6カオス 言葉は想像力だ

『がさつな言葉に気をつける』


 小説を書く上で、気をつけなければならない言葉というのがあるように思えてなりません。たとえば、不用意でがさつな言葉です。


 けさ、日本海の排他的経済水域(EEZ)内で、水産庁の漁業取締船と北朝鮮の漁船が衝突した事故がありました。報道されているので、知っている人も多いでしょう。


 ヤフーニュースの記事です。


「第9管区海上保安本部によると、水産庁の漁業取締船と北朝鮮の漁船が衝突した事故で、海上に投げ出された漁船の乗組員のうち20人以上が救助された。」


 このニュースに対するコメント欄の書き込みに、こういうのがありました。


「救助しなくていいのに。船内でテロでも起こされたらどうする。」


 悪意のある、非常に悲しいコメントです。


 残念としか言いようがない。

 さらに残念なのが、このコメントに対して非難が集まるのかと思ったら、同意するコメントの方がはるかに多いということです。


 私たちのなかから、想像力が失われてしまったのかと途方に暮れる思いがします。


 事故にあったとき、20人の人間がどんな恐怖を感じたのか、何十人にもなる彼らの家族がどれくらい不安だろうかとコメントの主は考えてみないのだろうか。国と国とのあいだにどんな軋轢があろうと、彼らがというのだろうか。


 のがさつな言葉が、重ねて別のがさつな言葉を集めている。このことを知って恥じるどころか、むしろ得意に感じているとしたら、本当に残念です。


 悪貨は良貨を駆逐する――といいますが、悪意を善意を駆逐するのかもしれません。


 小説を書こうとしている人は、言葉とは想像力とともにあるものとわきまえなければなりません。小説は言葉で書かれていますが、その訴えたいところは、言葉だけで表現できるものではありません。小説は、ものなのです。


 今日は、とても悲しい思いをしました。

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