悪人なんてこんなもんよ。

@bustar1227

第1話

黒岩組の事務所の前に

2人の刑事が張り込みをしている。

女刑事のヨシノと新米刑事のタクである。

タクは話しかける。

「いい事を昨日、思いつきまして」

「何よ」

「昔、禁酒法ってありましたよね」

「あったわね」

「マフィアは必死で酒を集めて、秘密裏に酒を提供して儲けていたと」

「今思うとアホくさいことをしたものね」

「そうなんです!法律が幼稚になれば、アイツらのする事も幼稚になるんですよ」

ヨシノは静かに笑っている。

「グッドアイデアよ、タク」

タクも笑う。








ある朝、黒岩組の事務所の前にトラックが止まる。

黒布をかぶせた箱を、組員らは急いで運んで行く。

事務所の中に溢れるのは、美味しそうな朝ご飯の匂い。

なんとも平和な匂いである。

やがて組員らは黒布の箱から、納豆やら豆腐やら、今日の朝ご飯に並ぶ食材を忙しく取り出す。

「おい、味噌汁の準備はできてるか」

「まだ、出汁を取っています。組長」

「何グズグズしてんだ!さっさと作れ」

台所は割烹着を着た組員で溢れている。

事務所の前は行列である。

近隣の住人による行列である。

「サツに見つかると面倒だ。さっさと入れ」

組員はお金を貰っては食券を渡す作業を繰り返している。

事務所内には長机が並び、食事を取る人々がたくさん見える。

「ここの朝ご飯は格別ね」


「一食、500円は手頃でいいわ」





「ヨシノさん、これは一体どういうことだい?」

長机に、向き合って食事をとる男女。

「デマを流したのよ、朝食禁止法ってね」

「それでこんなにも大人しくなったのか」

「単純なのよ、分かればいいの。

悪人なんてこんなもんよ。」

「そんなもんかい」


「それより署長さん、お味噌汁のお代わり貰ってきてくださる?」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪人なんてこんなもんよ。 @bustar1227

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ