5カオス 家族を描きなさい
いままで読んだことのない小説を読んでみたい――。本読みを自認している人なら、一度ならずそう思ったことがあると思います。実は、私もそうです。
そうした人が、そんなことを考えてしまうのには明確な理由があります。そんな人は、知らず知らずのうちに同じような小説ばかり手にとっているのです。
心当たりはありませんか? ミステリーならミステリーばかり、SFならSFばかり、時代小説なら時代小説ばかりを選んで読んでいながら、「最近の小説は、どれも似たり寄ったりだな〜」と思うこと。実は自分から進んで似たような本ばかり読んでいたことに気づきませんか?
Web小説ではどうですか? 最近、Web小説がつまらないと思いはじめてはいませんか。
まあ、リアルの書籍と違って、タダで読めるカクヨムのような小説サイトでは、つまらないと思ったらすぐに今読んでいる小説を読むのをやめ、次の小説に飛んでいけばよいだけ、「つまらなくて損した」と感じるダメージは少ないのかもしれません。それにしても同じような筋立ての話を読み続けるのは退屈じゃありませんか。
マンネリ――。
読む方としても、また書く方としても、読み飽きた筋立ての小説――マンネリな小説より、読んだことない小説の方が、新鮮な魅力に溢れているのは間違いありません。
『SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録』(早川書房)という本があります。SFの書き方――というより小説書き方の指南書といった趣の本です。
この本は、2016年4月にスタートした「ゲンロン 大森望 SF創作講座」で受講生たちが受けた講義の内容を要約したものですが、毎回、現役SF作家の人が講師にやってきて一つの「お題」を出していきます。
大勢いる講師がいろいろと興味深いテーマで受講生に語りかけている中で、私がもっとも注目したのは、私たちの年代には懐かしいSF作家、新井素子のお題でした。彼女の示したテーマは「家族」。新井素子は家族を取り上げたSFが少ないというのです。これからはもっと家族をテーマにしたSFが書かれてもよいのではないか――というような話でした。
たしかにSFは、未来とか宇宙とかロボットとかを描くもので(テンプレ過ぎ?)、家族をテーマに描くなら現代ドラマって枠組みで書くのが普通かなと思うのです。家族がテーマのSFを挙げなさいといわれても、私の場合、あまり熱心なSFファンでないこともあって、すっと思い浮かぶタイトルがありません。
ならば、家族をテーマにSFを書いてみれば、それが「読んだことのない小説」になるのではないか。ひとつ新井素子の勧めに乗ってみるかと書いてみたのが、拙作『機巧の肖像』です。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886959297/episodes/1177354054886959385
結果的にこの小説、私はとても気に入っていて、昨年は小説公募にもこれで応じました。ま、一次選考にも通りませんでしたけど……(苦笑
家族って人によって、ホントいろいろじゃないですか。自分にとって当たり前の家族だと思っているものが、他の人にとってはとても奇妙だったり、アニメ「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のような「普通の家族」っていう家族の姿は、実は少数派なのではないか、と感じてみたり……。家族っていうのは、そのひとつひとつが「まだ読んだことのない小説」となり得るじゃないだろうかと。
これからも、わが家族にいろいろな角度から光を当ててみた小説を書いていけば、ネタに困ることはないのかなと考える今日この頃です。
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