第22話 お葬式と真昼の月
司の言った通り、司のお父さんとお母さんが中心となっておじいちゃんのお通夜、お葬式は粛々と進められた。
島中の人が来てくれたんじゃないかと思うほど、沢山の人がおじいちゃんにお別れを言いに駆けつけてくれた。
大貫さんも、田所さんも、服部さんも……みんなおじいちゃんのために泣いていた。泣いて、そして怒っていた。早すぎる、と……。
その涙に……おじいちゃんはこんなにも沢山の人に愛されていたんだと――悲しいはずなのに、胸があたたかくなるのを感じた。
夜、最後までいてくれた司の家族が帰ると……家の中はシンと静まり返った。
さっきまでの
電気の消えたおじいちゃんの部屋は……いつも通りなのに、そこにおじいちゃんがいないだけで随分と寂しげで……。
つい先日まで、そこにおじいちゃんがいたのに。しょうがないな、なんて言いながら笑っていたのに、今はもう――。
「明莉」
北斗の声がするけれど、身体が重くて振り返ることができない。
どうして私はここにいるんだろう。
お父さんもお母さんもおばあちゃんも……そして、おじいちゃんまでもいないのに。
どうして私だけ、ここで生きているんだろう……。
「明莉……」
北斗が私の身体を抱きしめてくれる。
心配してくれているのは分かる。
でも……今は、まだ何も考えたくない。
「ごめんね……」
北斗の手をそっと振りほどくと……私は自分の部屋へと向かった。
***
あの日から、北斗が私のことを心配そうな目で見つめているのはわかっていた。
何か言いたそうにして、そして口を噤んでいることも。
それでも、私は今でもおじいちゃんの死から立ち直れずにいた。
そういえば――この数日は、一言も北斗と話をしていない。
私から話しかけることはないし……北斗からも、なかった。
忌引きが明けた日から、私はがむしゃらに働いた。仕事をしている間だけはおじいちゃんのことを考えずにいられたから。手を動かしていれば、その間だけは涙が溢れずにすんだから。
私が休んでいる間も課長たちが企画を進めてくれていたようで、机の上には刷り上がったポスターが、パソコンの画面にはできあがったツアー用のページが表示されていた。
「なんとか間に合いそうでよかったな」
「課長」
「いや、正直なところあんな時期にこの夏の企画を持ってきたところで間に合わないだろうと思ったんだけど、やってできないことはないんだな」
苦笑いをする課長の目にくっきりとわかるほどの隈があった。それを見ると、申し訳なくなる。全ては私が観光課を潰したくないというわがままからはじまったのに、結局周りのみんなに迷惑をかけて……。
今も問い合わせの電話を受けてくれている同僚を見て、本当にこれでよかったのかと胸が痛んだ。
そんな私の頭を、課長がコツンと叩いた。
「そんな顔してる暇があったら手を動かす」
「はい……」
その通り過ぎて何も言えなくなった。
今私がしなければいけないのは落ち込むことでも凹むことでもない。みんなが頑張ってくれているこの企画を成功させることなんだ。
「このポスター、各所に貼ってもらってきます」
「おう、いってらっしゃい」
机の上に山積みになったポスターを手に、私は役場から飛び出した。
向かった先は、フェリー乗り場だった。島に来るには必ずこのフェリー乗り場を経由する。ここに貼ればきっとたくさんの人の目に留まるだろう。今年は無理だとしても、もしかしたらこのポスターを見て来年もやって欲しいという声が届くかもしれない。
この企画を今年だけのものとして終わらせたくない。できれば来年、再来年……この島といえば、天然のプラネタリウムが見られる島としてみんなに認知して欲しい。そうすれば、きっと観光客で賑わうようになるから。
「おはようございますー」
「お、明莉ちゃん。おはよう」
「これ、貼らせてもらってもいいですか?」
「おう、いいよ」
フェリー乗り場で働く真島さんは、ニッと笑うと私の手からポスターを一枚受け取り切符売り場の窓に貼ってくれる。私も、掲示板に貼らせてもらうとようやく、実際に企画が形になるんだと実感が湧いたような気がした。
「これ、明莉ちゃんが企画したんだって?」
「あ、はい。その、観光客の人にこの島を訪れて欲しくて」
「わかる。俺もこの島にたくさんの人が来てくれる方が仕事に精が出ていいよ」
真っ黒に日焼けした腕で私の背中を叩くと、真島さんは豪快に笑った。
真島さんにお礼を言うと、私はフェリー乗り場を後にした。次は民宿とホテルだ。
島を歩きながら、こうやって一人で昼間に歩くのは久しぶりだなと思う。平日は職場にいるし、休日は――最近じゃあずっと北斗と一緒だった。そして、その前はおじいちゃんと……。
鼻の奥がツンとするのをごまかすように私は空を見上げた。
真っ青な空には雲一つない。薄らと見えるのは真っ白な月。きっと今日もあの月と、そしてたくさんの星が綺麗に輝くのだろう。北極星も、そして北斗七星も――。
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