できるから。あとは麻痺を使ってくる強敵と戦うときは飲んでおいた方が良いよ。麻痺になる前に飲むと効果は薄まるけど、しばらくの間は麻痺になっても完全に動けなくなるのに時間がかかるようになるから、その間に別の抗麻痺丸を齧れば治せるから。」
これは助かる情報だな。
「あんがと。あと、質問なんだが、薬草でも食べれば効果はあるのか?」
「あるにはあるけど、必要量を食べるのはけっこう辛いよ?」
「そうか。いろいろありがと。じゃあな。」
「御武運を〜。」
薄暗い店内から外に出ると、オレンジ色の綺麗な夕日がやけに眩しく感じる。
ってもう夕方じゃねぇか!
せっかく準備を整えたんだから意地でも魔物退治に行ってやる。
夜になる前に終わらせるため、急いで街の外へ向かった。
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